ひと昔であれば、良い大学に入学し、良い会社に就職すれば、終身雇用に守られ、安泰な生涯を送れたものです。特に男性は高学歴であれば、失業のリスクも少なく、収入も高水準を維持したと思われます。しかし、終身雇用スタイルの崩壊、働き方改革法の制定やAIの推進などによって、その固定概念は通用しなくなり始めています。安定したレールはなくなり、変化に対応する順応力が求められるようになりました。

とはいえ、これからも多くの若者が大学や大学院を目指すでしょう。教育そのものは本人にとっても国を支えるうえでも大切なものです。新しいこれからの変化の大きい時代に向けて、学歴と仕事についてどのように考えていけばよいのでしょうか。

  • 高学歴の低所得者や失業者が急増しているワケ

統計値で見る学歴・年齢別の失業率

総務省統計局による「労働力調査 2018年次平均値」によると、失業率は年々低くなってきていますが、依然として若者の失業率は高くなっています。また、全体的にみると、高学歴の方が完全失業率は低くなっています。

一方で、高齢になるとともに高学歴の失業率は高くなっていき、65歳以上を見ると他の学歴と比較して最も高くなっています。今は再雇用で65歳まで働くことができますが、60歳で一旦定年になるのが普通です。企業によっては55歳で一旦子会社所属になったり、ルートから外れた扱いになったりするところもあります。

特別な管理職の方以外は、60歳過ぎて力を発揮できる場所を探しても、なかなかふさわしい就職先を見つけるのは難しいと思われます。高学歴ゆえの高望みをして、失業状態が長くなる傾向にあるのではないでしょうか。高学歴が必ずしも高齢者の雇用ニーズに合致するわけではないことと、高学歴者の老後の働き方の志向とニーズがマッチしていないことがうかがえます。

レールの上の住人、高学歴者

かつての日本は、男性であれば終身雇用が一般的で、良い学校に進学し、良い会社へ就職するレールに乗れば、安泰に定年を迎えられる時代でした。現在では、だいぶその体制は崩れてきてはいますが、高学歴であればあるほど、そのレールを意識していることでしょう。また、やっと乗れたレールへの依存度も高いと思われます。

しかし、冒頭でも述べたように時代は急速に変化しています。レールが無くなっているのに気がつかず、対応が遅れがちになるケースは高学歴者の方が多いのではないでしょうか。ベンチャー企業向けのインキュベーションオフィスを運営する企業担当者の話によると、当初の見込みは地方企業が東京進出を計画する際の足掛かりになることを主目的にしていたのですが、ふたを開けてみると、借り手はサラリーマンが20%も占めていたそうです。副業や起業準備、資格試験準備など、時代の変化に対する対応力を得ることを想定して使用していると思われます。

水面下では、報道されている以上の変化が起きているようです。レールの上に安泰でいられると安穏と考えていたのでは、先々リスクが大きくなりそうです。

対応が遅れがちな高学歴者

良い大学を卒業して、良い会社に入社できた、出世もまずまず順風である……そんな世代の典型的家族像をイメージしてみましょう。

妻は専業主婦、子供たちは小学校から私立の学校へ行き、習い事や塾にも通っている。住まいは子供の教育や通学も考えて、都心に近く環境も良いところに、少し無理をして購入した。ローンの負担は少なくないが、十分に返していける金額である。退職金や年金も水準よりは多くもらえそうで、老後の心配もさほどない。会社も65歳まで働けるので、子供が独立した後に老後の生活費の貯蓄もできると考えている。

この家族は、その生活の一つ一つをステータスに思っていることでしょう。しかし、経済が上昇し続けている時代にはさほどリスクはないかもしれませんが、現在は大企業でも倒産する時代です。合併や吸収も盛んに行われるでしょう。そうした時に生活の基盤となる収入に大きな変化が起きないとも限りません。さらに、人生のリスクは失業だけではありません。病気やケガ、災害、会社の成績不振による収入の減少など様々です。生活が広がってしまっている分、少しのトラブルが致命的にもなりかねません。またステータスと感じている一つ一つを失うことに大きな抵抗も人一倍あるでしょう。そのことが、対応の遅れとなりがちなのです。

実際に上記の事例は、不況になりボーナスが激減したことにより、ローンが払えず、退職金目当てで転職したにも関わらず、種々の対応が遅れ、結局住まいを手放すこととなったとして報道されていたものです。直ちに妻が働く、直ちに子供は公立の学校に転校する、直ちに習い事を一旦辞めるなどの対処の方法はいくらもあったはずです。素早く対処していれば、会社を辞めずに済み、ローンも払えていたと思われます。ステータス意識が生活を変えることをよしとしなかった結果、対応が遅れてしまった事例として紹介されていました。

時代の変化や何らかのトラブルに見舞われたとき、いち早く対応できる野性味が、これからの時代を生き残るポイントになるのではないでしょうか。上記のグラフで、55歳以上の高学歴の失業率が高くなっているのは、高学歴者がレールに縛られ、野性味を身につけられなかったことを示しているように思います。

教育と国の力

国を豊かにしていく基盤は人材であり、人づくりであり、子供の教育です。資源のない島国で、明治維新以来、列強の脅威にさらされながらも現在があるのは、江戸自体からの世界に類を見ない識字率の高さにあると言われています。

今も教育は国の礎です。文部科学省の発表によると、平成30年の大学進学率は53.3%で、高等学校の卒業生の81.5%が何らかの高等教育機関に進学しています。それでも、先進国の中では大学進学率はかなり低い数値です。なお、昭和60年の大学進学率は30%(現役)以下でした。

高等教育はこれからも必要だと思われますが、それでもすべての仕事に大学卒業が求められるわけではないと思います。これからは大学で、何を身につけるかを問われるでしょう。ただ単なる高学歴では通用しない時代になりつつあります。

AI時代に向けて、求められるスキルの転換

時代のニーズに対する対応力がないということは、AIに取って代わられるリスクが高いことにも通じます。すでに多くの仕事がAI化している企業もあるでしょう。多くの社員を抱える大企業ほど、AIによる人員削減の余地もあるはずです。医者や弁護士など高学歴者が多い職種の分野でも、AIに取って代わられる可能性が指摘されています。過去のすべての症例や事例とその対処法をインプットすれば、かなりの部分がAI化できそうな職種のように思います。

変化の大きい時代にあって、素早く変化に対応できるスキルがこれからの時代には必要なのでしょう。それと、自ら楽しんでできる仕事、自分らしい仕事を見つけることも大切なように思います。

内閣府「平成27年度 第8回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、仕事を続けたい理由として、「仕事そのものが面白いから、自分の活力になるから」を選択した比率が日本16.9%、アメリカ28.1%、ドイツ48.9%、スエーデン54.4%と各国で大きな違いがあります。同調査は5年に一度行われます。毎回取り上げるテーマが同じとは限らないのですが、今後の在り方を探るのに国際比較は大いに役立つでしょう。

レールのない難しい時代になったとも言えますが、もともと働く女性にはレールなどありませんでした。レールどころか障害物だらけだったのが実情です。だいぶ差がなくなったとはいえ、今もレールに対する意識は男女で違うと思います。新たな時代に意外と野性味を身に着けた女性が一気に進出する可能性も考えられます。男性は相当意識を変えないと、取り残され、ますます老後の失業率を高める結果となりかねません。

筆者プロフィール: 佐藤章子(さとうあきこ)

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。