澤田真吾六段の緩手をとがめて一瞬で寄せ切った藤井聡太七段。最年少タイトル挑戦記録に注目が集まるも、本人はより高みを見据える
1月28日に関西将棋会館で行われた、第91期ヒューリック杯棋聖戦二次予選決勝(主催:産経新聞社)で藤井聡太七段が澤田真吾六段を破り、決勝トーナメント進出を決めました。棋聖戦は藤井七段が最年少タイトル挑戦の記録を更新できるかもしれない、最後の棋戦です。
振り駒で藤井七段が先手番になった本局は、角換わりになりました。後手の澤田六段は玉を4二、5二、4二、と往復させて陣形を崩さず相手の攻めを誘う、待機戦術を採用。この形は今月の24日に指された、畠山鎮八段-藤井七段戦と全く同じです。この対局は後手番だった藤井七段が勝利しています。
自らが勝ちを収めたのとは逆側を持って指すことになった藤井七段は、畠山八段とは違う攻め筋を披露。前例のない進行になりました。途中までは定跡形ということもあり、お互いにほとんど持ち時間を使っていませんでしたが、中盤からは長考合戦に。澤田六段が32分考えて指した手に、藤井七段は60分の考慮で応じます。それに対し澤田六段は今度は79分使い、藤井七段も再び54分と一時間近く消費。その次に澤田六段が31分考えて長考合戦は閉幕。持ち時間が3時間しかない棋聖戦二次予選では異例の進行と言えるでしょう。
難解な局面を乗り切るために、持ち時間を投入し続けた澤田六段の残り時間は4分になっていました。本当はもっと考えたい場面だったのでしょうが、時間がないので仕方がありません。持ち時間を使わずに着手した、澤田六段の66手目が結果的には敗着になってしまいました。
この手は藤井陣に攻め駒を増やそうという狙いでしたが、攻めている場合ではなかったのです。ここからの藤井七段の攻めは圧巻でした。まずは中空にタダ捨ての桂を王手で放ちます。この桂を取れなかった澤田六段は玉をかわしましたが、次々と藤井七段の攻めが後手陣に突き刺さりました。
玉の上部は金銀に、下部は飛車の横利きに守られていて全く隙がなく、さらには先手の攻めの拠点が4四の歩1枚で全く寄せがないように見えた後手玉。ところが藤井七段の桂打ちの妙手から一気に崩壊。わずか数手で寄り形になってしまいました。藤井七段の鋭すぎる攻めに粘ることすらできなかった澤田六段は87手目を見て投了を告げました。
この勝利で藤井七段は棋聖戦では初の決勝トーナメント進出を決めました。タイトル挑戦の最年少記録は屋敷伸之九段が持つ、17歳10か月です。現在17歳6か月の藤井七段が記録を更新する可能性があるのは、この棋聖戦が最後。16人で行われる決勝トーナメントを勝ち抜き、挑戦者になるにはあと4勝が必要となります。
多くのファン、将棋関係者が最年少記録に注目しています。ところが藤井七段自身はそれを意識していなさそうです。最年少記録について問われた藤井七段は「まずは実力を高めて、そのうえで結果がついてくればと考えています」(『将棋世界』2020年2月号)と回答しています。また、年齢については記録という観点よりも、「これからの数年間が、強くなるうえで非常に大切な時期かなという風には思っています」(同)と答えるように、実力を高めるという観点で見ているようです。