忙しい毎日、電車やバスでの移動時間に空いた座席が見つかると、ほっとする人も少なくないだろう。そしてちょっと休息を取ろうと目を閉じたら、いつの間にかウトウトと居眠りをしてしまった……という経験を持つ人もいるはずだ。

ただ、左右に人がいるような窮屈な姿勢で寝るのは、決して自然な就寝スタイルではない。下手をしたら、無理な姿勢で寝たことにより首を痛めてしまいかねない。そこで、そのような事態を避けるべく、整形外科専門医の長谷川充子医師に首を痛めない眠り方についてうかがった。

  • 首を痛めない眠り方とは?

    首を痛めない眠り方とは?

寝違えなどで睡眠中に首が痛くなる原因

普通にベッドや布団で寝ていても、起床時に首に痛みを覚えた経験は、誰しも一度や二度はあるだろう。これは俗にいう「寝違え」だが、寝違えの原因は睡眠中の姿勢にあると考えられている。

首は頚椎という7つの骨が上下に積み重なって構成されている。日中の覚醒時における姿勢では、重い頭を支えながらうつむいたり、振り向いたりと、いろいろな方向にこの頸椎が首を動かしている。

一つの頚椎の骨には多くの突起があり、上下の骨がずれないように組み合わさりながら、小さな関節を形成している。頭を上下左右にひねると、その組み合わさっている部分の小さな関節(椎体関節)に負担がかかる。

「例えば、寝ている間の姿勢がその関節に負担がかかるような状態であれば、起きたときに痛みを感じる原因となるでしょう。具体的には『合わない枕を使用した』『寝ている間に枕がどこかにいってしまって枕なしで寝ていた』『ソファなどで変な姿勢で寝てしまった』といったケースが考えられます」

首に負担を与えやすい行為や行動

頸椎は重い頭を支えている首の支柱の役割を果たしている。そして、その頚椎は周囲の筋肉により支えられている。

「頚椎は真っすぐなのではなく、本来は前弯(ぜんわん)しています。前弯とは首の後ろ側がくびれ、前側が出っ張るカーブを描く形です。首からお尻までつながる人間の脊椎は首が前弯、背中が後弯、腰が前弯となって横から見るとS字カーブを描いていて、そのバランスで頭の重みや体を支えています」

全体のバランスが悪いと周囲の筋肉に負担がかかり、肩こりや首・背中の痛み、腰痛、さらには頭痛などといった症状をきたす可能性がある。

顎が上がり、首が「伸展位(首を上に反らしたような姿勢)」となる状態

頭が前に傾きうつむく状態

こういった状態が続いたり、これらの姿勢を繰り返したりすることで首に一層の負荷がかかると覚えておこう。

日常生活では例えば、座る際に腰の部分が後ろに丸くなるような背中が丸まった姿勢では、頭の位置が後ろに来ないとバランスが取れない。そのため、頚椎は伸展位になってしまう。

「頚椎は伸展位になると、上下の骨がずれないように支えている小さい関節(椎間関節)が押し付けられるような状態となり、首に痛みが生じる原因となります。つまり、長時間もしくは、何度も上を見上げないといけないような作業や、座り姿勢やパソコンのモニターの位置によっては、デスクワークでも顎を突き出して首が伸展した状態となるので首に負担のかかる姿勢と言えます」

そのほか、うつ伏せに寝て、頭を上げてスマホを見るのも首が伸展位となり、負担のかかった状態と言える。

逆に頭の位置が前に来る、いわゆるうつむき加減の状態が続くと、重い頭の重心が前に移動する。それを支えるため、首の後ろの筋肉は過度に緊張した状態が続く。結果として、筋肉の痛みが出る可能性が高まってしまう。

「デスクワークでも、細かい作業などではうつむく機会が多くなりがちですし、ノートパソコンでもモニターが小さいとその位置が必然的に低くなるので、うつむき加減になりやすいです。立ち仕事でも、うつむいて作業する時間が多いようですと、首に負担がかかります」

また、通勤途中や自宅でスマホを見る機会が多い人もうつむき加減になっているので、首に負担がかかりやすいと言える。

電車での居眠り時に首を痛めやすいシーン

首の伸展および屈曲が長時間続くと負担になりやすいが、移動中の居眠りでもそのような姿勢になってしまうケースは少なくない。例えば、電車の中での居眠りなどでは頭が前に垂れてしまいかねないが、首だけでなく、胸から前に傾くと背中の痛みまできたす可能性もあるとのこと。

「また逆に、顔が上を向いてしまうほど首が後ろに反った状態や、横にかしげた状態になることもありますが、その状態だけでも首に負担がかかります。電車が揺れるなどの衝撃が無防備な状態の首にかかり、痛みのきっかけとなることもあります」

頭を置ける高さの背もたれがないような場所での居眠りには、注意した方がいいだろう。

寝違えや電車内の居眠りで首を痛めた際の対処法

寝違えは、枕が原因になるケースが多いと考えられる。枕は首のカーブ(頚椎の前弯)や後頭部の出っ張り具合(後頭部の骨の形)、さらには背中の厚みや丸み(胸椎の周りの筋肉、脂肪、頚椎の後弯など)によって、最適なものが個々人によって異なると長谷川医師は解説する。

「頚椎の椎間板や椎間関節の状態によっては、枕選びは慎重にしたほうが良いと思いますので、整形外科医に一度ご相談ください。枕を変えてから痛みが出ることも多いですが、枕を変えていなくても、徐々にへたってきて高さが低くなります。最初に合わせたときとは形状が異なってきている場合がありますので、同じ枕を長期間使っている方も見直しが重要になってきます」

電車内での居眠りについては、頭を支える部分がうまくフィットするような座席であればいいが、なかなかそのような座席は日常的にはない。自らできる実践策として「少ししっかりめの大きな手荷物を膝の上に置いて、さらに前で手で頭を支える」など、支えをつくって首への負担が少ないように工夫するとよい。

「それでも『起きたら痛かった』という場合は、手で頭を支えて無理に動かさないようにしましょう。急に動かしたり、ほぐそうとして首を回したり、マッサージなどをしたりすることで悪化する可能性もありますので、注意が必要です。できるだけ痛くない姿勢で日中を過ごすようにし、寝るときも楽な姿勢を探して枕を調整するほうがよいでしょう」

症状が続く場合や手がしびれるといった症状がある場合には、整形外科を受診するようにしよう。

※写真と本文は関係ありません

取材協力: 長谷川充子(ハセガワ・ミチコ)

整形外科専門医。日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医。日本整形外科学会認定スポーツ医
大学病院の整形外科、総合病院の整形外科医長を経て、現在は整形外科クリニックに勤務し、整形外科の診療をしている。 En女医会所属。

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150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。