近年、多くの企業で導入されつつある「リモートワーク」。広島で暮らしながら都内の企業で働きたいと、入社1年目から実践している若者に出会った。新卒社員でありながら、勤務形態としてフルリモートワークを選んだ理由や、実際の働き方について聞いた。
中村優さん
ガイアックス ソーシャルメディアマーケティング事業部 社員
呉高専専攻科在学中、約2年間のインターンを経て2019年入社。
学生時代は、映画「海猿」のロケ地にもなった呉市・両城の「空き家改修プロジェクト」に参加。学校関係者や役所、空き家の所有権を持つNPOなどに対し、空き家のリノベーションプランを提案・交渉する経験を通して、地域課題と向き合った。
現在は、ガイアックスでエンジニアとして活躍。SNS運用代行支援ツールの開発や、データ解析基盤の構築などを行っている。
広島で暮らしながら都内の企業で働こうと思った理由
――広島県呉市の高専で学ばれていたという中村さん。現在働いている職場に出会ったきっかけは何ですか?
高専の授業の中に、長期インターンシップというカリキュラムがあり、インターンシップ先としてお世話になったことがきっかけです。「人と人をつなげる」という会社の理念にすごく共感して。実際に働いてみると、みなさんが本当に楽しそうに仕事をしているのが良いなと思いました。個人の人生を尊重する会社の姿勢も好きです。
一方で卒業後は、母校である呉高専の校長から「うちで働かないか?」と声をかけてもらってもいたので、就職先は悩みました。"教育機関の情報基盤そのものを構築する"というなかなか経験できない仕事内容で、魅力的だったんですよね。
広島に残って学校の教員になるのか、東京でエンジニアとして働くのか、とても決断が難しかったのですが、「広島にいながらうちで働いたらどうか?」と言ってもらって、今の会社に決めました。
地元で生活しながらも、東京のスピード感は持っていたい……私にとって理想の生活をかなえるための方法が、フルリモートワークという働き方でした。
――どうして広島に残ることにこだわっていらっしゃるんですか?
私が人生をかけてやりたいと思っているのが、地方の若い学生の将来の選択肢を広げるということなんです。
例えば僕のようにエンジニアになりたいと思っても、地方に住んでいるとなかなか難しいのが現状です。なぜなら、ごく普通の生活の中で、エンジニアと出会う機会がほとんどないからです。
エンジニアになるためには、知識や技術、経験が必要ですが、何よりも実際にその道のプロと出会い、現実的なイメージを描いた上で学部を選んだり、エンジニアを意識した学生生活を送ったりする必要があります。
その点、地方は東京に比べて、IT系の勉強会の頻度がどうしても少なくなりがちです。またIT企業そのものも少ないので、インターンシップなど、具体的に働くイメージを想像する機会も限られてしまいます。
そういった若者たちが、地方にいても知識や技術を学べたり、実際に働く経験を積めたりするような仕組みを作りたいと考えています。そのため、地元と徹底的に向き合い、小さくトライ&エラーを繰り返していきたいという気持ちが強いので、広島に残ろうと思いました。
私が広島にいながら都内の企業で働く姿自体が、地方に暮らす若者の新しい働き方の選択肢になったらいいな、という想いもあります。
オンラインでもオフラインでも人とのつながりを大切に
――フルリモートワークという勤務形態に不安はなかったですか?
不安は全くなかったですね。もちろん、インターンシップを経て、社内のつながりができていたというのも大きかったですが、所属部署がフルリモートワークを前提とした職場なので、後ろめたさがないんです。
例えば会議の仕方でも、3人が会議室、1人がオンラインという参加の仕方だと、参加者の間に距離ができますよね。そこでうちの部署では、会議室に3人集まれる状況があったとしても、あえて全員をオンラインでつないで会議をします。お互い対等な状態が作れるよう、工夫しています。
――職場環境そのものがリモートワークしやすい体制になっているんですね。仕事自体は1人で黙々と進める形になりますか?
作業自体は1人ですが、毎日誰かとオンラインで通話する時間は作っていますね。
まず午前10時前後に毎日「アサカイ」(朝会)というのが開かれます。オンラインではありますが、そこでみんなが顔を合わせて、15~30分程度、仕事の進捗や困っていることを共有しています。
それから開発チームのメンバーとは午後からプログラミングを共同で行う時間をとることもあります。同じ作業をみんなで一緒にやるんです。
画面を共有してシステムを組んだり、並行作業をしたり。話しかけたいときには通話ができる環境を整えているので、他のメンバーにも気軽に声をかけて相談できます。オンラインではあるけれど、できるだけオフラインに近い環境を作ろうと思っています。
――作業する場所は自宅ですか?
家で働くか、コワーキングスペースで作業するか、どちらかです。
コワーキングスペースは、デザイナーさんや弁護士さんなど、地元の幅広い業界の人とつながりができるのが魅力です。いろいろな人と話せて、つながりができるような環境づくりは意識しています。
今後のチャレンジとしては、広島の中でも山の方とか島の方とか、いろいろな場所を転々として、現場の人と交流しながら仕事をしていきたいですね。
――東京へはどのくらいの頻度で出勤されているんでしょうか?
月に1度くらいの頻度で、1回につき3日間ほど滞在しています。オフラインで行われる1日を通した部署のミーティングや、都内で開催されるIT系のイベント、プログラム言語のカンファレンスなどに合わせて行っていますが、実は上司から出勤を命ぜられたことは一度もありません(笑)。出勤頻度や日数、その目的も委ねられています。
東京と広島をつなぐ役割を担いたい
――実際に数カ月ほど仕事をしてみて、どんな感想を持っていますか?
シンプルに、地元が大好きなので、広島で暮らせることが幸せですね!(笑)
それから、早速自分のやりたいことにつながるような仕事もできています。
弊社では、スタートアップの創業支援を行っているのですが、通常都内で行われているイベントを、広島に持ってきて開催することができました。良い起業アイデアがあれば、実際に出資を受けて事業を動かすことができる、実践的なイベントなので、地元の学生さんも刺激を受けてくれたみたいで、うれしかったですね。東京のスピード感を体感してもらえたのではないかと思います。
このイベントを通じて行政の人たちともつながりができ、自分にとっても財産となりました。
――今後の展望を教えてください
具体的なことはまだ考えている途中なのですが、広島の大学や高専とも引き続きつながりを持っているので、自分の積み上げてきた知見や、東京とのつながりを生かしたプロジェクトを回してみたいと考えています。
それから、まずは知見のあるエンジニアリングの分野で、若者の将来の選択肢を広げられるような仕組みを作っていきたいです。私自身があえて広島に残り続けて、東京と広島をつなぐ役割を担うことで、後に続いてくれる学生さんたちが増えてくれればいいなと思っています。