新型コロナウイルスの影響で、SNS上では自宅でいかに楽しく過ごすかの「#おうち時間」や、新ドラマの放送延期を受けて様々な過去作が再放送されることで「#再放送希望」というハッシュタグが流行中だ。

そこで、テレビドラマの脚本家や監督などの制作スタッフに精通する「テレビ視聴しつ」室長の大石庸平氏が、外出することを忘れるほど熱中してしまうおすすめのテレビドラマや、再放送してほしい思い出深い作品を紹介する。

今回は“刑事ドラマ”。刑事ドラマの再放送といえば、テレビ朝日が午後に放送している『相棒』シリーズがおなじみだが、今回は多くの視聴者が熱狂した王道作品から、警察との攻防を描いたちょっと変わった意欲作まで、バラエティに富んだ作品をセレクトしてみた。

■エンタメ作品のお手本がたっぷり…『踊る大捜査線』

織田裕二

王道中の王道で、30代以降の人にはおそらく説明不要のヒット作だが、“今だからこそ”少し深みをもって楽しめるとおすすめしたいのが織田裕二主演『踊る大捜査線』(97~12年、フジテレビ・劇場版)だ。

刑事モノの定番“本庁と所轄の対立”はこのドラマから始まっており、刑事も1人のサラリーマンという視点が当時は画期的だった。“誰が犯人なのか?”という推理で物語を進行させるのではなく、第1話の象徴的なエピソード「パトカーは事前申請しなければ借りられない」など、組織の中で動くには様々な決まりを守り、権力闘争にも巻き込まれながら、必死に捜査をしていく刑事たちの熱いドラマを描いている。

その“構図”の面白さはもちろんだが、“爆弾処理”や“タイムリミット”、“巧みな伏線”や“縦軸の物語”など、エンタメ作品のお手本がたっぷり詰め込まれている作品だ。

今だからこそ楽しめる要素の1つは、ドラマの舞台。フジテレビ本社が引っ越す直前の東京・お台場地区でロケが行われ、シリーズの変遷を通して街の発展の様子が見られるのだが、劇中で「空き地署」と呼ばれた場所が、時を経た今では東京オリンピックの競技会場になったのかと思うと、歴史資料を見ているような不思議な感覚になる。

また、脚本が今年1月に放送された木村拓哉主演のスペシャルドラマ『教場』を手掛けた君塚良一氏なので、“踊る”でのノウハウがどこに注がれていたのかを見比べてみるのも面白いだろう。

もう1つ、今だからこそ深く心に響いてくるのが、いかりや長介が演じる和久さんが残した名セリフ「正義なんてのは、胸に秘めておくぐらいがいい」。今SNS上で起こっている“正義感の暴走”と照らし合わせずにはいられない言葉で、和久さんのセリフが今になってさらに心に沁みてくるに違いない。

映画版になると“お祭り”要素が色濃くなり、当時の熱狂を知らない人は中々入り込みづらい点もあるが、連続ドラマ単体の面白さはもちろん、スペシャル2本目の『秋の犯罪撲滅スペシャル』から、映画版1作目『THE MOVIE』までの流れは、ドラマ史に残る美しさだ。

時間のある今こそ、連ドラ~スペシャルドラマ~映画化までの流れを再放送で体感したい。映画版は各オンデマンドで提供しているが、FODではスペシャル1作目『歳末特別警戒スペシャル』以外の全て(スピンオフ作品除く)が配信中となっている。

■ピッタリの草なぎ剛×新鮮な西村まさ彦…『TEAM』

草なぎ剛

『踊る大捜査線』の君塚良一脚本作品で、もうひとつおすすめの刑事ドラマとして挙げたいのが、草なぎ剛主演『TEAM』(99年、フジテレビ)。文部省(現・文部科学省)から派遣されてきた“子供は天使”と考えるキャリアの主人公・風見(草なぎ)と、妹に起きた過去の事件から“子供は悪魔”という刑事・丹波(西村まさ彦、当時は西村雅彦)がチームを組み、少年犯罪に立ち向かっていく物語だ。

“踊る”の痛快なテイストとは打って変わって少年犯罪がテーマとあり、善悪では片づけられないかなりシビアな展開もみせるのが特徴。子供を信じるピュアな青年を演じる草なぎが役柄にピッタリなのだが、『古畑任三郎』の今泉慎太郎とは違う、たたき上げの刑事で暗い過去を持つ西村の新鮮なキャラクターも見どころとなっている。

正反対だった2人が、回を追う毎に理解し合い、丹波がようやく子供と歩み寄れるようになった矢先、最悪の事件が起こってしまう終盤のエピソードが衝撃的だった。

また、今作は放送後に、4本のスペシャルドラマが作られているが、連続ドラマで残した“妹の事件”がつながり、その時解決できなかったエピソードを見事に回収させるスペシャル1作目が珠玉の出来。連ドラ版で描いた過去の傷を、時を経た物語で再びえぐってくるというつらいエピソードだが、妹役だった水野美紀の好演が忘れられない。

VHS版しか存在せず配信もされていないので、ぜひ再放送してもらいたい作品だ。