トヨタ自動車のコンパクトモデル「ヴィッツ」がフルモデルチェンジし、「ヤリス」としてデビューした。中身とともに、名前もグローバルモデルと統一された格好だ。2月10日の販売開始から約1カ月で、受注台数は3万7,000台を突破(計画では月販7,800台)。新型コロナウイルス禍や若者のクルマ離れといったネガな要素がある中で、好調なスタートダッシュを決めたようである。今回は1.5リッターガソリンとハイブリッドの売れ筋モデルに試乗し、それぞれの魅力を探ってみた。
時にはスポーツカーのように楽しめるガソリンモデル
最初に試乗したのは、1.5リッターガソリンエンジン搭載モデルの中で最上級となる「Z」グレードだ。ブラックルーフにシアンメタリック(鮮やかなブルー)の2トーンというエクステリアが若々しい。
フロントに横置きするエンジンは、最高出力88kW(120PS)/6,600rpm、最大トルク145Nm/4,800~5,200rpmを発生する「M15A-FKS」型直列3気筒1.5リッターダイナミックフォースエンジン。燃費と高出力を両立させるため、直噴システム、ロングストローク化、ギア駆動式バランスシャフトなどを採用した1気筒あたり500ccの最新モジュールエンジンで、発進用ギアを備えた「Direct Shift-CVT」でフロント2輪を駆動する。
低重心と高剛性を徹底するため、ボディには新プラットフォーム「TNGA」の小型車向け「GA-B」を採用。全長3,940mm、全幅1,695mm、全高1,500mm、車重1,020キロ(ガソリンZ)という成り立ちだ。
これらがもたらす恩恵は、走り出してすぐにわかった。アクセル開度にきちんと比例してスッと車速が伸びるので、とにかく出足がいいのだ。車体の軽さを感じるとともに、歯車式の発進用ギアによって、車速が高まるまでエンジン音と加速感がリンクしていて、いわゆる“ラバーバンドフィール”と呼ばれるCVT特有のネガな部分が上手に消されている点が素直に嬉しい。
巡航中は2,000rpm以下というなるべく低い回転域を保つセッティングが施されている。そこからの加速時には、3気筒らしい音と振動こそ伝わってくるものの、望んだスピードに達するとすぐに低い回転に戻る。ここでもCVTがきちんと仕事をしているようだ。
コイルスプリングを採用したヤリスの前後サスペンションは、一般道では少し硬いセッティングといえるだろう。試乗車が標準(185/60R15)より1サイズアップした185/55R16という高性能タイヤを履いていたせいもあるが、段差や荒い路面区間を通過する際は、表面の状態をストレートに伝えてくる。
ただし、この感覚は欧州製のコンパクトハッチなどによく見られるものと同じで、筆者もそうなのだが、「好ましい」と思うユーザーが多いのではないだろうか。ボディの剛性感が高く、サスペンションがきちんと動いているのでショックは一発で収まり、ドライバーの頭にまで振動が伝わってこないので、視線は一定のままに保たれる。これなら、ロングドライブでも疲れないはずだ。
一方、交差点の右左折時やコーナリング時には、鼻先がスイスイと向きを変えてくれるので、ちょっとしたスポーツカーを操っているような感覚まで味わえる。パドルシフトでも付いていれば、ワインディングも100%満喫できそうだ。そうした走りを最大限に望むユーザーには、別に6MTモデルが用意されている。
コンパクトな室内は、はっきりいって前席優先のしつらえだ。幅の狭い3気筒エンジンの搭載により広くなった足元にセットされたペダルと、37cmの小径ハンドルの配置がピタリと決まっていて、ドライバーは好みのポジションが取りやすい。目の前の双眼鏡のような形状のメーターパネルや、奥行きのあるデザインを採用したドアグリップ部分などには、広さだけを追求したコンパクトカーではないというオリジナリティーが十分感じられる。Zに標準装備される運転席イージーリターン機能や、見やすいカラーヘッドアップディスプレー(オプション)まで装備されていて、ドライバーの満足度は高い。
一方の後席は、ガラスの面積が狭くて少し閉塞感が伴うものの、座ってみると前席下に足先を滑り込ませるスペースが確保されているので、見た目ほど窮屈でなかったのは意外な発見だった。都内から首都高、東京アクアラインを経由して千葉県の富津岬を往復する150キロを走り、燃費は18.2km/L(WLTCモード燃費は21.6km/L)を記録した。