世界中で猛威をふるうコロナウイルスは、さまざまな業界の経営にも多大な損害を与えています。そのなかでも私たちにとって身近な業界のひとつ「飲食店」。そもそも、2年で半分が潰れると言われているこの業界で、どうすれば生き残っていくことができるのでしょうか。
本稿では、税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が"外食繁盛サポーター"として活躍するナレッジ・ネットワークスの中島孝治氏と対談。前回に続き、「飲食店起業で成功し続けるための3条件」というテーマで、話をうかがってきました。
飲食店起業で成功したければ、静かにオープンすべし
井上一生氏(以下、井上)――「中島さんの言葉で印象に残っているのが、『オープンしたら、最初はお客さんがたくさん来ないことを思え』という言葉なんですが、その真意を教えてください」
中島孝治氏(以下、中島)――「はい。それは、大々的にオープンするとヤケドするという意味です。私は、できるだけ静かにオープンした方が良いと思っています。最初のうちは、どう接客したら良いかわからないんですよ。お客さんを持ち上げて接客することが、最初のうちはできません。
例えば、これまで大企業や中堅企業でサラリーマンをしていた人が、脱サラして飲食店を始めたとします。実際に、そういう飲食店オーナーの方は多いです。企業の部長や課長だった人が、急に飲食店で接客する立場になる。そんな人が、お客さんを持ち上げて接客するって、なかなかできないですよ。
脱サラの人は、修行する時間がないんです。本当は、どこかの飲食店で修業してから始めた方が裏側もわかるし良いんですけどね。友人がやっているお店を手伝ってみても良い。けど、それをしないでいきなり起業してしまう人が多いです。特に、脱サラ起業はフランチャイズ加盟して起業するケースが多いですね。
フランチャイズでいくら看板力やマニュアルがあっても、接客は別です。修業が必要だと思います。一度逃げたお客さんを引き戻すのは、新規を1人取るよりも大変なことですから。それに、最初にピークが来ちゃうと、その後お店は伸びないってことです。だから、静かにスタートする方が良いんですよ」
■飲食店起業で成功し続けるための<条件3>
井上――「なるほど。お客さんを持ち上げる接客って、自分にはできないだろうなぁ。『飲食店起業で成功し続けるための3つ目の条件』は、『プライドを持つな』ということですね。特に企業の役職クラスだった人が飲食店起業をする場合は、肝に銘じておくと良いかもしれませんね」
中島――「そうですね。『最初からメンターを持て』『見栄を張るな』『プライドを持つな』の3条件です。改めて考えると、3条件それぞれに今でも学びがありますね。石井誠二さんがいなければ、今の自分はなかったと思います。だから、メンターを持つことはとても大切です。『60歳までに死にそうなことは、あと2回はある』と言われたあと2回も、石井さんの言葉を思い出せば乗り越えられる気がします(笑)
見栄を張るなというのも、本当そのとおりで。最初のうちは、資金繰りを考えないで、どんどんお金を使ってしまう。内装に時間をかけないというのも大事なことです。家賃は、内装工事中も発生するわけですから。私の場合、内装工事に何か月もかけてしまった。フランチャイズのモデル店になるために店舗デザインに凝ってしまったんです。物件オーナーが、『早くオープンしないと、家賃がもったいないよ』と教えてくれるくらい時間がかかりました(笑)」
井上――「オープンまでの段階とオープン後の段階、それぞれお金がかかることを忘れてはいけませんね。オープン前に時間とお金をかけてしまうと、実質オープン半年もしないうちに経営の勝敗が決まってしまう。夢いっぱいで、良い会社務めでたっぷりの退職金。これが危ないですね」
中島――「加えて、危険な要素はたっぷりのプライドですね。あと、『いずれは人に任せてラクしよう』という発想もダメです。自分でやらないと、人に指導もできません」
井上――「なんだか、“飲食店起業のための本音トーク”になってきましたね」
中島――「多少厳しいことも、どんどん伝えないと。もっと生々しい事例も話せますよ(笑)」
「繁盛カレンダー」誕生秘話
井上――「中島さんが活用している『繁盛カレンダー』について教えてください」
中島――「はい。これは順を追ってお伝えしますね。私が南行徳で居酒屋を始めて、でも赤字続きで……つぼ八(当時)の石井誠二さんにアドバイスをもらいました。それで、オープン半年後に現場復帰したんです。そのとき、注文を取るのにハンディーを使ってなくて、手書き伝票でした。手書き伝票だと、『混んでるな。今いくらだろう?』と思っても、会計後の数字しかわからない。でも、オーナーとしてはその瞬間、今いくらかを知りたいんですよ。
飲食店経営って、結局は当日のなかでどうリカバリーできるか? なんです。今いくらで、今日はあといくら必要か? いくら必要だから、スタッフにどう指示を出すか? これが大切なんです。ハンディーなら、オーダーを取った段階で今いくらかがわかる。それで、まずはハンディーを導入しました」
アルバイトスタッフに「数字の意識」をどう身につけさせるか
井上――「日販の目標を、どうやってその日のうちに達成させるか? が肝なんですね」
