新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、多くの中小企業が経営の危機に直面しています。日本の宝である中小企業が生き残っていくために、ITの力をどう活用すればよいのか、会計事務所・税理士として、士業はどんな経営支援ができるのか。本稿では、税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が専門家と対談。

自治体が発信する補助金・助成金・制度融資などの情報をAIが瞬時にマッチングしてくれるシステム「情報の泉」を開発したグランドツーの出口グラウシオ氏に話をうかがってきました。

  • IT×士業の力でコロナ時代の経営支援を推進【前編】


サービスの概要

井上一生氏(以下、井上)――「今日はありがとうございます。早速ですが、出口さんは中小企業の方々にとても役立つシステムを開発されていますよね?」

出口グラウシオ氏(以下、出口)――「今回のコロナショックの影響もあり、中小企業や飲食店、旅館・ホテル、旅行会社、イベント会社の方々は大変苦しい状況が続いていると思います。緊急事態宣言は5月下旬に解除されましたが、すぐに経済が回復するとは思えません。本来は、経営支援をする企業や士業、金融機関の皆様に提供するサービスとして開発したのですが、このような状況で私たちになにができるかを考え、一部の情報を無償で提供しています」

井上――「それが、補助金や助成金、制度融資、給付金、協力金などに関する情報ですね」

出口――「そうですね。開発したのは『情報の泉』というシステムで、会社名や住所、業種、資本金、従業員数などの情報を入れるだけで、申請可能な補助金・助成金などに関する支援情報がマッチングされ、ワンクリックで製本と印刷が可能です。申請実務についても、チャットとタスクの管理機能を付けています。独自のクローリングアルゴリズムを組んでいて、各省庁・地域・自治体(都道府県・市区)が発表している助成金・補助金などの情報を毎朝5:00とお昼の12:00に情報収集しています」

決めたら"やり抜く"ベンチャー精神

井上――「それで、常に最新情報がキャッチアップできるわけですね。どうして開発しようと思ったのですか?」

出口――「中小企業を支えるための様々な支援制度があることは知っていたのですが、『制度はあるけど、正直使えてないよね』と感じていたんです。それが開発動機になっていますね。

2009年頃から、自社の助成金を自分で申請していまして、創業時に助成金に助けられたという思いがあります。2万円くらいする補助金や助成金に関する本を買って勉強したのですが、本には予算割り当てのことなども書かれていておもしろいと感じました。それで、気になったところにマーカーを引いてみたんです。ふと、『この情報を、自動収集できないかな』と思いついて」

井上――「アイデアが降りてきた瞬間ですね。それを実現する行動力が素晴らしいですよね。開発にあたって、苦労はありましたか?」

出口――「それはもう(笑)。システムとアプリの開発には、約3年かかりました。リリースできたのは去年10月で、とても長かったですね。完成前に会社が潰れるんじゃないかとさえ感じました。

開発時は、自治体や省庁、金融機関、他業種企業からヒアリングや意見交換を行いました。それぞれの方々がそれぞれの立場から意見をくださるので、それをまとめるのがとても大変で……」

井上――「すごい精神力ですね……。普通だったら、途中で心が折れてしまいそうです。出口さんは元プロサッカー選手で、挑戦するマインドや感性、忍耐力があることも大きく影響していそうですね。それって、ベンチャー起業家にとって、極めて大切なことですよ」

出口――「そうおっしゃっていただけると嬉しいです。恐縮しちゃいますけど」

コロナ時代を生き抜くために

井上――「本当にすごいことだと思います。システムは弊社でも導入させていただきましたが、中小企業支援の仕組みとして心強いです。出口さんと出会うきっかけは、弊社の社員からの紹介だったのですが、偶然にも弁護士の先生からシステムの資料をその前に渡されていて。補助金・助成金の分野で活動している人は少ないので、緩やかなつながりが以前からあったようですね。中小企業の経営改善に必要なシステムだと直感でわかりました」

出口――「現在、システムには6,900件の情報があります。毎日クローリングしていて、どんどん情報が蓄積されていきます。

数種類の助成金情報だけでセミナー料を取っているコンサルタントの方もいらっしゃるのですが、ベーシックな支援情報だけではなく、最新の情報や該当地域でしか申請できない支援情報もシステムを活用して中小企業の方々に伝えていただきたいと思っています。地域も市区まで網羅できますし、業種や事業規模によって申請できるものは異なるので、常にリアルタイムで申請可能なものだけ情報を抽出できるのが強みです。中小企業の方々には、もっと補助金や助成金などの制度を活用していただいて、コロナ時代を生き抜いてほしいですね」

(次回に続く…)

執筆者プロフィール : 井上一生

税理士、行政書士、ロングステイアドバイザー。税理士でありながら、幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家。SAKURA United Solution代表(会計事務所を基盤に、国税出身税理士・税理士・社会保険労務士・行政書士・弁護士・銀行出身者などを組織化した士業・専門家集団)。SAKURA United Solutionのビジョンである「経営の伴走者 ~日本一の中小企業やスタートアップベンチャーの支援組織になる~」という言葉の基、"100年企業を創る"という壮大な目標をアライアンス戦略で進めている。