働く女性は、特に生理前後の身体の不調など、体調の変化を敏感に感じることが多いだろう。しかし、婦人科の病気は痛みや出血などはっきりとした自覚症状がないことも少なくないため、気づいたときには進行しているケースもある。そんな婦人科の病気の一つであるカンジダ膣炎の症状や原因などについて、産婦人科専門医の船曳美也子医師にうかがった。

  • カンジダ膣炎の症状と原因を専門医が解説

カンジダ膣炎の症状

カンジダ膣炎とは、カンジダ(カビの一種)の増殖によって膣の炎症を起こし、帯下(おりもの)が増え、外陰がかゆくなる病気。比較的頻繁にみられる病気で、75%の女性が一生に一度は罹患すると言われている。

「症状は『外陰部のかゆみ(特に痛がゆいかゆみ)』『尿がしみる感じ』『おりものの増加』です。典型的なカンジダ膣炎では、白色でカッテージチーズや酒粕のようなポロポロとしたおりものが増えます。ひどいときは緑白色になります。反対に、かゆみだけで、あまりおりものの症状はなくても、膣分泌物培養検査をするとカンジダ菌が増殖していることもあります」

カンジダ膣炎の原因

カンジダ膣炎の原因は「Candida albicans」というカビ菌。

「カビというとびっくりされるかもしれませんが、実は大腸、小腸などの消化管や口腔、皮膚などに常在菌として存在しています。直腸から排便を通して、肛門、外陰を経て膣に移行します。成人女性の約15%の方は、膣の常在菌としてカンジダ菌を保有していますが、増殖して症状を発症する確率は約4割です」

発症のきっかけは、抗生物質の内服によるケースが最も多いが、妊娠や糖尿病も誘因となる。日常生活では風邪をひいたり、過労や睡眠不足などによって免疫力が低下していたりなど、体調不良時にも起こりやすい。また、通気性の悪い下着の着用でも増えやすくなるという。

「性行為の後に頻回に繰り返しカンジダ膣炎になる場合は、性行為感染症の可能性もあります。その場合は、パートナーに泌尿器科受診をしてもらうほうが良いでしょう」

カンジダ膣炎と間違えやすい病気

カンジダ膣炎以外に外陰部にかゆみを生じる病気は、以下の通り。

細菌性膣炎……白~黄色のおりものが増える。

トリコモナス膣炎……黄色のおりものが増える。性交後に出血しやすい。

特に初期の外陰性器ヘルペス……陰部に1ミリ程度の小さい水ふくれやごく小さい潰瘍ができる。

これらの疾患は、外陰部のかゆみ以外に上記のような特有の症状が出現するため、カンジダ膣炎かそれ以外の病気かを判断する参考にしてほしい。

「免疫力が低下していると、同時に2種類の病気にかかっているケースも考えられます。慢性的にかゆみがある場合、菌はいないけれども、皮膚が慢性的な炎症で過敏になっているような状態もあります」

妊娠への影響

妊娠によるホルモンバランスの変化により、妊娠中は膣内にカンジダが増殖しやすくなるが、膣内のカンジダが子宮内の赤ちゃんに直接影響することはないそうだ。

「妊婦のカンジダ症は、分娩で赤ちゃんが産道を通過するときに感染し、赤ちゃんが局所的な口腔内カンジダ症(新生児鵞口瘡: しんせいじがこうそう)を起こす可能性があります。発熱や全身カンジダ症の原因ともなりますので、分娩までに治療したほうがよいです。また、妊娠中期に破水して膣のカンジダが子宮に感染した場合、未熟な状態で生まれた赤ちゃんに感染し、全身のカンジダ症や呼吸器の重篤な状態になることがあります」

カンジダ膣炎の治療法

カンジダ膣炎の治療は、かゆみのある外陰部には抗真菌剤(エンペシドクリームやオキナゾールクリームなど)を一日3~4回塗る。初めて塗布した際は若干 ピリピリした感覚を覚えるかもしれないが、基本的には心配はいらないという。ただ、ひどく発赤したり、症状が強くなったりするようならば塗布は中止するように。

また、膣内のカンジダ菌をなくすために、膣内を洗浄すると同時に抗真菌剤(エンペシド膣錠やオキナゾール膣錠など)の錠剤を投与する。

「錠剤には週1回の投与で持続効果があるタイプと、6日間の連日投与のタイプがあります。後者の場合は連日通院していただき、洗浄と膣錠投与をします。週1回の場合、もし薬がすぐに落ちてしまったときには再投与が必要です。90%の方は、最初の1週間か2週間で治癒しますが、再発を繰り返して時間がかかる場合もあります」

そのほか症状の強いときは、抗炎症作用のある軟膏を併用することもあるという。

カンジダ膣炎の予防法

カンジダ膣炎を予防するためには、腸内の菌が膣内に入らないように、排便時は前から後ろに拭くようにすることが重要だ。また、腸内環境を整えるために、食物繊維(ごぼう、海藻、豆)や乳酸菌の多い発酵食品(味噌、酢、納豆、チーズ)、ビフィズス菌のエサのオリゴ糖(バナナ、ニンニク、玉ねぎ)、ヨーグルトといった食品を多く摂るとよいという。

「湿度が高いとカンジダ菌は増えやすいので、通気性のよい綿の下着をはき、ゆったりした洋服を着用しましょう。また、月経中のナプキンや月経以外でのおりものシートはマメに交換しましょう。下着は、むれないような通気性のよい、また吸収のよい綿などの製品を使用し、化学繊維は避けてください」

外陰部は清潔にしたほうがいいものの、症状があるときは普通の石鹸で洗うと皮膚や粘膜を刺激し、かえって炎症を悪化させることがあるため、ベビー石鹸を使用するか、あるいはぬるま湯のみで洗うようにするのがいいそうだ。

おりものが増えたり、外陰部のかゆみを感じたら、カンジダ膣炎の可能性がある。さらに、他の病気にかかっていることも考えられるので、早めに受診するのがよさそうだ。

※写真と本文は関係ありません

取材協力: 船曳美也子(フナビキ・ミヤコ)

1983年 神戸大学文学部心理学科卒業、1991年 兵庫医科大学卒業。産婦人科専門医、生殖医療専門医。肥満医学会会員。医療法人オーク会勤務。不妊治療を中心に現場で多くの女性の悩みに耳を傾け、肥満による不妊と出産のリスク回避のために考案したオーク式ダイエットは一般的なダイエット法としても人気を高める。自らも2度目の結婚、43歳で妊娠、出産という経験を持つ。2014年、健康な女性の凍結卵子による妊娠に成功。出産に至ったのは国内初とされる。著書に、「婚活」「妊活」など女性の人生の描き方を提案する著書「女性の人生ゲームで勝つ方法」(2013年、主婦の友社)、女性の身体について正しい知識を知ってもらえるよう執筆した「あなたも知らない女のカラダ―希望を叶える性の話」(2017年、講談社)がある。En女医会にも所属している。

En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。