夏になるとどこからともなく現れる蚊。身近な虫だけに、「自力で飛べるのは2階まで」「O型が刺されやすい」など、噂レベルの話を耳にすることも多い。

今回は、そんな蚊にまつわる噂の真偽と対策法を、害虫防除のスペシャリスト・白井良和氏に聞いた。「他の人もいるのに、なぜか自分ばかり蚊に刺された……」という経験のある方は必読だ!


意外と知らない蚊の習性と刺されやすい人の傾向

まずは、巷で耳にするさまざまな噂について白井氏に伺ってみることに。意外と知られていない蚊の生態や習性を紹介しよう。

Q. 子どもは刺されやすい?

厳密には子どもが刺されやすいという明確なデータがあるわけではないんですが、新陳代謝が活発で体温が高く、肌がみずみずしいことに加えて、半袖半ズボンなど露出の多い刺されやすい服装も原因となり、大人より刺されやすい傾向があると言えます。

Q.お酒を飲んでいると刺されやすい?

アルコールが分解され、脈拍が上がって二酸化炭素の排出が多くなると刺されやすくなります。蚊はわずかな二酸化炭素の濃度差も感じることができ、二酸化炭素濃度の濃いほうに蚊が寄ってきます。

Q. 汗っかきは刺されやすい?

蚊は水分を感じて人に近づくため、汗っかきの人は刺されやすいと言えるでしょう。ただし、汗をかきすぎて肌が濡れる、肌表面が冷たくなると刺されにくくなる可能性あり。「熱・二酸化炭素・水分」が蚊を引き寄せる大きな要素ですが、汗などで濡れた肌にはなかなかとまりません。蚊は温度を感じて寄ってくるので、氷水などで冷やした場合もあまり寄ってこない。そのため、肌の表面を冷やすのは対策のひとつとして挙げられます。

Q. 「熱・二酸化炭素・水分」、刺されやすい要素で一番大きく影響するのは?

私の実験では、メジャーな蚊のヒトスジシマカの場合、水やドライアイス(二酸化炭素)だけ置いてもほとんど寄ってこず、カイロなどの熱には寄ってくるという結果が出たので、熱の影響は大きいのかもしれません。一方、コガタアカイエカという種類はドライアイスに集まってきたという結果も見られたので、種類によって何に反応しやすいかは変わってくる可能性があります。

Q. 血液型がO型の人は刺されやすい?

ハマダラカについて調べた論文(Wood, 1972)、ヒトスジシマカについて調べた論文(Shirai, 2004)において、O>B>AB>Aの順に刺されやすいというデータがあります。原因ははっきりしておらず、血液型物質ではありませんでした。蚊の刺されやすさには、体質的な別の要因が影響していると思われます。

Q. マンションの高層階には蚊が飛んでこない?

ヒトスジシマカは主に日陰にいてあまり動かず、人が近くに来たら数メートル飛んで刺す“待ち伏せ型”なので、基本的には低い階層までしか飛びません。アカイエカはヒトスジシマカに比べて長距離移動するため、ビル風やエレベーターを利用して高層階に上がることもあるものの、高いほど出現可能性は低くなると言えます。

Q. 池や川の近くは蚊が発生しやすい?

一般的に、蚊は1週間ほどで成虫になり、ちょっとした水たまり、マンホールの蓋の窪みのような極めてわずかな水たまりでも育ちます。逆に、池や沼、田んぼ、川、金魚鉢ほどの大きさや深さがあるところにはほとんど蚊は発生しません。植木鉢の受け皿で蚊が発生することもありますが、屋内での産卵は考えにくい。また、蚊の生息密度がよほど高い環境だと、日当たりのいい水たまりで育つ個体もいるかもしれませんが、水が蒸発するリスクが高いのでそういうところにはほとんど卵を産みません。

Q. 蛾などと同様に光に集まる習性がある?

蚊は暗い方向へ行く習性があります。蚊帳の中で120匹の蚊を放して蛍光灯だけの電撃殺虫器を1個置いた実験では、1匹しか入りませんでした。LEDなど明かりが出るタイプのもので蚊がけっこう入るものもありますが、それは二酸化炭素も出すものであったり、ファンで吸い込んだりというものです。

Q.黒い服は蚊を寄せ付ける?

