新型コロナウイルスが国内で猛威を振るい始めた3月以降、「免疫力」なる言葉を幾度となく見聞きした人も少なくないだろう。免疫とはいわば、細菌やウイルスから私たちの体を守ってくれる防御システム。この免疫の力がどれだけあるかによって、さまざまな疾患に罹(かか)るリスクが変わってくる。

そして、その免疫力を高めるために重要となってくるのが腸内細菌だ。毎日の食事でおなじみのビフィズス菌や乳酸菌もこの腸内細菌の一種であることは広く知られているが、具体的に腸内細菌がどのように私たちの健康に寄与しているか、その仕組みまできちんと把握している人となると、その数はぐっと減るのではないだろうか。

新型コロナウイルスによる脅威が当面は続くことが予想されるときだからこそ、腸内細菌と健康の関係性について正しく理解しておく必要がある。そこで今回、管理栄養士の真野稔子さんに話をうかがった。

  • 免疫力と関係してくる「腸にいい食べ物」とは?

腸内細菌と健康の関係性とは

厚生労働省によると、人の腸内には約1,000種類、100兆個もの腸内細菌が生息すると考えられている。これらの無数の腸内細菌は「腸内細菌叢(そう)」、あるいは「腸内フローラ」と呼ばれている。

そして、ヒトの腸内細菌は「善玉菌」と「悪玉菌」、さらにはそのどちらにも属さない中間的立場の「日和見菌」の3つに大別できる。

「腸内細菌の中で最も数が多いのが日和見菌で、次に善玉菌が多く、悪玉菌は少数です。これらの菌は腸の中で互いにバランスをとっており、その種類は個人によって異なります。さらに食事・人種・在住国などにおいても異なりますが、自分の持つ腸内細菌は増減はあるものの、一生を通じて菌の種類はほとんど変わらないことも報告されています」

悪玉菌が増えると免疫力が低下する

腸内細菌のバランスは日和見菌60%、善玉菌30%、悪玉菌10%が理想とされている。ただ、日和見菌は善玉菌にも悪玉菌にもなりうる可能性を秘めている菌であり、腸内環境にとってよくない食生活を続けると日和見菌が悪玉菌へと変化し、以下のようなさまざまな不調が体に表れてくる。

・腸内環境が悪くなる
・便秘や下痢になる
・肌荒れ
・疲れ
・免疫力低下

「悪玉菌の増える原因としては『たんぱく質や脂質が中心の食事』『不規則な生活』『各種のストレス』『便秘』などがあり、これらの要因が腸内に悪影響を与えることで菌が増えていきます。また、腸内細菌は肥満や糖尿病、大腸がん、動脈硬化症、炎症性腸疾患などの疾患と密接な関係があるとされています」

善玉菌の役割

続いて、善玉菌を詳しくみていこう。善玉菌の代表的なものはビフィズス菌や乳酸菌で、それ以外にもフェーカリス菌やアシドフィルス菌などがある。

乳酸菌は発酵によって糖から乳酸をつくる微生物を指す。腸内で悪玉菌の繁殖を抑え、腸内環境を整える役割を持つ。

ビフィズス菌は乳酸菌の一種で、乳酸菌が乳酸をつくりだすのに対し、ビフィズス菌は乳酸に加え酢酸もつくりだす。この酢酸が腸内を酸性にすることによって、悪玉菌の増殖が抑えられて腸の運動が活発になり、食中毒菌や病原菌による感染の予防や、発がん性を持つ腐敗産物の産生を抑制する腸内環境がつくられると考えられている。

アシドフィルス菌は乳酸菌の中でも特に乳酸をつくる能力にすぐれ、悪玉菌の増殖を抑える働きがある。フェーカリス菌は腸内での増殖が速い乳酸菌で、ビフィズス菌やアシドフィルス菌の増殖をサポートする働きを持つ。

さまざまな効能を持つ優れた乳酸菌を紹介

上述のように、免疫力を高めるには腸内細菌の悪玉菌を増やさず、善玉菌を増やすことが肝要になってくるというわけだが、善玉菌の中でもとりわけ重要な存在となるのは、悪玉菌の繁殖を抑える役割を担っている乳酸菌だろう。

