偏屈で独善的で皮肉屋だけど、どこか憎めない独身の建築家・桑野信介(阿部寛)の日常を描く、カンテレ・フジテレビ系ドラマ『まだ結婚できない男』(毎週火曜21:00~)。13年ぶりの復活に歓喜の声が続出する中、再来した“パグ犬”にも「超可愛い」「飼いたくなる」と反響が集まっている。
桑野の隣人・戸波早紀(深川麻衣)が飼うタツオ役に抜てきされたパグの名前は、田中太郎(4歳)。その愛くるしいしぐさやリアクション、表情に、SNSでは「演技が上手すぎる」との声も上がっているが、現場ではどのように撮影をしているのか。太郎くんの“演技指導”を担当する演出補の大塚徹氏(メディアミックス・ジャパン)に、裏側を聞いた――。
■難しい課題は撮影前に練習
――毎話本当に見事なしぐさや動きで驚いているんですが、どうやって撮影しているんですか?
太郎には、飼い主のケイコさんと、所属している事務所の佐藤さんという方がいるんですけど、例えば顔をこっちに向かせるときは、カメラの横からケイコさんが呼ぶなんてことをやっています。
――阿部さんをじーっと見つめるシーンはどうしているんですか?
カメラマンがエサを見せて、そのままカメラの上にエサを乗せてカメラ目線にさせるとか、阿部さん自身がエサを手の中に握ってることも多いです。本番前に、阿部さんが「太郎!太郎!」って言って、「よーい!」ってカメラが回るとエサを握るんですけど、よくしていただいたので、阿部さんの手がエサ臭いときも結構ありました(笑)。そういえば、1話のペットショップで見つめ合うシーンも、桑野越しの太郎っていうカットがあるんですけど、阿部さんやケイコさんもみんなで叫んで、現場はとてもにぎやかな感じでした(笑)
――ベランダの避難壁の下から顔を出していたシーンはすごいなと思いました。
人間がそうであるように、犬って先に何があるのか分からないところに頭を突っ込むのにすごく恐怖心があるんです。前作でもあった場面なんですけど、嫌がったので、そのときは飼い主さんに後ろから押して、首だけ出させたんですよ。その経験があったので、今回も隣から顔を出すシーンがあるだろうと思って、セットを建てるときに美術さんに、あの隙間の高さを普通のものよりも上げてもらったんです。そしたらすんなりできました。でも、難しい課題があるときは、事前に練習もするんですよ。
――練習ですか! どんなシーンでやったんですか?
3話で首輪がキツくて嫌がるというシーンがあったんですけど、もちろん普通に首輪をしていたら嫌がらないのですが、いろいろ練習をする中で、太郎はちょっと首輪が上に来ると嫌がる素振りをするというのを発見したんです。それでうまく撮ることができました。
――他に苦労したことはありましたか?
8月の暑いときに撮影してたんですけど、犬って鼻の長い犬種は鼻から息を吸うと体に入るまでに外気温が下がるんですが、パグは鼻が短いので暑さに弱いんですよ。だから、木陰のいっぱいある公園を探して、直前までプールに入れてあげたり、アイスノンみたいなのを首に巻いてあげたり、撮影時間も昼からだった予定を3時くらいまでギリギリ繰り下げてもらったりしました。暑い中の撮影が多かったんですが、最後まで体を壊すこともなく、頑張ってくれましたね。
■台本のムチャぶりに現場で対応
――撮影の時間がかかるときは、どれくらいになるのですか?
5話(11月5日放送)で、タツオが恋をするメスのパグ犬「おもち」と出会うシーンがあるんですけど、それは「道で歩いてるときにすれ違って、お互いに意識する」という台本だったんですよ。でも犬って、進行方向に歩きながら違う方向を見ると止まっちゃうんです。それを2匹しなきゃいけなくて! いつもなら30分もかからない撮影が3時間くらいかかって、ベテランの三宅喜重監督が音を上げるくらい大変でしたね。
――そんなムチャぶりが台本に(笑)
前作のケンを演じた「こつぶ」も、ものすごい賢い子だったんです。普通、リハーサルでは犬の動きはぬいぐるみで代用するんですけど、こつぶはテストから入ってたくらい天性の才能がある子で、その感覚が脚本の尾崎(将也)さんにあったんでしょうね。でも、あの犬は特殊なんですって(笑)! 監督も「これは無理だから犬のツーショットじゃなくて、ワンショットずつで撮ろう」とか、「カメラが見えないところから飼い主さんが名前を呼ぼう」とかいろいろ工夫してやったんですけど、なかなか難しいんです。
――そうすると、撮影時間の中で太郎くんの占める割合は、かなり大きかったのでしょうか。
でも、太郎も賢いので、助けられました。太郎はドラマ初挑戦なので前半戦は結構苦労しましたけど、後半になってだいぶ慣れてきて、撮影時間も短縮されましたね。