明色・淡色より濃色・暗色が寄せ付けやすいので、黒い服は蚊を寄せ付けます。白黒の模様が蚊を誘引するという論文もありますが、基本的には黒に引きつけられていると思われます。

Q.柑橘系の香りは蚊が嫌がる?

シトロネラの香り、シトロネラールという成分を蚊は嫌います。レモンユーカリに含まれるメンタンジオールという成分も効果が高く、蚊を忌避します。

刺されないために必読の対策編

噂の真偽を明らかにしたところで、ここからはそれを踏まえた対策についても探っていこう。

Q. 服の選び方、汗対策、食事など自分でできる対策は?

服はなるべく明色、淡色のものを着ましょう。また、蚊が多い場所では、炭酸飲料や酒は控える。

そして、皮脂や足のニオイ、手のひらの汗成分が蚊を誘引するため、洗って清潔に保つ。足は特に刺されやすいため、蚊が多い場所では靴下と靴を履くことをオススメします。足のニオイが蚊を誘引するという論文があり、私もイソ吉草酸という足のニオイ成分で蚊を誘引する実験をしています。どの部位が刺されやすいかを検証する実験では、やはり足が一番刺されやすい。蚊は刺せれば基本どこでもいいので、人間が立った状態では高く飛ぶのが億劫で足を狙いやすいとも考えられますが、同様の実験で人間が横たわった状態でも足が刺されやすかったという結果があり、蒸れ(水分)やイソ吉草酸(ニオイ)などが影響していると思われます。

Q.自宅に侵入させないためにできることは?

明るいうちに雨戸や窓を閉める、ドアや窓の開閉はなるべく素早くする。網戸のある窓を半開きにする際は、網戸に接している窓ガラスでなく、隙間が大きくならないように網戸から遠い方の窓を半開きにしましょう。エアコンから蚊が入ってくるということは考えにくいです。特にアカイエカは二酸化炭素の濃度などで人の気配を察知し、窓や玄関を開けた時にスッと入りやすい。待ち伏せ型のヒトスジシマカは人を追いかけて家まで侵入します。

Q.虫よけスプレーの選び方は?

香りの種類や無香料タイプなどは好みに応じて選んでOK。足など広範囲にかける場合はスプレー(エアゾール)が便利ですが、顔などに使用する場合は目の周りにかけないようにミストタイプを手のひらにつけてから塗ったり、濡れシートタイプを使いましょう。

Q.刺されてしまった後の対処は?

かゆみ止め成分が入った皮膚薬を塗るのはもちろんのこと、冷たすぎない溜め水、流水で冷やすのも有効です。皮膚温度が上昇して血行が良くなるとかゆみは増します。極端な熱刺激や痛み刺激でかゆみから気を逸らす手もありますが、冷刺激がより安全です。


刺されやすさにはさまざまな要因があり、何かひとつが当てはまっても、他に当てはまらない要素があれば一概に刺されやすいとは言えないのかもしれない。

近年は、日本国内でデング熱に感染したという事例も出てきている。こういった感染のリスクなどを減らすには、当然のことながら蚊に刺されないようにすることがもっとも大切だ。その対策をするにあたって、今回の取材で明らかになった噂の真相が少しでも役に立てば幸いである。

監修者

白井良和

害虫防除技術研究所代表、有限会社モストップ取締役

京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科、富山医科薬科大学大学院医学系研究科修了。
京都大学農学部昆虫学研究室で農業害虫コナガ、殺虫剤メーカーでゴキブリベイト剤を研究し、富山医科薬科大学医学部感染予防医学教室にて、蚊の誘引に関する研究で医学博士号を取得。
害虫防除技術研究所を2001年に設立。害虫駆除会社にて、蚊、ゴキブリ、ハチ、ネズミなどの害虫・害獣駆除に従事し、有限会社モストップを2003年に設立。
蚊をはじめとする害虫忌避剤、蚊捕獲器の評価試験や、出版、各メディアへの情報提供を行っている。著書に『蚊の対策がわかる 蚊の教科書』(モストップ)、『蚊のチェックポイント71』(モストップ)、共著に『蚊のはなし』(朝倉書店)など。