収益だけでは測れない教習車の価値

さまざまな改良を加えているところを見ると、マツダにとって、教習車は重要な商品であるらしい。教習所は全国にあるし、実際のところ、商売の上でも収益は大きいのだろうか。マツダで教習車の開発担当(主査)を務める冨山道雄さんの答えはこうだ。

「いえ、ビジネス的にいうと、そんなに大きな果実がある分野ではありません。でも、初めて乗るクルマがマツダのクルマであるということ、そして、そのクルマがとても運転しやすくて、早く免許を取れたということにでもなれば、教習車は、マツダがファンを作る上で、起点になってくれるクルマになるはずです。そうなってほしいと思っています」

マツダの日本国内でのシェアは5%くらいだが、実際のところ、マツダの教習車で免許を取得した人が卒業後にマツダ車を買う割合は、5%よりも大きいという。長い付き合いとなる顧客(ファン)は自動車メーカーにとって重要な存在だから、全ての免許取得者にとって初めて運転するクルマとなる教習車で、どれだけ好印象を残せるかはマツダにとって重要だ。教習車は自動車メーカーにとって、潜在顧客とのタッチポイントになる。

とはいえ、教習車は商品でもあるのだから、どのくらい売れるのかも気になるポイントだ。教習車市場において、マツダはどのようなポジションなのか。マツダ 国内営業本部の小野弘行さんによると、同社のシェアは現在、22%くらいだという。かなり高い印象だが、最もシェアが高かった頃は5割近くまでいったそうだから、これでも下がってきている。なぜ、シェアが下がったのか。冨山さんに聞いてみた。

「やっぱり、サイズが(相対的に)大きくなったからですね。マツダの教習車は2代続けてアクセラをベースに作ったのですが、最初のアクセラでシェアが5割くらいまで伸びました。その後、競合からもいろんなクルマが出てきて、それらとサイズを比較した時、マツダはサイズも最小回転半径も、少し大きかった。それで、ちょっとずつお客さまが競合にいってしまった、というのがこれまでの流れです」

ただ、新型が商品力の面で競合に劣っている点は「どこもないと思う」と冨山さんは自信を示す。シェアについては、「V字回復させたいですね(笑)」とのことだ。

  • 新型「マツダ教習車」

    自ら教習車を作っている自動車メーカーは、マツダ、トヨタ自動車(カローラのセダンがベース)、ホンダ(グレイスというセダンがベース)の3社くらいだそう。教習車の顧客は教習所なので、開発に際しては「経営者目線」も重要だと冨山さんは話す。つまり、維持費がいかに安く抑えられるかということで、例えば新型「マツダ教習車」(画像)では「燃費がよくて、クラッチの交換頻度が少なくて、タイヤが安いこと」にこだわったそうだ

マツダが教習車の改良に注力する理由は分かった。ただ、1つだけ気になったポイントがある。

いいクルマで練習できるのは教習生にとって嬉しいポイントだと思うが、そういう人が実際にクルマを買って道路に出た時に、感覚が違いすぎて、逆に困るというケースはないのだろうか。

免許を取ってから初めて買うクルマには、かなり年式の古い中古車であったり、あるいはリッチなご家庭であれば大きな輸入車を買ってもらったりと、いろんなケースが考えられる。全てが新型マツダ教習車ほど、運転しやすい性能やサイズ感を備えたクルマではないはずだ。重いボールを使って練習しておけば、本番ではより遠くに投げられたりするものだが、これとは逆のメカニズムが、教習車の世界では働かないのか。冨山さんは以下のように考えているそうだ。

「教習車は誰でも、ゼロからのスタートですよね。ゼロからスタートする時、早く運転操作に慣れることができたり、車両の感覚がつかみやすかったりすると、教習生の習熟度合いも違ってきますから、それから後の上達は早いと思うんです。その後は、いろんなクルマにも応用がきくようになると我々は考えているんですけどね。できれば、デミオを買ってもらうのが一番いいかなと思ってますけど(笑)」

しっかりとした基礎を築いておけば、その後は幅広く応用がきくということなのだろう。

  • 新型「マツダ教習車」

    しっかりとした運転の基礎を築く上で、教習車は重要な存在だ

クルマが好きで、早く運転がしてみたくて免許を取得する人もいれば、生活する上で必要だから免許を取得する人もいる。クルマを運転することが楽しいと感じられれば何の問題もないが、運転に自信がなかったりして、いやいやながらクルマに乗っている人にしてみれば、移動時間は憂鬱なものなってしまう。

同じ移動時間であれば、楽しく過ごしたい。そういう意味でも、教習車を運転する教習生が、クルマに対して好印象を抱くかそうではないかは重要だ。そのうち、運転が嫌いな人は、自動運転車にしか乗らなくなってしまう時代が到来するかもしれない。自動車メーカーにとって、教習所でクルマ好きを増やせるかどうかは、将来の顧客を確保できるかどうかという問題に直結しているともいえるのではないだろうか。

  • 新型「マツダ教習車」
  • 新型「マツダ教習車」
  • 新型「マツダ教習車」
  • 新型「マツダ教習車」
  • 「マツダ教習車」の先代モデル

    こちらは「アクセラ」をベースとする「マツダ教習車」の先代モデル