中島――「そうです。でも、最初はスタッフやアルバイトに数字の意識なんてありませんでした。当然ですよね。それで、みんなが数字を気にするように繁盛カレンダーをつくったんですよ。
日販目標の達成・未達成をゲーム感覚にしていくためには、繁盛カレンダーが必要でした。実際に数字の意識が身につくまでには、半年以上かかりましたね。客数、売上、客単価、累計などを毎日追いかけるゲームです。
その月の目標客単価を設定して、大入り袋を『1日20万円を超えたら500円。30万円を超えたら1000円』という風にインセンティブも設定します。アルバイトのみんながラストオーダーを取りに行く前に、『今日はあと●円』と伝えるんです」
オーナーの想像を超えた! 偉大なアルバイトスタッフの働き
井上――「アルバイトの人にまで数字の意識があるってすごいことですね」
中島――「オーナーの想像を超えることもありました。なかには、『先週は鮭茶漬けだったから、今日は梅茶漬けはいかがですか? デザートはどうしますか?』って、デザートのオーダーまで取ってくるアルバイトもいたんですよ(笑)ラストオーダーって1品だという先入観があった。オーナーの私よりも優秀ですよ」
井上――「それはすごすぎる! リアルタイムで目標達成度がわかるという仕組みも、本当にすごいことですね。会計処理って、月末に締めて、翌月の何営業日かまでに報告するとか、目標達成度も週次で追いかけている業界が多いと思いますけど、飲食店は日次でないとダメですね。スピード感が全く違います」
中島――「飲食店オーナーは、1日に何度も売上を気にしないといけない。何回も見ていると、コツがわかるようになります。『何時までにいくらいっていないと、日次目標を達成できない』という具合に。手書き伝票をハンディーにしたら、自分はその感覚がわかるようになりました。
その習慣や感覚をスタッフに伝えるのに、繁盛カレンダーが役に立ったんです。リアルタイム反映はハンディーシステムを使っていますが、繁盛カレンダーは手書きです。やっぱり、教育は手書きが良いんですよ」
井上――「中島さんはシステム会社なのに、繁盛カレンダーはアナログな手書きというのが良いですね」
中島――「『今いくら? あといくら?』を可視化・共有化するには、手書きの方が効果が出ますね。オーナーの想像を超えたエピソードはまだあって、
0:00がフードのラストオーダー。
0:30がドリンクのラストオーダーで、あと何杯で目標達成できるかを確認しました。
0:50になって、あと10分で閉店のとき、お客さんは2組でした。
目標達成まであと8,000円でしたが、ラストオーダーも終わっていたので私はあきらめていたんです。だって2組のお客さんのうち、1組は伊佐美一升瓶のボトルを入れてくれているお客さんで、まだ残量があったから。
普通、今日は惜しかったなぁってあきらめるじゃないですか(笑)でも、アルバイトの1人が『今日だけ伊佐美を8,000円で売ってきて良いですか?』って提案してきたんですよ。原価率は計算しましたが、それで本当に売ってきたんです(笑)
教育をしっかりすると、オーナーの想像を超えて成果を出してくれるんです。当日の数字をつくること、当日の目標達成すること、優秀なアルバイトを雇うこと、しっかり教育すること、そんなスタッフやアルバイトと一緒になって、今日の日販を死に物狂いで死守すること、それが、本当に大切なんです。朝礼はやったことがないですが、目標達成への執念は物凄いですよ。
私は、自分のお店に現場復帰したときに神棚を捨てました。そこから立て直しました。売上をつくるのは現場です。だから、現場が命。
原価率よりも日販。その日の目標達成に固執する。残り10分で、どう売上と利益をつくるか? それを、アルバイトの人まで考えてくれる。飲食店経営って、本当に奥深いし尊いし楽しいと思います。苦しいときもありましたが、今でも石井誠二さんの言葉に感謝してますよ」
井上――「中島さんのお話は、実体験で実用的・実践的なお話ばかりで本当に為になりますね。今後は、どんなことに力を入れていくんですか?」
中島――「今は、外食専門のe-ラーニングを提供していて、やはり飲食店の教育に特化しています。気になった方は『レシピアント』で検索してみてください。繁盛カレンダーを飲食店オーナーの方々に知ってもらうための準備もしているところです。それと、井上さんと運営する『飲食店繁盛コミュニティ』も勉強会を開催しています。第0回目は丸の内のWeWorkで開催したのですが、新型コロナウイルスの影響もあり、今後はオンラインでの開催も考えています。これからも、飲食店経営に役立つことをしていきたいですね。一人でも多くの起業家に成功してもらいたいです。この想いは、井上さんと一緒だと思います」
執筆者プロフィール : 井上一生
税理士、行政書士、ロングステイアドバイザー。税理士でありながら、幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家。SAKURA United Solution代表(会計事務所を基盤に、国税出身税理士・税理士・社会保険労務士・行政書士・弁護士・銀行出身者などを組織化した士業・専門家集団)。SAKURA United Solutionのビジョンである「経営の伴走者 ~日本一の中小企業やスタートアップベンチャーの支援組織になる~」という言葉の基、"100年企業を創る"という壮大な目標をアライアンス戦略で進めている。