一時的な業績不振を理由とする不当解雇など、新型コロナの影響による労働問題が様々なメディアで報じられた。働く人たちの立場が危ぶまれる状況下で大切な役割を発揮しているのが労働組合だが、日本で初めての組合費無料のオンライン労働組合「みんなのユニオン」にも、多くの労働相談が寄せられている。

弁護士事務所「アトム法律事務所弁護士法人」とIT事業会社「ユーチューバーNEXT」が協賛する「みんなのユニオン」。今回は、同ユニオンの顧問でもあり、「ユーチューバーNEXT」の代表弁護士である岡野武志氏に、オンライン労働組合の特徴や実際に寄せられている相談内容などをうかがった。

  • 初のオンライン労働組合「みんなのユニオン」の取り組みとは

オンライン労働組合「みんなのユニオン」とは

みんなのユニオンの活動報告を、動画コンテンツとして自身のYouTubeチャンネルで配信している岡野氏。YouTubeというツールを最大限活用しながら問題を提起し、情報発信を行うことで、同ユニオンでは独自の様々なメリットを実現した。

「当ユニオンの最大の特徴は組合費の有無です。従前の労働組合であれば、組合費として月額数千円を納入するのが一般的でした。みんなのユニオンの場合、活動がオンライン限定になる代わりに、組合費が『永久に無料』であるため、金銭的な負担を気にすることなく組合を頼ることができます。組合費が無料である以上、活動に限界はありますが、従前の労働組合とシチュエーションによって使い分けることで、低コストで問題解決を図ることができます」

みんなのユニオンは正規・非正規、現在無職の人も含め、全ての労働者が加入できる上、脱退も自由で他の労働組合との併用も可能。さらに、労働者の負担となる「組合の手伝い」義務もなく、「必要なときに必要なだけ」利用できるという、新しい形の労働組合となっている。

寄せられる相談は様々、それに適した対処を行う

岡野氏のYouTubeチャンネルの登録者数は現在4万人を超え、ユニオンの組合員数は、今年2月15日に発足してから3ヶ月ほどで400人を突破した。

「組合員の方は大手企業の正社員から学生アルバイトまで様々。寄せられる相談としては、非正規社員(特に派遣社員、契約社員)からの相談が多く、動画などで自分の問題が取り上げられた喜びの声をいただいています。2012年に労働契約法及び労働者派遣法が改正され、非正規社員の立場が強化されましたが、未だに法規制が社会に浸透していない部分も多く、当ユニオンとしても非常に問題視しているところです。コンプライアンス違反の会社も多く、経営陣には社内環境の法令遵守にも力を入れてほしいと感じています」

みんなのユニオンで利用可能なサービスのひとつ「通知書送付サービス」では、匿名で企業に労働状況の改善を求めたい労働者を支援。通常、弁護士に対応を依頼すると5万円程かかる費用を無料にすることで、これまで泣き寝入りせざるを得なかった法律違反、コンプライアンス違反の是正を要求しやすい環境を整えている。

相談者が直接ハラスメントを受けた場合のみならず、社内で同僚への不正を目の当たりにした際などに、みんなのユニオンへ通報すれば、提携弁護士がその行為の違法可能性を判断。疑わしい点がある場合、企業に事実確認と改善を要求する「通知書」を相談者の名前を伏せてユニオン名義で送付する仕組みだ。

「パワハラ案件についてはYouTubeチャンネルでも多く取り扱っており、通知書を送付することで会社側弁護士から『再発防止に努める』旨の回答書を複数得ています。また、非正規労働者の方々などの解雇や雇い止めに対しては、会社に異議を申し立て、従業員たる地位を失っていないことを主張し、賃金(バックペイ)を中心とした解決金を求めていくことになります」

新型コロナウイルス関連の相談も増加

加えて、新型コロナウイルスに関連して増えている相談については次のように紹介した。

「コロナ関連では内定取消し、解雇、退職勧奨、雇い止め、派遣切りの相談が増えました。企業側も事情が厳しく、コストカットのニーズ自体は理解できますが、手続き的に違法・無効な解雇等の処分が多いです。この場合、労働者側としては会社に対して、引き続き(トラブル解決までの)賃金を請求することができます。会社としても、法律的に正しい解雇等の処分をしないと、ケースによっては年収相当額以上の解決金を払うことになります。コロナが深刻になったのが春ということもあり、新入社員からは就職時期の延期や内定切りの相談が多く寄せられました。内定取り消しについても、不当解雇の場合と同様の問題点があり、会社に対して解決金の支払いを求めていくことになります」

影響力拡大のため100万人の加入を目指すみんなのユニオンでは、今後、コロナ不況のリストラ問題に特に注力していくという。

「失業率が例年の2.5パーセントから、リーマン・ショック時の5.5パーセントに上がるだけで、全国に180万人程度の失業者が出ることになります。その失業に至る過程で、違法・無効な解雇、合意退職、雇い止め、派遣切りも多く存在する。特に非正規社員の方は立場が弱いので、力を入れて取り組んでいきたいです」

1人で職場環境に悩みや不満を抱えている人などは、ぜひ公式ホームページや岡野氏の動画チャンネルをチェックしてみてはいかがだろうか。

取材協力 : 岡野武志

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、司法試験に合格し、アトム法律事務所を創業。 18歳で高校を卒業し、28歳で司法試験に合格するまで、バーテンダー、各種工事の現場作業員、人材派遣コーディネーターなど、数々の仕事を経験したことが今の仕事の下地となっている。NHK「ニュースウォッチ9」などメディア出演多数。テレビドラマや映画での法律監修なども多く手掛ける

・公式HP : みんなのユニオン
・Yutube : 「タケシ弁護士」