静岡県とJRグループが今年6月まで開催している大型観光キャンペーン「静岡デスティネーションキャンペーン」(静岡DC)。静岡県の魅力を多くの人に知ってもらおうと、さまざまな取組みを行っている。5月中旬にプレスツアーが実施され、東海道新幹線で浜松駅へ。静岡県西部を中心に観光地などを巡った。

  • 「静岡デスティネーションキャンペーン」のプレスツアーでは、日本唯一という湖上を渡るロープウェイ「かんざんじロープウェイ」にも乗ることができた

■東海道新幹線「ひかり」で始まる静岡への旅

東海道新幹線で静岡県内の駅に停車する列車は「ひかり」「こだま」のみ。東京駅から静岡・浜松方面へ行く場合、おおむね1時間あたり2本運行される「ひかり」のうち、毎時3分発の列車に乗ると良い。静岡駅・浜松駅に停車し、静岡県内のビジネス・観光に便利な列車となっている。

今回のプレスツアーでは、東京駅8時3分発「ひかり463号」に乗車した。筆者に割り当てられた座席はB席。3人席の真ん中である。B席は不人気の席であるものの、この日は乗客が多かったこともあり、他のB席も埋まっている様子だった。東京駅を発車した後、品川駅・新横浜駅でさらに人が乗車してくる。

新横浜駅を発車し、しばらく経つと列車が最高速度に到達する。使用車両はN700A。東海道新幹線を管轄するJR東海は、車両の性能を統一することで、きっちりと「詰める」ダイヤを作ろうとしていることがうかがえる。B席ゆえに車窓の景色はなかなか見られないものの、新幹線の動きそのものを感じるにはちょうど良いように思える。

列車は静岡県内に入り、新丹那トンネルを過ぎると富士山が見えるエリアに入る。三島駅・新富士駅と通過する中で、ちらりと車窓に見える富士山はやはり大きい。

やがて列車は減速し、9時3分に静岡駅に到着した。下車客も乗車客も多い。静岡県内では「ひかり」が支持されているとわかる。静岡駅で停車中、「のぞみ」2本に線路を譲る。8分間停車し、9時11分に静岡駅を発車する。

「ひかり」は茶畑の広がる中を走り、掛川駅を通過した後、9時30分に浜松駅に到着する。ここでも「のぞみ」に線路を譲るため、停車時間は長い。静岡駅と同様、浜松駅も乗客の入れ替わりがあるので、長めに停車するくらいでちょうど良いのだろう。筆者も含め、プレスツアー参加者らも浜松駅で下車した。

■静岡県西部で盛んな「ものづくり」を体感

プレスツアー参加者らは浜松駅からバスに乗り込み、まずはヤマハ本社にある「ヤマハイノベーションロード」へ向かう。この企業ミュージアムは、ヤマハが過去に製造してきたものだけでなく、その歩みを踏まえ、未来への挑戦を体感してもらうための場所となっている。匠の技が感じられるピアノなどの楽器をはじめ、電子楽器の進化の軌跡や、音響技術の展示が目を引く。最後のバーチャルステージでは、生演奏さながらの自動演奏を聴くことができた。

  • ヤマハイノベーションロード

  • ヤマハの技術が展示されている

  • 自動演奏が可能なドラム

  • 浜名湖の浅瀬を体験する

  • 浅瀬にさまざまな小動物がいた

  • 「志ぶき」のうなぎ

続いて浜名湖へ。ここでは、「死ぬまでに行きたい! 世界の絶景」プロデューサーの詩歩さんが絶賛するプログラム「浜名湖の真ん中で愛を叫ぶ」を体験した。浜名湖が引き潮になる時間帯のみ体験でき、まれにできる浅瀬に立ち、そこで「インスタ映え」する写真を撮影するというものだ。

靴下を脱いでビニールサンダルに履き替え、普段と違う場所から乗船し、浅瀬へと向かう。近くに行くと浅瀬に降りられるようになっている。「愛を叫ぶ」とまでは行かなかったが、ヤドカリをはじめ、浅瀬ならではの面白い生き物を見ることができた。

昼食はうなぎ専門店「志ぶき」でうなぎの二色小丼。「志ぶき」では焼いた後に蒸し、さらに焼くという関東流のスタイルでうなぎを提供している。たれの味が濃厚であり、うなぎのにおいが染み込んだごはんを味わえる蒲焼丼と、あっさりとした白焼きにわさび醤油をかける白焼丼と、2通りの味を楽しめる。ちなみに、浜松周辺では蒸す関東流、焼くだけの関西流と、それぞれのスタイルのうなぎ店がある。

