以前の記事で、主に朝夕の通勤時間帯に走る、特別料金を別途収受して着席を保証する列車について紹介した。そして、京王電鉄、東急電鉄など、それまで座席指定制または定員制の列車を運転したことがなかった「新規参入組」では、今後、こうした列車の拡充に積極的になるであろう一方、意外に寿命は短く、居住性にすぐれ経営効率上でも有利な、リクライニングシート装備の「座席指定特急」へと変化するのではないかと考察した。

「着席保証列車」はもう古い?

事実、JR東日本では、2019年3月16日のダイヤ改正で、「ライナー」と総称されてきた通勤客向けの着席保証列車のうち、中央本線の「中央ライナー(東京~高尾間)」「青梅ライナー(東京~青梅間)」を廃止。新たに全車座席指定の特急「はちおうじ」と、特急「おうめ」を設定した。総武本線の「ホームライナー千葉」も廃止となり、代わりに快速列車が増発されている。

運転最終日の「中央ライナー」。常に満席近い需要があった
特急「はちおうじ」「おうめ」に使われるE353系電車。「あずさ」「かいじ」と共通で運用される

後者の場合、利用率の問題から廃止し、前後を走る快速の混雑緩和を図ったとも考えられるが、「ライナー」の特急への置き換えは、これまでほかの線区でも段階的に実施されてきた。高崎線では、2014年3月15日のダイヤ改正で「ホームライナー鴻巣(上野~鴻巣間)」が、特急「あかぎ」と統合の上で、全車座席指定の特急「スワローあかぎ」に置き換えられた。同じ改正では東北本線(宇都宮線)の「ホームライナー古河(上野~古河間)」が廃止されている。常磐線ではさらに早く、1998年には各「ライナー」が特急「フレッシュひたち」(現在の「ときわ」)へと置き換えられた。

一部が高崎線の「ホームライナー鴻巣」の置き換え列車として設定された「スワローあかぎ」

国鉄時代からの歴史がある「ライナー」

朝夕のラッシュ時間帯に通勤客向けの座席指定特急を運転した初期の例としては、1967年に新宿~新原町田(現在の町田)間に設定された小田急ロマンスカーがある。そして東武や京成、西武などにも広まったのだが、いずれの会社も「特急列車の一種」という扱いは崩さず、現在に至っている。

小田急の通勤客向け特急、「ホームウェイ」。国鉄とは違い、あくまで特急として運転され続けてきた

一方、国鉄でもこの施策には注目し、夜間、ターミナル駅から郊外の車両基地まで回送していた特急用車両へ、特急券ではなく、300円の「乗車整理券」を定期券などのほかに購入すれば乗車できるようにした。これが「ホームライナー」で、1984年の上野~大宮間がその第一号であった。そして増収策として全国の都市圏へと広がり、JR各社に引き継がれた。ある意味「国鉄の遺産」でもある。

この乗車整理券とは、本来、年末年始や旧盆などの超繁忙期に、長距離列車の自由席への優先乗車順を指定するために発売されたもので、列車の定員分のみ発行されたことから、「ホームライナー」に転用して「必ず座れる」とした。その後、JR東日本は乗車整理券とは制度上分けて、ライナー券、ライナー料金の制度を整えた。だが、現在に至るまで、特急券とは別の規則に基づいて発売されている。つまり、「ライナー」は基本的に特急用車両を使用し、座席の保証と快適な居住性を提供するものの、あくまで特急とは別の列車として推移してきたのである。

しかし、乗車整理券、ライナー券は特急券ではないがゆえ、発売場所がわかりにくくなりがちという欠点があった。乗車駅、下車駅が限定される特殊な列車であるがためで、国鉄~JRの座席指定・発券システム「マルス」にも収納されなかった。

発売場所は、地域や路線によって、まさにまちまち。窓口、自動券売機(設置場所は改札外、改札内と両方のケースがある)、ホームでの係員による手売りもあって、日常的にその路線で通勤している客にしかわからない。常連以外には、いかにも利用しづらい状況が生じていた。また、JR各社サイドからみれば、1日数本の列車のための特別な設備や人手が必要であった。

