8月3日にスタートする東海テレビ・フジテレビ系ドラマ『それぞれの断崖』(毎週土曜23:40~)の主演を務める俳優・遠藤憲一。自身の息子を殺した加害者少年の母と惹かれ合うという禁断の役で、「テレビに出始めてからは、一番過激なパターン」と語る。
そのため、オファーを受けても苦悩が続いたが、いざ引き受けてからはスタッフへ積極的にアイデアを出すなど、かなり意欲的に取り組んでいるという。そんな今作に臨む心境を聞いてみた――。
■オファーを受けて2カ月保留
小杉健治氏の同名小説が原作で、自身の息子を殺した加害者少年の母と惹かれ合うという禁断の愛を演じる遠藤。この役のオファーが来た際、「おいそれと『やります』とはなかなか言えなかったですね」と振り返る。
それは「主人公って普通視聴者に共感されるじゃないですか。これは間違いなく反発されるので、そこのところに一歩踏み出せるかどうかは、相当勇気がいりました。やっぱり1つの作品を背負ってく役が共感を得ないというのは大丈夫なのかな、というのがすごくあって、相当悩んでお受けさせていただいたんです」という。
昨年6月に最初のオファーが来て、受けたのは8月になっていたそうで、「なんで(オファーを)躊躇(ちゅうちょ)したのかと思うと、やっぱり守りに入っていたんだと思うんですよね。ただテレビに映りたいとか、そういうのないんで(笑)、失敗するのが怖かったんでしょうね。『なんだこれ!?』とか『何この役!?』とか、自分の中で表現を楽しめるところまで持ち上げていけるのかが、すごい不安だったんだと思うんです」と自己分析。
それでも、「考えてみたら、とんでもない役もいっぱいやってきてるし、別に俺に対してのイメージなんかそんな大したもんじゃないし、そんなものはぶっ壊してもいいかなと思った。守りに入りそうだったのに気づいて、むしろやるべきなんだろうと時間をかけて思ったのが大きいですかね」と心境に変化が生まれ、「最後は女房(マネージャー)に『あなた自身が決めなさい』って言ってもらえたので、ここで顰蹙(ひんしゅく)を買おうが、何を言われようが、そういうところにもう1回突入するのも面白いなというふうに変わってきた」と、出演を決断したという。
■連ドラ続き疲労も「かつてないくらい充実」
そうした苦悩があるだけに、この役を引き受けてからは「とにかく思いつく限り、アイデアなり、自分の持ってる経験値といろんなものを、その瞬間瞬間の中に吐き出していこうと思ったんです」と決意。「俳優がなんだかんだ言うのって、大半はスタッフさんに嫌われるんです(笑)。『こうしてみたい』とか言うと、場が凍りつくんで(笑)。だけど(脚本の)準備稿が上がるとそれを頂いて、自分なりに『こういうのはどうですか?』とプロデューサーさんにアプローチして、もう1回直して…そういうのを繰り返しながら、1つの台本を作っていくんです」と、意欲的に取り組んでいる。
さらに、「(撮影)現場に入ったら、『基本的にこういうものを撮りたい』ってカメラマンさんに言います。それから、(自分が)いかつい顔なんで、怖い役だったらいいんですけど、普通の部分も持っている役なんで、そのへんを照明さんに応援してもらったり、とにかく各パート全ての人に協力してもらってディスカッションしながら作り上げているんです」といい、「始めはやっぱり『えっ!?』って顔されて、相当嫌われたと思います(笑)。でも、ツボになるシーンで『こういうのはどうですか?』って言うと、スタッフの皆さんが一斉にそこに向かって必死に動いてくださるんです」と、チームワークが生まれているそうだ。
実は、月9ドラマ『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(4月期放送)撮影の後半から、およそ1カ月全く休みがない状態で今作に入ったという遠藤。「体は疲れてるんですけど、作っていく過程は、かつてないくらい充実してます。だから、やりながら回復して元気になっていくこともあるんだなということを初めて知りました」と、プレッシャーがエネルギーに変化しているようだ。
■大人のキスシーンで“新たな領域”開拓へ
しかし、あらためて今回の役柄について聞いてみると、「テレビに出始めてからは、一番過激なパターンですね。被害者家族と加害者家族が結ばれるって、元がデリケートなので」とのこと。
そんな題材を扱うからには「ビックリ箱を開けるように、『ホレ合っちゃいました』で終わるんじゃいけない。なぜ、こういう形になっていくのか。自分の息子を殺した子が出所した後も描いていく中で、その子と好きになった母親と自分の3人が、どういう接し方をしていくのか。また、自分と離れた家族はどういう人生をたどっていくのか。そうしたストーリーを知った上で、どうやって描いていくんだというのを楽しんでほしいと思います」と話した。
また、全8話の中で、後半は原作にない部分が描かれるという。「最後は家族の再生まで描いていくんです。こんなドロドロ状態からの再生をどうやって描くのかのは見どころになります。ただの『めでたし、めでたし』にはならず、もう一歩深い再生というのが表現されると思うので、そこをぜひ楽しみにしてほしいなと思います」と予告した。
一方で、「58歳にしてキスシーンもあります(笑)。まだ撮ってないので、そこもまた1つのハードルです」と、別のプレッシャーがある様子。「まさかこの年で禁断の愛を演じて、キスシーンをやるとは思ってなかったですね。昔は、そういうシーンがあっても無理やり襲うほうだったので、そういうのはいけるけど(笑)、お互いがラブラブでというのは、ほとんどお初に近いので。それをどういう風に撮っていくかというのを、照明さんやカメラマンさんや監督さんと相談しながらやっていきます。だって見ている人が気持ち悪くなっちゃったらおしまいだから(笑)」と苦笑いする。
このシーンの構想としては「若い子たちの“チュッ”っていう次元じゃ済まされないので、生々しくならずに、それでも激しいという新たな領域を一生懸命開拓しようとしています。“激しく美しい”というのがテーマです」と目標を掲げていた。