特定の乳酸菌には「インフルエンザ予防」などの効果が見込めることもあり、近年では乳酸菌やビフィズス菌を機能性表示食品や特定保健用食品などに活用する食品メーカーも増えてきた。

以下に各メーカーが医学的根拠を保有している菌および期待できる効果をまとめたので参考にしてほしい。

■ラブレ菌(インフルエンザ予防)
カゴメによると、栃木県の小学生約3,000名を対象にした試験で得られたデータを解析したところ、約2カ月間にわたりラブレ菌を含む飲料を飲んでいたグループは、飲まなかったグループに比べインフルエンザ罹患率が有意に減少していたという。

■ビフィズス菌BB536(整腸作用)
森永によると、排便回数が週3回以下という便秘傾向がある30名が30g、もしくは100gのビフィズス菌BB536を含むヨーグルトを4週間摂取したところ、どちらのグループでも摂取を開始した1週間後から排便回数が増え、便の性状が改善されたとのこと。

■乳酸菌B240(IgA抗体増加)
IgA抗体は、細菌やウイルスが体内へ侵入するのを防ぐ役割を持つ。大塚製薬によると、健康な女性30名を2グループに分けて乳酸菌B240(20億個)を含有した水、もしくはそうでない水(プラセボ)を21日間摂取させたところ、乳酸菌B240を摂取したグループでは唾液中のIgA分泌量が有意に増加していたという。

■乳酸菌1073R-1(風邪罹患リスクの低下)
明治によると、山形県に住む70~80歳の健康な高齢者57名らに乳酸菌1073R-1株を使用したヨーグルト(90g)、もしくは牛乳(100mL)を一定期間毎日摂取してもらったところ、ヨーグルトを食べたグループでは風邪罹患リスクが有意に低減したとのこと。

手軽に乳酸菌を摂取できる食品は?

毎日食べる食事の中で無理なく乳酸菌を摂取することが腸内環境の改善に寄与し、ひいては免疫力のアップにつながってくる。

では、身近な食品として何を食べればよいのだろうか。真野さんはぬか漬けやすぐき、納豆、キムチなどの発酵食品がおすすめだと話す。

以下が乳酸菌を手軽に摂取できる食品の一例だ。

・ぬか漬け
・すぐき
・すんき漬け
・みそ汁
・納豆
・キムチ
・ザワークラウト
・チーズ
・ヨーグルト
・甘酒
・乳酸菌飲料

「乳酸菌はヨーグルトやチーズ、漬け物などの発酵食品の製造において使われています。乳酸菌やビフィズス菌などは腸内である程度の期間しか住み着くことができないため、こまめに摂取することが大切です。ただし、日本人は乳糖不耐症などもあるため、植物系乳酸菌の方が体に優しいのでぬか漬けやみそ、納豆、甘酒などをお勧めします」

下痢や腹部のけいれん痛を起こす乳糖不耐症のリスクがあるため、日本人には発酵食品のヨーグルトやチーズはあまり推奨できないという。ヨーグルトやチーズなどは乳糖の一部が分解されていることもあり、嗜好品としてはいいものの、毎日は控えた方がいいとのこと。

並行して、善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖を含んだ「プレバイオティクス」の摂取も推奨している。乳酸菌とプレバイオティクスを一緒に摂取すれば、より効率的に善玉菌を増やせるからだ。

食物繊維は野菜類や豆類、いも類、海藻類、きのこ類、果物類などに含まれており、オリゴ糖は玉ねぎやごぼう、ねぎ、にんにく、アスパラガス、バナナ、大豆などに含まれている。

「例えば、納豆+キムチ、みそ汁+きのこ、ヨーグルト+バナナなど 自分の定番の組み合わせを2~3種類みつけておけば、簡単に摂ることができ、相乗効果も期待できるのではないでしょうか」

万病予防は毎日の食事から。自分ができる範囲から腸内細菌改善に努めていくのがいいだろう。