  • はままつフラワーパークを1周する「フラワー号」

  • スマイルガーデンの花と昆虫

  • ローズガーデンのばら

  • 「大物盆栽展」も開催

  • うなぎパイの作り方を紹介

  • 特製のタレが塗られる

その後は「はままつフラワーパーク」へ。フラワートレインに乗り、園内を半周した後、スマイルガーデンでガーデンデザイナーの吉谷桂子氏がプロデュースするイングリッシュガーデンを味わう。大温室「クリスタルパレス」で南の国の植物を鑑賞し、ローズガーデンでは世界各国のバラに目を引きつけられる。

年間70万人が訪れるという「うなぎパイファクトリー」も訪問した。工場見学に加え、焼きたての「うなぎパイミニ」を味わった。サクサクとして、かつ熱々なので香ばしさがある。この「窯出しうなぎパイツアー」は6月30日まで行われ、見学する際は予約が必要とのこと。

  • 工場では匠の技と機械が組み合わせられている

  • 焼きたてのうなぎパイミニ

  • 円盤を入れ替えるタイプのオルゴール

1日目の最後は「かんざんじロープウェイで夕日を楽しむ絶景ツアー」。普段運行しない時間帯のロープウェイに乗り、大草山の展望台施設でオルゴールコンサートを聴いた後、展望台から夕日を眺めた。湖上を渡るロープウェイは日本唯一だという。

■大河ドラマの舞台も訪問、地元の歴史に触れる

2日目は静岡県西部の歴史と文化を味わった。まずは龍潭寺へ。2017年のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の舞台であり、大門をくぐるところで、主人公が出家にあたり、何度も追い返されるシーンを思い出す。静岡DC開催に合わせ、龍潭寺では井伊家歴代位牌や井伊直政の木像などを展示している。小堀遠州作の庭園も見学した。

  • 浜名湖に広がる夕焼け

  • 龍潭寺。ここから井伊直虎は出家の道を歩もうとした

  • 龍潭寺の庭園

  • 井伊家発祥の地

  • 秋葉総本殿 可睡齋

  • 揺れる風鈴の音がすがすがしい

その後、井伊直虎の墓や、寺から少し離れたところにある井伊家発祥の井戸などを見る。「秋葉総本殿 可睡齋」も訪ねた。この寺は曹洞宗の名刹であり、徳川家康ゆかりの寺として、さらに火防総本山として信仰を集めている。修行道場である一方、花の美しさや精進料理でも知られ、多くの参拝客でにぎわう。

「秋葉総本殿 可睡齋」では静岡DC開催に合わせ、お茶の精進料理を提供する。実際に食べてみると、お茶と野菜の味わいを堪能できる一方、普段の食生活が油と動物性たんぱく質にあふれていることも感じる。禅では食べることも修行だと実感した。

5月18日から「遠州三山風鈴まつり」も開催される。プレスツアーで訪問した際は祭りの準備のため、境内に多くの風鈴が飾られ、庭園も赤の風鈴で彩られ、美しかった。風鈴は全部で約4,000もあるという。

  • 庭園にも風鈴が飾られている

  • 茶の精進料理

  • 緑の広がる茶畑

  • 土の説明を行う杉山敏志さん

  • お茶の摘み方の説明

  • 摘んだお茶は静岡新聞を使ったエコバッグに入れる

  • 摘まれる前のお茶の葉

  • 静岡のお茶はおいしい

  • 東山いっぷく処

最後は掛川市東山にて、茶草場農法で作られたお茶の茶摘み体験と試飲。世界農業遺産となった茶草場農法とは、ススキやササなどの草を刈って乾かし、細かく刻んで茶畑の畝の間に敷くというものである。乾かした草が肥料となり土になり、おいしいお茶の源になっていく。東山地区では地区全体でこの茶草場農法に取り組んでいるという。

「東山いっぷく処」で試飲が行われ、お湯出しのお茶には深い緑の味わいがあり、水出しのお茶はだしのような味だった。プレスツアーではこれらの行程に加え、先日のレポートで紹介した天竜二俣駅(天竜浜名湖鉄道)での「洗って! 回って! 列車でGO! ~国登録有形文化財の転車台乗車体験~」もあり、充実した内容の2日間となった。

■掛川駅から東海道新幹線「こだま」で帰路に

プレスツアーを終え、帰路は掛川駅18時34分発の東海道新幹線「こだま672号」に乗車。使用車両は往路と同じくN700Aだった。指定席は多くの乗客で混んでいた。車内販売がないとわかっているからか、駅弁などを買って乗車する人も多い。「こだま672号」は途中の各駅に停車し、そのたびに「のぞみ」などの通過待ちを行う。停車駅ごとに乗降客が多く、各駅停車の役割を十分に果たしていると思える。

JR東海では静岡DC開催に合わせ、静岡県内の観光におすすめのきっぷとして、東海道新幹線「エクスプレス予約」「スマートEX」などの利用者も使用できる「ふじのくに家康公きっぷ」を発売。同きっぷが含まれる各種旅行商品も販売している。お得なきっぷや旅行商品も活用しつつ、静岡県内の旅を楽しんでほしい。