年を重ねると、歯の隙間に物が挟まることが増えたり、咬み合わせが悪くなったりするなど、歯並びの変化が気になるようになってくる。歯並びは人目に付きやすいし、歯間が広くなりすぎれば虫歯や歯周病などのリスクも高まる。
そこで今回、口腔外科専門医の梯裕恵医師に歯並びが急に悪くなる原因や対処法についてうかがった。
加齢とともに歯並びが悪くなる原因
梯医師によると、歯並びが悪くなるのは主に「歯周病」「歯科治療の中断」「親知らず」「悪い咬み合わせ・悪習癖」の4つの原因によるという。
■歯周病……歯は歯槽骨という骨によって支えられているので、歯周病の進行によって歯周病菌が歯を支えている骨を溶かしてしまうと、少しずつ歯がぐらつき、歯が動きやすく、歯並びが悪化してしまう。
■歯科治療の中断……歯周病やむし歯が原因で抜歯した後に歯が抜けたスペースを放置しておいたり、歯の治療途中で仮歯などがはずれたままにして、治療を不完全な状態で放置したりした場合も、空いたスペースに隣の歯が傾斜するなど、短期間で周辺の歯並びに大きな影響を与える。
■親知らず……親知らずが完成する時期は10代後半から20代前半とされているが、傾斜してまっすぐに生えてこなかったり、横向きに埋まっていたり、ちゃんと口の中に生えてこないケースも多い。親知らずが出てくるスペースがない場合などに、奥歯から前のほうに向かって押されて、前歯の歯並びに影響を及ぼす可能性がある。
■悪い咬み合わせ・悪習癖……咬み合わせのバランスが取れていないなど、特定の歯に負担がかかると歯並びに悪影響が出る。また、歯ぎしりや食いしばり、頬杖やペンを咬んだりするなどの癖が原因で歯がぐらついたり割れたりして、歯並びが悪くなることもあるとのこと。
悪い歯並びが体に及ぼす影響
むし歯、歯周病の悪化
歯並びが悪い部分の歯磨きが難しいため、歯を磨いても汚れが取りきれないことが多く、むし歯や歯周病を引き起こす。咬み合わせが悪いことが原因で唇を閉じにくい人は、口で呼吸をしていることも多く、口の中が乾燥しやすく、唾液が少なくなるためにむし歯や歯周病になりやすくなる。
咀しゃく機能が悪くなる
上下の歯の咬み合っている部分が少ないため、食べ物を咬み砕く(咀しゃく)効率が悪くなり、胃腸への負担もかかる。
発音、嚥下機能が悪くなる
特定の音が発音しにくいことがある。また、飲み込み(嚥下)がうまくできず、飲み込むときに舌が上下の歯の間に出てきてしまう場合、さらに咬み合わせに問題が生じることが多い。
顎関節症
咬み合わせに問題が出てきたり、ぐらぐらしている歯をかばった咬み方をしていると、口が開けづらくなったり、顎の関節に音がしたり、肩や首がこるなどの症状が出てくる。顎関節症はさまざまな原因が重なりあって生じるが、歯並びもその原因のひとつと考えられる。
歯並び悪化の予防法と治療法
歯並びが悪くならないようにするためには、「歯科医院に定期的に通院して、歯周病やむし歯などの歯科治療をきちんと受ける」「抜いたほうがよいと歯科医師が判断した親知らずは早めに抜歯する」「悪習癖があれば、意識して改善する」などが重要となってくる。
もし、すでに歯並びが悪くなってしまった場合の治療法は、どのようなものがあるのだろうか。
「歯並びを治す治療として矯正治療がまず思いつくかもしれませんが、矯正治療は極端に言うと、すべての歯に歯周病を起こさせて歯を動かすことなので、もともと歯周病がひどくて歯を支える骨が少ない人には不向きです。まずは歯周治療をしっかり行い、抜歯が必要な歯は無理に残さないで抜歯し、口の中の状態を整えることが重要です。必要であれば、入れ歯やかぶせもので歯並びや咬み合わせを整えたり、骨やその他の状態がよければ、インプラント治療などの選択肢もあります」
大人でも歯列矯正で歯並びが改善
まずは、正しく咬めることが重要と梯医師は強調する。
「ちゃんと咬めなければ食事もおいしくないですし、先に述べたような症状も出て、健康に不具合が生じます。それ以外にも、デコボコの歯並びだったり、咬み合わせが反対だったりすると、しゃべるときに気になって口を押さえたり、思いっきり笑ったりすることができない方がいらっしゃいます。人によっては気にされない方もいるので、これは個人の考え方次第ですが」
梯医師によると、矯正治療によって歯並びや咬み合わせがきれいになり、口元や横顔も美しく整い、さらに心まで明るくなるケースも多いという。また、歯の矯正だけでは改善が難しく、顎の骨を切る外科的なアプローチが必要な症例もあるそうだ。
歯並びが悪いのは、単に見た目の問題だけではなく、健康にも大きな影響を与える。最近では、大人でも矯正で美しい歯並びを手に入れることが可能なので、気になる人は専門医を受診してみよう。
※写真と本文は関係ありません