「多様性」が大切だとさまざまな場面で言われるようになりましたが、価値観の異なる相手と一緒にものごとを進める上で、我慢や配慮無しでは衝突を生んでしまうものです。今回は「アンコンシャス・バイアス」という言葉をめぐる諸問題について解説します。

  • アンコンシャス・バイアスの意味を理解していますか?

アンコンシャス・バイアスとは

アンコンシャス・バイアス【unconscious bias】とは、日本語に訳すと「無意識の偏見」です。

自分ではまったく自覚しておらず、そんなつもりもないのに、実はえこひいきをしたり、差別につながる歪んだ見方をしたりしている。

年齢・性別・身体的特徴・宗教・人種などあらゆる「自分たちとは違う」グループに対して、無意識のうちに不公平な偏見を持っている。これがアンコンシャス・バイアスです。

たとえば「20歳の異性」と聞いてどんな相手を思い浮かべますか? その想像の中にもアンコンシャス・バイアスは潜んでいます。

注意しなければならないのは、誰しもがアンコンシャス・バイアスを持っているということです。それは別の言い方をすれば、「価値観」や「嗜好」だからです。

ただし、「自分は家族との時間を優先したい」という価値観や、「私はコーヒーより紅茶が好き」という嗜好に比べると、アンコンシャス・バイアスは自覚症状が無いという意味でやっかいな代物です。

アンコンシャス・バイアスの具体例

たとえば、子育て中の女性に対し、仕事の負担を軽減させようとして、部署を異動させたり、簡単な作業を割り振ったりしたとします。もちろん、相手をおとしめようとしたつもりはありません。

しかし、もしその女性がキャリアアップを重要だと考えていたらどうでしょうか? 重要な仕事に参加する機会を奪い、活躍を妨げてしまったともいえます。

せっかくの意欲も能力も生かせないのなら、その管理職の判断は組織にマイナスの影響を与えてしまいました。これがアンコンシャス・バイアスによる悪影響のひとつです。

また、「若者は頭が柔らかい」「老人は頑固だ」というのも陥りがちなアンコンシャス・バイアスです。私たちは、画期的なITサービスのアイディアを求めるなら、68歳よりも22歳のほうが適しているように思っていますが、本当にそうなのでしょうか?

多様性の受容とアンコンシャス・バイアス

アンコンシャス・バイアスはさまざまな悪影響をもたらします。例えば、職場の人間関係です。年下に対してきちんと応対せずに、いつもスマホをいじりながら話しては、相手をムッとさせるでしょう。些細なことでも、積み重なるとどんどんこじれていくものです。

さらに、個々の素質を見極めようとせずに「理系だから」「女性だから」といった固定観念に基づいていては、採用・育成・評価などの人事が硬直化する恐れがあります。

特に最近は、社会のニーズが多様化していくなかで、職場もまたダイバーシティ(多様化)が求められるようになりました。お互いが偏見を持ったまま働いていては、組織としてのパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。


働き方改革を通じて、育児と仕事を両立させるための法制度もかなり整ってきました。しかし、「男性が育休を取るなんて考えられない」「復帰後は閑職に飛ばされる」といった暗黙の了解がある限り、制度を生かすことはできません。

「私たちはアンコンシャス・バイアスという無自覚な思い込みを持っている」この事実に気づくことが、働きやすい環境づくりのための一歩目となります。