• 三宅恵介氏

――収録を拝見しましたが、たけしさんとさんまさんで打ち合わせをほとんどしていないのが印象的でした。

コントについてはどうやろうかって簡単な打ち合わせはしますけど、「有名アスリートの集まる店」に関しては、何をしゃべるかの打ち合わせは一切ないです。どこに座るかの位置決めのときに、「有名人の集まる店」がなくなって20年ぶりに店がオープンするので、権ちゃんと貴子ママの関係性も昔のままだけど、久しぶりにやってくる…という設定を説明するくらいかな。それは『ひょうきん族』のときからそうで、2人がやったことを逐一見逃さずに受け止めて、面白いものを抽出して編集して次につなげるというのが演出の役割なんだと、当時から感じていたことですね。

――それでも最初の2人だけのトークからめちゃくちゃ盛り上がりましたし、ゲストが入っても絶好調でした。

でも、僕もそうですけど、たけしさんは当時から途中で疲れちゃって(笑)。さんまさんは家に帰っても何もないからしゃべりたくてしょうがない感じですけどね(笑)

――それにしても、あのコンビネーションはすごいですよね。もちろん、1人1人でも十分回していけるのに、2人が一緒になると倍以上の相乗効果が生まれる印象があります。

そうなんですよね。コンビってやっぱり組み合わせなんですよ。例えば、たけしさんとタモリさんだと、1+1が2にもならないときがあるんです。昔、萩本欽一さんが「ショートする」という言い方をしてたんですけど、それは、たけしさんとタモリさんは、1人でも面白くできるという部分で似ているから。一方でさんまさんは、1人だと面白さが減ってしまうんですが、誰かがいて触発するタイプなんです。だから、たけし×さんま、タモリ×さんまの相性がいいんですよね。

――今回の収録で印象的だったのは、さんまさんが必ず笑いが取れる“ガラケーのくだり”を発見して、たけしさんが「いいの見つけやがって、俺にもやらせろ!」と欲しがるっていう(笑)。あんなたけしさん、他では見ないのですが、やっぱりさんまさんだから血が騒ぐんですかね?

悔しいんですよ(笑)。「あの野郎、やりやがって!」ってなるんですよね。

―― 一方で、たけしさんが真面目な話をしだすと、さんまさんが「オチないの?」とシャットダウンするという場面も何度かありました(笑)

『さんま御殿』とか、うちの『お笑い向上委員会』でいい話をした若い人に、さんまさんが「そんなのはいらん」って言うのと、たけしさんに対して言うのとは、微妙に違うんですよね。やっぱり下の子に言うとちょっとキツく見えるときもあるんですが、上の人に言うとこれがうまいツッコミになるんですよ。

■2人が久々に繰り出す“ボケ”

――あらためて、今回の収録はいかがでしたか?

「有名人の集まる店」は20年ぶりでしたけど、空気感や間は変わってないなあと思ってね。ファーっと一瞬のように当時が蘇る感じがして、その場にいるのがうれしかったですね。今回演出をやった渡辺琢も、20年前チーフディレクターをやっていたんですけど、「こうやってまたやることができて、感慨深いです」と言ってましたよ。“ガラケーのくだり”も、先ほども話したさんまさんが1個足す貪欲さの精神が変わってないことに感激しましたし。それと、今回やってよかったなと思ったのが2つあったんです。

1つは、20年以上前からやってる形だから、たしかにそれだけ見れば古いかもしれないけど、そこに村上くんが入り、今のアスリートが入るだけで、“今”になるんですよね。だから、あの関係性の設定があれば、中身を変えるだけでやっぱり今でも面白いんだということが分かったということ。それと、たけしさんとさんまさんの中に、村上くんが1人入るだけで“三角形”になるので、20年前とは違う伝わり方が出たなと思いました。

もう1つは、たけしさんとさんまさんの“ボケ”が久々に出たなと。2人とも、いまやそれぞれ看板で番組をやってると、ポジション的にはツッコミになるので、ボケをやってないんですよ。たけしさんは、所さんくらいの方がいればボケに回れるんですが、特にさんまさんは衣装を着てボケるっていうのは、やってないですからね。だから、お互いがツッコミながらボケて、さんまさんがウケるのを悔しがるたけしさんがかわいいなとか、そこに生き様が出るんだなあとあらためて思いましたね。

――逆に20年経っての変化はいかがですか?

当たり前のことだけど、久しぶりに貴子ママを見たら「やっぱり老けたなあ」と思いましたよ(笑)。僕、昔から痩せてて出っ歯の人が好きなんだって言ってて、さんまさんの女装がタイプだったんですが、アップは耐えられなかった(笑)。終盤になると、権ちゃんもお疲れでしたしね。でも、これはしょうがない(笑)

あとは、昔のことを覚えてないことが分かりました(笑)。でも、逆にそれがいいんですよ。昔やったことを覚えてると、そのイメージに合わせようとしちゃうから。忘れているほうが、今何が面白いかというのを考えて面白くなっていくんですね。だから今回、は2人は昔のVTRを見ないでやってるんです。

■いじめているように見えない技術

――20年の変化といえば、たけしさんもバツイチになって、さんまさんからたけしさんに離婚イジりができるようになりましたよね。

何が良いって、2人とも扮装してることなんですよ。これはわりと大事なことで、“ビートたけし”と“明石家さんま”で組むことがあっても、そうそうはツッコめないんです。だから、もし『さんまのまんま』にたけしさんが出て、同じ話をしても、どこか違う雰囲気になると思いますよ。

――貴子ママが権ちゃんに離婚をイジるから、思いっきりツッコんでいけるんですね。現実なのか設定なのか不思議な感覚です。

例えば、村上くんは権造の息子という役割だから、ウソを言ったっていいんですよ。ゲストのアスリートの皆さんも、“お客さん”という役なので、どちらかと言うと、本当のことを言わなくてもいいんです。

――“暴露トーク”のような、最近のテレビの潮流とは一線を画しますね。

暴露トークも面白いんだけど、ちょっと負の気分が残っちゃうのが嫌なんですよね。収録の時にさんまさんにも言ったんですけど、ボケを演じる上手い人がいないから、暴露系になるとみんなでいじめてるように見えちゃうんです。ボケがうまく返せばそれが笑いになる。今回も権ちゃんと貴子ママでやり合ってましたけど、ごまかしたり、違うところに持っていくというボケのすごさがありましたよね。

――ドリンクを何杯も飲むはめになってしまう「CMコント」も、まさにそれですよね。

そうなんです。あれはCM収録で決めゼリフを言うために飲むんですけど、そのセリフがきちんと言えないから、うまくいくために結果として何杯も飲むというだけの話なんですよ。下手をすると、飲むさんまさんがいじめられてるように映る場合もあるんですが、一生懸命なあの“ボケの顔”で救われるんですよね。『ひょうきん族』でも、たけしさんがさんまさんを何度も水に突き落としたりしていましたけど、何事もなかったかのように「パァ~」ってやって全部笑いになるんです。