東京駅の中央線ホームに設置された指定券(特急券)の券売機。以前は「ライナー券」の自動券売機であった

「ネット予約」時代への対応

ところが、特急列車の指定席のインターネット予約、チケットレス乗車が常識となってくるにつれ、事情が変わってきた。アナログ的なライナー券発売方法を採っていた「ライナー」は、勤務先からスマホで予約したいという需要に対し、応えられなくなってきたのだ。「中央ライナー」「青梅ライナー」のように、2002年よりインターネット予約、チケットレス乗車に対応した例(ただしJR東日本系のビューカード決済専用)もあったが、むしろ稀な存在に終わっている。

また、特急の利用促進を図って、短距離の自由席特急料金を引き下げる傾向も国鉄末期から強まってきており、ライナー料金との差が小さい、または同額になるケースが目立っていた。例えば、東京~八王子間47.4kmの自由席特急料金は510円であるが、「中央ライナー」のライナー料金も510円だった。車両は同じで、座席が指定される、されないの違いだけであった。

こうした状況に基づいて、「ライナー」と特急との一本化を図ろうというJR東日本の判断が出てきても、自然なことと思われる。中央本線においては、特急「あずさ」「かいじ」と「中央ライナー」「青梅ライナー」に共通で使われてきたE257系電車が、E353系電車へと全面的に置き換えられるタイミングに合わせて、特急へ変更されたのである。

「『ライナー』の特急への統合」は、「(同じ路線を走る特急と併せて)インターネット予約・チケットレス乗車の導入、および割安なネット予約料金の設定による利用客の誘導」「全車座席指定化、割高な車内料金の設定」と表裏一体の施策である。このJR東日本の方針は「スワローあかぎ」運転開始時から一貫しており、今改正において中央本線へも拡大されたということである。

なお、本論から多少離れるが、全車座席指定化については、国鉄時代から自由席特急券を持たない、「特急への飛び乗り客」への対応に手を焼き、膨大な人手が割かれていたという事情に基づく。実質的な値上げになったとしても、利用客にはあまり同情できない。車内料金の設定も、同様である。

筆者が実見した例では、深夜帰宅時の特急の自由席5両に車掌が5人も乗務して、車内改札と自由席特急券の発売に追われていたというものがある。現代の日本の社会において、人件費が必要経費に占める割合がいかなるものか。それは理解しなければならないところだ。ちなみに、その特急はその後、廃止された。需要はあったであろうが経費がかかりすぎ、収益にはつながらないという、私企業としては常識的な判断が下されたものと思われる。

通勤時間帯の普通・快速列車はきちんと運転されている。特急や「ライナー」はあくまで付加価値として提供されているものだ。

「湘南ライナー」の特急化で完結か

国鉄時代に「通勤5方面」といわれた、東海道、中央、高崎・東北、常磐、総武の各方面のうち、現在「ライナー」が残っているのは東海道本線方面だけである。「湘南ライナー」および新宿発着の「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」は運転本数も多く、今も需要は大きい。

しかし、同じ東海道本線を走る特急「踊り子」「スーパービュー踊り子」は、近い将来の車両取り替えが予定されている。「湘南ライナー」に充当される主力車両は、「踊り子」と同じ185系電車であるから、当然、同時に取り替えられよう。そして、これまでのJR東日本の方針からすれば、やはり全車座席指定の特急に変更されるものと思われる。これで、同社の着席保証列車に対する施策は、特急への統一によって完結をみることになる。

特急「踊り子」や「湘南ライナー」に使われる185系電車。近い将来に別の車両に取り替えられる予定

夕方・夜の下り「湘南ライナー」に乗車するには、現状、東京駅と品川駅にある専用自動券売機でライナー券を購入しなければならない。しかし特急化後は、世の趨勢に合わせてインターネット予約が中心となり、かつ「マルス」でも予約可能となって、全国の「みどりの窓口」でも特急券が購入できるようになる。

例えば、今は仙台から東京まで東北新幹線を利用し、東京駅で「湘南ライナー」に乗り換えて大船まで帰宅したいと思っても、ライナー券が購入できるかどうかは、東京駅に到着し「湘南ライナー」が発車するホームまで行かなければわからない。それが特急化されれば、仙台駅で一括して特急券を購入することもできる。制度ひいては発売システムの統一の効果としては、このようなこともある。

(土屋武之)