ワーク・ライフバランスは8月26日、「男性育休100%化 推進勉強会」を開催。勉強会では、男性の育休取得を推進している企業が取り組みを紹介したほか、同社代表取締役社長の小室淑恵氏が男性育休を阻害する要因と対策について語った。
働きかけの対象は「本人」ではなく「所属長」
はじめに、男性の育休取得率88.8%(2018年)を達成している住友生命保険相互会社の有田麻美氏(人事部人事室副長)が、自社の取り組みを紹介。
育児特別休暇として育休の最初の1カ月を有給にしたり、産・育休復帰月から小学校入学まで子ども1人に対して月1万円を支給したりするなど、さまざまな施策を行っているが、中でも効果を発揮しているのは、所属長に対する"しつこい"とも思えるほどの「働きかけ」のようだ。
2008年から年2回、今年からは年4回、育休取得の対象者と、それぞれの取得期限を記した「育休取得勧奨依頼メール」を対象者の所属長に送信。さらに、対象社員が取得期限3カ月前になった時点で未取得の場合、人事部から所属長に直接電話を入れ、取得を勧めるよう促している。
もちろん、本人にもメールを送信し、計画的に取得できるよう促しているが、基本的に連絡する先は、対象者の所属長なのだという。
「所属長ご自身は、育休を取得した経験のない方がほとんですので、その重要性や、会社全体で取り組んでいることだという理解をしてもらうことが必要だと思っています。また本人が自分から取得したいと切り出すのは難しいのが現状です。所属長から言ってもらった方が取得しやすいですし、職場の他のメンバーへの周知もしやすいという利点があります」(有田さん)。
もちろん説得には困難を伴うケースもあるという。「妻が専業主婦」「本人に取得の意思がない」などといった理由で、取得の必要性を疑問視する声も聞かれた。
ただ「会社としてやる必要がある」「働き方改革の一端と考えれば、部下の育休取得の有無は所属長の評価にもつながる」などと説明し、半ば強制的に取得を推し進めているのだとか。
「半強制的にでも取得する人の数を増やしていけば、次からは『これだけ多くの人が取っているんですよ』と説得できるようになります。そうすると、所属長に『取得させないといけないかな……』と思ってもらいやすいんです」と有田さん。
男性の育休取得を多数派にしていくことで、育休を取得しやすい環境整備ができるようだ。
収入シミュレーションを提示し経済的な不安を解消
また新潟県にある中小企業で、男性育休取得率100%を達成している「サカタ製作所」では、対象者と上司や役員、人事の面談で、本人の悩みに寄り添いながら取得を促しているという。
「部下をスムーズに育休に入らせることが、上長の人事評価の項目に組み込まれています。業務の棚卸をしたり、アウトソーシングをしたり、日ごろから業務の効率化を進めているので、育休で人が減っても、今いるメンバーで業務の工夫をし、対応できます」(サカタ製作所 取締役 技術開発部長 小林準一氏)。
加えて面談時には、育休の取得期間や方法によって、10パターンほどの収入シミュレーションを提示。「育児休業給付金から給与の67%(180日目まで)が支給される」「取得期間中は社会保険料が免除される」などといったことを伝え、経済面での不安を取り除く工夫もしている点が印象的だった。
令和は「男性の家庭活躍」時代に
ワーク・ライフバランスの小室淑恵氏は、男性育休の取得を阻む要因として「前例がない・取りたいけど周囲の目が気になる」「収入の減少・マイナス評価」「人手不足・仕事の属人化」などを挙げた。
これらを解決するためには「男性は取得必須の制度を作る」「育休中の収入解説セミナーを開催する・昇進昇格のポイント累積が同期に比べて不利にならないようにする」「育休を取得する本人のみではなく、職場全体で仕事の棚卸会議を行う」などといった解決策があるそうだ。
「平成の時代、女性活躍は進んだが、女性が家庭も仕事もできるスーパーウーマンになることで経済を支えてきた。これは無理のある状況であると同時に、若い女性も男性も、家庭を持ちながら働くことにネガティブな感情を持ってしまう。令和は男性の家庭活躍の時代にならないといけない。『男性育休』は決して新しいテーマではないが、働き方改革法が施行された今だからこそ、進めていくことが大切だ」と小室氏。
男性育休義務化の議論も進む中、各企業の今後の取り組みが注目される。