山口県下松市の市制施行80周年事業として、日中に鉄道車両を陸上輸送するイベントが14日に行われた。日立製作所笠戸事業所で製造された英国向け高速鉄道車両「Class 800」シリーズの先頭車2両が陸送され、約3万5,000人が沿道に集まった。

  • 「Class 800」シリーズの先頭車が日立製作所笠戸事業所を出発(写真:マイナビニュース)

    「Class 800」シリーズの先頭車が専用トレーラーに載せられ、日立製作所笠戸事業所を出発

「道路を走る高速鉄道車両見学プロジェクト」と銘打たれたイベントの開催は今回が2回目。下松市にある日立製作所笠戸事業所は国内外の鉄道車両の製造で知られ、おもに交通量の少ない夜間、鉄道車両の陸送も行われる。これを日中時間帯に行い、一般公開して「鉄道産業のまち下松」を全国に発信するとともに、こどもたちに夢と郷土への誇りを持ってほしいとの思いからプロジェクトが企画されたという。

1回目のイベントは下松市の主催で2017年3月に行われ、地元のこどもたちをはじめ、市民や全国の鉄道ファンら約3万人が訪れた。2回目となる今回、下松市と下松商工会議所が中心となり、関係機関とともに実行委員会が設立され、イベントを成功させるためのクラウドファンディングも実施。目標金額(500万円)を上回る604万円の支援を得て成立している。支援者へのリターンとして、イベント当日のスタートエリア(日立製作所笠戸事業所構内)で特別に観覧・撮影できるチケットなどが用意された。

  • 日立製作所笠戸事業所でスタートセレモニー。テープカットなどが行われた後、「Class 800」シリーズの先頭車2両の陸送がスタート

「Class 800」シリーズは、日立製作所が英国の都市間高速鉄道計画(IEP : Intercity Express Programme)向けに開発した車両。2012年7月に英国運輸省と製造等に関する契約を締結し、追加分も含めて122編成866両を受注。2015年1月に笠戸事業所から出荷を開始し、英国でのテスト走行などを経て2017年10月にグレート・ウェスタン本線(GWML)、2019年5月にイースト・コースト本線(ECML)で営業開始している。

国内での製造は終盤にさしかかっており、今回のイベントで陸送された先頭車2両は121編成目とのこと。先頭車2両のうち1両はファーストクラスの車両で、車内での飲食用にキッチンも設置するという。「Class 800」シリーズの特徴として、電化区間・非電化区間の両方で走行できる「バイモード」を採用しているとの説明もあった。

  • 車両を載せた専用トレーラーが陸送ルートを走行。沿道に多くの人が集まった

  • 下松第2埠頭付近に到着した後、エンディングセレモニーが行われる

イベント当日、日立製作所笠戸事業所で陸送される先頭車2両が披露された後、スタートセレモニーを実施。「道路を走る高速鉄道車両見学プロジェクト」実行委員長で下松商工会議所副会頭の弘中義昭氏が挨拶し、イベント開催にあたり「すべてに優先するは安全です。心に残る楽しいプロジェクトとなるように、細心の注意を払っての見学をお願いします」と述べた。山口県知事の村岡嗣政氏、下松市長の國井益雄氏、日立製作所笠戸事業所 事業所長の川畑淳一氏らによるテープカットの後、10時頃に陸送がスタート。専用トレーラーに載せた先頭車2両が笠戸事業所を出発した。

専用トレーラーは約10km/hの速度でゆっくり走行。雨の中、今回も陸送ルート(県道366号)の沿道には市民や鉄道ファンらが多く集まった。クラウドファンディングを行った目的のひとつに安全管理の徹底が挙げられ、多数の警察官が動員されたこともあってか、陸送中は大きなトラブル見舞われることなく目的地へ。沿道の人々のマナーに感心する声も聞かれた。10時50分頃、車両を載せた専用トレーラーは下松第2埠頭付近に到着。市民らも見守る中、エンディングセレモニーが行われた。

  • 下松第2埠頭へ陸送された先頭車2両は今後、手続等を経て輸出される。英国に到着した後で最終の仕上げを行い、試運転等も行うため、この車両が営業運転を行うまでに1年以上はかかる見込みだという

下松市の國井市長は、「こうした天候の中、多くの皆様に集まっていただき、ありがとうございました」「貴重な車両を提供いただいた日立製作所、車両を運搬された日立物流、県道の通行許可をいただいた山口県、警察関係の方々、この計画に取り組んできた実行委員会、沿道の自治会や企業など、まさに総ぐるみで事業を展開できました。心からお礼を申し上げます」と挨拶。「今日は多くのこどもたちに見てもらい、また全国各地から集まっていただき、クラウドファンディングでも全国の皆様にご協力いただきました。感激しております。イベントは大成功だったと自負しています」と述べた。

山口県の村岡知事は、「ここへ来るとき、県外のナンバーを多く見ました。全国から下松へ見学に来られたようで、素晴らしい魅力発信になっていると思います」と挨拶した。日立製作所笠戸事業所の川畑事業所長は、今回陸送された先頭車2両に関して、「後日、輸出の手続き等を行い、この埠頭から1カ月半~2カ月かけてイギリスへ運ばれる段取りとなっています」と説明。「Class 800」シリーズの最後となる122編成目も今月中に発送を終える予定とのことで、「この大プロジェクトを成功裏に終えられるのも下松の皆様によるサポートのおかげ。これからも下松市に居を構え、国内外の鉄道車両を作っていきたい」と話していた。

  • 陸送された「Class 800」シリーズの先頭車2両の外観。うち1両はファーストクラスの車両で、窓をふさいだ部分がキッチンとなる予定