国土交通省が5年ごとに実施している「マンション総合調査」の平成30年度の結果が公表されています。これは管理組合、区分所有者の両方を対象にした調査で、マンション住人の意識や管理状況がわかる興味深いデータです。マンションに住んでいる人、マンションを購入しようと考えている人が注意すべき点はどんなことか。この調査から見えてくることを確認してみましょう。
マンションは一戸建てへのステップではなくなった
日本人は農耕民族だったからか、土地への執着が強いといわれます。そのため、かつてマンションは戸建て住宅を買うまでのステップと考えられていましたが、最近ではその意識も変わってきました。それを表しているのが下図です。
昭和のころは「いずれは住み替えるつもり」という人が過半数を超えていましたが、次第にその割合は減少し平成のひとケタ時代に逆転。直近の平成30年度調査では「永住するつもり」という人が過半数を大きく上回る62.8%で、いまや「いずれは住み替えるつもり」という人は17.1%という少数派になっています。
これによって起こってきたのが、マンション住民の高齢化です。下図を見てもわかる通り、平成11年度は40歳代以下が48.7%、60歳代以上が25.7%でしたが、平成30年度は40歳代以下が26%、60歳代以上が49.2%と完全に逆転。日本の社会と同じように、マンション住民も高齢化していることがわかります。
さらに詳しいデータを見ると、住民の高齢化率は完成年次が古いマンションほど高くなり、昭和54年以前に完成した物件では、なんと77.9%が60歳代以上という結果。マンション築年数の経過とともに、住民も高齢化していくという現実が見えてきました。高齢化が悪いわけではありませんが、管理組合の役員のなり手が少なくなるといった問題が生じるのは事実のようです。
管理費や修繕積立金の滞納率や金額設定を確認しよう
マンションを購入する際に、ほとんどの人は管理費や修繕積立金の額を意識するでしょう。毎月の支出に大きく関わるため、それは当然のことといえます。しかし入居後、自分が暮らすマンションの管理費滞納率について、ウォッチしている人はどのくらいいるでしょうか。
なんと、平成22年以降に完成した築10年以下のマンションでも、滞納がないのは8割に満たない78.1%です。筆者は、かつて住んでいたマンション管理会社の担当者から「どんなに戸数が少なく築年数が浅いマンションでも、管理費の滞納がゼロという物件はほとんどありません」と聞いたことがあります。
下図を見てもわかる通り、完成年次が古くなるほど滞納率は上昇。滞納の件数が多く金額が増えてくると設備の維持管理・修繕にも支障をきたすうえ、状況が続くようなら競売など法的措置をとることも考えなくてはいけなくなり、管理組合に時間的、金銭的な負担が生じます。
続いて、マンション管理において重要な修繕積立金についてみていきましょう。完成年次別の修繕積立金を調査したのは下図。平成30年度の全マンションの月/戸当たりの修繕積立金額の平均は1万1243円、駐車場使用料からの充当額を含む修繕積立金は1万2268円です。これと物件の完成年次別の平均額を比較してみると、平成22年以降は大きく下回っていることがわかります。その理由のひとつとみられる調査データがあります。
下図は修繕積立金の徴収方法について調査したデータです。完成年次が新しいほど「均等積立方式」が少なく、「段階増額積立方式」が多いことがわかります。
均等積立方式とは早い段階で適切な積立額を設定し、その後は長期間にわたって一定金額を徴収していく方法。これに対し、段階増額積立方式とは段階的に徴収金額を増額します。マンションは維持管理に必要な費用が時間の経過とともに増加するため、段階増額積立方式はその時点の所有者が、その時点で必要とされる修繕資金を負担するという考えに基づいています。
しかし販売する際にランニングコストが少ない方が売りやすい、という業者の本音が透けて見えるのも事実。修繕積立金の増額は管理組合総会で合意形成ができないと実行できないため、国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」でも増額の合意形成が懸念点とされ、均等積立方式を推奨しています。
中古マンションは部屋だけでなく管理状況もしっかり見て選ぶのが◎
新築マンションの販売価格が上昇していること、中古マンションを割安に購入して自分なりにリノベーションするという考え方が浸透してきたことなどから、中古マンションを住宅購入の選択肢にする人が増えています。完成前に購入する新築物件とは違いメリットもありますが、築年数が経過しているだけに確認しなくてはいけないことがいろいろあります。
まずは、修繕積立金の積立状況です。マンションは一般的に12年周期で大規模修繕工事を行うものとされ、そのタイミングに向けて修繕積立金を貯めていきます。下図のように「計画に対して余剰がある」のは33.8%で、34.8%は不足、31.4%は不明という現実がわかりました。要するに、修繕予算に問題がないマンションは3分の1しかないということです。
このことからも中古マンションを購入するときは、部屋の状況や立地条件だけでなく、管理状況もしっかり確認しなくてはいけないことがわかります。
もうひとつ中古マンションを購入する際に必ず確認したいのが、建築されたのは1981年以降であるかということです。日本の耐震基準は大地震が起こるたびに見直され、1981年6月の改正で大地震が起きても倒壊しないことが前提になりました。事実、阪神大震災の際に新耐震基準で建てられた建物で倒壊したケースはありません。マンションは新耐震基準以降に建てられたのか、そうでないのかで大きく違いがあるのです。
もちろん新耐震基準以前の建物でも基準をクリアしている場合もありますし、きちんと対策が取られているマンションもあります。ただ、下図にあるように耐震診断を実施したのは34%で、そのうち耐震性があると判断されたのは40.8%。現実的には旧耐震基準のマンションで耐震性を確保しているマンションは少数派というのが現実といえそう。
確認する際に注意したいのは、1981年6月というタイミングは竣工ではなく建築確認申請時だということです。マンション建設には時間がかかりますから、入居時期が1982年でも建築確認申請が1981年6月以前に行われていると旧耐震基準の物件ということになります。1981年前後の物件の場合は、特に注意して確認しましょう。
マンションにも戸建て住宅にも、それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらがいいとはいえません。ただマンションの場合は、住民の合意形成ができないと決められないこと、変えられないことがあるのは事実。マンションに住んだ場合も、自分の家だけでなく建物全体への目配りが必要といえそうです。