幕張メッセで11月27~29日の3日間開催される「第6回 鉄道技術展」にて、ホームドア、メンテナンス、駅の案内表示といったさまざまな鉄道を支える技術メーカーが一堂に会した。筆者が実際に見て、興味深かった展示などを紹介したい。
■重量の課題に取り組んだホームドアを展示
首都圏を中心に、多くの駅で普及してきたホームドア。導入は進むものの、ドア枚数や位置の問題、重量の問題など、課題は残っている。
今回の鉄道技術展では、重量の問題に関して2通りのアプローチが見られた。京三製作所はホームドアの軽量化をめざし、設備の軽量化を図るという、いわば「正攻法」を取った。「いまのような重いホームドアでは、ホームの強化などの工事が必要になります。補強を最小限にしてコストを下げ、形は変えていない」とのこと。ホームドアの設備はいままで500kgだったが、最も軽いもので250kgにまで下げたという。
最も軽いものでは、可動部にパイプを採用している。それより少し重いものは、パンチングメタルだ。穴の空いた金属製のものである。この穴を利用し、イラストなどを表示できる。いまのホームドアに近いものだと、ガラスタイプのものがある。こういった素材を利用することで、軽量化したホームドアを製作できるという。
一方、大胆なホームドアを製作して軽量化を行っているのがJR西日本テクシア。ドアというより「柵」といえる「支柱回転動力伝達形昇降柵」は、腕を上げるかのようにしてロープで構成された間口を開き、その下を乗客が通るというしくみになっている。
このシステムは複数の扉位置に対応し、従来品より軽量化され、部品点数も少ないため、現行の製品と比べて低コストを実現している。JR西日本ではさまざまなドア枚数の列車が走るので、こうしたスタイルのホームドアが向いているとも言えるだろう。
最近発表され、話題となった「マルチフルスクリーンホームドア」は、画面表示で展示されていた。天井まで高さのホームドアが、列車のドア位置に合わせて左右に動き、停車時に開くというものである。自由自在な動作が可能で、一方で情報案内スペースとして65インチのデジタルサイネージを搭載。駅の風景を変えることが予想される。
■小型軌陸車も登場
鉄道のメンテナンス現場において、軌陸車は欠かせない。これまでの軌陸車は大きく、小回りが効かなかった。
建設機械レンタルのアクティオでは、軽トラックをベースとした小型軌陸車を開発し、今回の鉄道技術展で初登場させた。同社によると、すでに台風からの復旧にも利用されているとのことだ。軽トラックをベースとしているため、狭い踏切からでも線路に入ることができ、タイヤの動力で鉄輪を駆動させることも可能。アクセルとブレーキで自動車のように動かすことができる。
その一方で、いままでの大きな軌陸車でも新しいものが生まれている。レンタルのニッケンでは、2020年の完成をめざし、オーバーフェンスで橋りょうの点検が可能な軌陸車を開発している。その試作品が会場に展示された。
橋りょうの点検にあたり、従来は足場を組んで行っていた。道路の橋りょうの点検では、最近になってオーバーフェンスで点検を行うような工事車両を使用するようになっていた。そこで開発されたのが「鉄道用オーバーフェンス」だ。クレーンでぶら下がるようにかごが設置され、そこに人が乗り、橋りょうを点検する。「すでに多くの鉄道会社からの問い合わせがある」とのことだった。
■券売機・改札・案内表示などの工夫も
総合車両製作所(J-TREC)は、同社の中核技術であるステンレス車両の溶接を展示していた。これまではスポット溶接を使用して車体を組み立てていたが、新しい技術としてレーザー溶接を導入するという。「スポット溶接は『点』で溶接し、レーザー溶接は『線』で溶接します」と担当者は言う。「見た目はレーザー溶接のほうがきれいに仕上がり、結合力は同等。作業時間は短くなります」との説明だった。レーザー溶接は京王電鉄の車両5000系の一部などに使用されている。
利用者と接することの多い改札や案内表示でも新たな工夫が見られた。日本信号では、改札の足もとに案内を投影するための高輝度LED超短焦点プロジェクタを展示。40インチの画面を床に投影することができ、乗換えなどの案内を表示することができる。このシステムは列車のドアなどにも設置でき、注意喚起等も行える。
日本信号は次世代券売機で顔信号による入退・案内サービスのシステムも展示していた。顔データやクレジットカード、個人情報を次世代券売機で登録することで、ICカードがなくても入退場の案内が可能になるという。美術館等での使用が想定されているものの、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)が顔認証での改札通過を可能にする計画もあり、将来的に改札で使用される可能性もあるだろう。
鉄道情報システムでは、ロボットによる案内でQRコードを感熱紙に出力させ、そのQRコードを券売機に読み込ませ、きっぷを発券する自動券売機を展示していた。鉄道の券売機は「使いにくい」と言われ、一方でネット予約も「使いにくい」と言われ、窓口に並ぶ人はいまだに多い。そういった人たちに対して、対話型のロボットを使用し、きっぷにしたい内容を確定させ、発券させるというシステムである。このシステムにより、案内業務の省人化が進むと良いのだが……。
■趣味的に興味深い展示も
駅の案内表示の展示も多く見られた。アイテック阪急阪神は列車運行管理システムなどと一体化した旅客案内システムと改札口情報案内ディスプレイを展示。阪急電鉄や阪神電気鉄道だけでなく、さまざまな鉄道事業者で使用されているという。システムを一体化することで緊急時にも対応可能であり、それが乗客の利便性にもつながる。
趣味的な観点から面白い会社も出展していた。昇寿堂は1枚の紙にダイヤグラムを印刷し、じゃばら折りにして展示していた。「一般的には、ダイヤグラムの用紙は印刷したものを貼り合わせてつなげますが、当社ではデジタル印刷で1枚の紙に印刷することができ、じゃばら折りにして納品もできます」と担当者は説明する。
山口証券印刷は、もともと硬券の印刷を行っていた。そこから派生し、現在は記念きっぷや鉄道グッズ、各種案内表示を製作することになったとのことだった。
■匠の技を展示
アイケー電機は電車に欠かせないモーターの修理を実演していた。電動機用のコイルに使用している銅線を取り付ける・はがすというメンテナンスの作業を専門に請け負う会社であり、古いものも対応しているという。今回の鉄道技術展は自動化やシステム化の展示が多かったが、こういう展示もまた、鉄道技術の観点からは意味のあるものだ。
鉄道はさまざまな技術が集約され、便利に、安全に運行されるようになっている。鉄道技術展の展示を通じて、改めてそのことを感じた。