新型「RAV4」の国内への打ち出しは、冬の北海道から始まった。トヨタ自動車の士別試験場(士別市)内の雪道で、メディア向けの試乗会が開催されたのである。試乗コースは道幅の広いサーキットコースと、道幅が狭く上り下りのあるワインディングコースの2つであった。

トヨタの新型「RAV4」に雪上でじっくり乗ってきた

走りの良さにTNGA効果を実感

試乗車は、RAV4が採用する3種類の四輪駆動システムを体験することができるラインアップだった。具体的には「X」「Adventure」「HYBRID G」という3つのグレードだ。

新型「RAV4」のグレードは「X」「G」「G “Z package”」「Adventure」「HYBRID X」「HYBRID G」の6種類で、価格は260万8,200円~381万7,800円だ。最も安いのは「X」の二輪駆動(FF)車

まず、新型RAV4の全体的な印象としては、軽快で的確な操縦安定性を示すところに気づかされた。これは「TNGA」というプラットフォームを採用した成果だと思う。

例えば、「プリウス」のプラットフォームを基に開発されたSUV「CH-R」は、プリウスを大きく上回る操縦安定性を獲得していた。このことは、プリウス自身も今後の開発により、いっそうの進化を遂げる可能性を秘めていることを示している。

同じように、カムリを基に開発された新型RAV4は、CH-R以上の車両重量ではあるものの、運転し始めてすぐ、軽やかな走りを強く印象づけた。ハンドル操作に対しては的確に進路を定める。もちろん、直進安定性も高い。圧雪路の直線では、スタッドレスタイヤを装着して時速80キロ以上まで加速したが、全く不安なく疾走してみせた。

新型RAV4のボディサイズは全長4,600mm、全幅1,855mm、全高1,685mm、ホイールベース2,690mm。「Adventure」は全長と全幅が+10mm、全高が+5mmとなる。車両総重量はグレードによって異なるが1,775キロ~1,965キロ。オプションによっても多少は増加する

室内は前席、後席ともに精緻な造形でまとめられている。ガソリンエンジン車もハイブリッド車も静粛性に優れ、前後の席で快適に会話を交わせた。上級車の感覚があり、仕立てのよいSUVとして好感がもてる。国内では販売されなかった前型のRAV4(4世代目、新型は5世代目)は、米国で乗用車販売のナンバーワンを獲得したというが、そのわけをおのずと想像できる出来栄えである。

3種類の四輪駆動システム、それぞれの特徴とは

新型RAV4の特徴の1つは、3種類の四輪駆動システムを採用しているところだ。ここで、それぞれのシステムについて説明しておきたい。

新型「RAV4」が採用する3つの四輪駆動システム。タイヤへのトルク配分の比率がシステムによって変わる

まず、ガソリンエンジン車には2つの四輪駆動システムがある。1つは従来と同じく、前後の駆動力配分を行う「ダイナミックトルクコントロールAWD」方式。もう1つは前後の駆動力配分とともに、後輪側の左右の駆動力配分も走行状況に応じて変更する「ダイナミックトルクベクタリングAWD」だ。左右の駆動力配分は、カーブをより曲がりやすくさせる仕組みである。

3つ目はハイブリッド車用の電気式四輪駆動システムだ。後輪駆動用にモーターを使い、前輪駆動車を四輪駆動化する。基本方式は、初代「エスティマ ハイブリッド」で2001年に採用された「E-Four」である。

現行プリウスにも、同じく電気式を採用した四輪駆動車がある。ただし新型RAV4では、後輪用モーターのトルクを増大し、より力強く後輪を駆動させることができるようにしてある。これにより、あたかも後輪駆動車のような運転感覚を味わえるという。

「E-Four」では後輪用モーターのトルクを増大することで、後輪駆動車のような運転感覚を実現したという

試乗順は、基本となる「ダイナミックトルクコントロールAWD」を搭載する「X」というグレードから始まった。ごく普通の四輪駆動といった感じで、何か特徴的なことは感じにくいシステムだったが、後輪へのトルク配分により、登り坂では勢いよく駆け上がる手ごたえを得られた。「エコ」と「スポーツ」のモード切り替えを行うと、エコモードでは発進が穏やかになり、滑りやすい雪道でも安心感を与えてくれた。スポーツモードではエンジン回転の高まりとともにエンジン音も高鳴って、胸躍らせる走りとなる。

次に乗ったのは、「ダイナミックトルクベクタリングAWD」を搭載する「Adventure」というグレードだ。カーブが曲がりやすく、旋回中も狙い通りのラインを安定して走れるので、あたかも線路の上を走っているような印象を受けた。その走行感覚は、誰にでも体感できるだろう。また、路面のうねりなどに対し、後輪の駆動力を左右で最適に調整するため、直進の安定性がより高まるようでもあった。

「ダイナミックトルクベクタリングAWD」の優れた走行安定性は誰にでも体感できるだろう

最後に乗った「HYBRID G」の四輪駆動システム「E-Four」は、後輪モーターのトルクが大きくなったことにより、カーブでアクセルペダルを踏み込むとグッとクルマが前へ押し出され、まさしく後輪駆動のクルマを運転しているかのような感覚を味わえた。また、ハイブリッドシステムを搭載しているため、車体の前側がエンジン車より重くなるので、前輪の手応えが増し、ハンドル操作への応答や、進路の的確さが向上したようにも感じられた。

「RAV4」も参戦! 日本の四輪駆動車は多士済々

四輪駆動システムの乗り味は、まさに“三車三様”といった感じだった。それは優劣の問題ではなく、どのような運転をしたいかという、消費者の好みで選べる選択肢が用意されたことを意味する。一方で、どれを選ぶべきか迷ってしまう人もいるかもしれない。それも含め、新型RAV4は、1つの決まった走り味ではなく、複数の走り味を備えたSUVとして、ほかにはない商品性を得たといえるのではないだろうか。

新型「RAV4」の四輪駆動システムは“三車三様”といった感じ。どのような運転をしたいかに合わせて選べるが、どれを買うか迷ってしまう人もいそうだ

四輪駆動であることの優位性を訴えてきた自動車メーカーといえば、スバルが思い浮かぶ。同社は長年にわたる継続的な開発により、消費者からの高い信頼を得るようになった。昨今ではマツダが四輪駆動技術を磨き、スバルに迫る勢いだ。それに刺激を受け、スバルがさらに技術を進化させるという好循環も見られる。

トヨタは「ランドクルーザー」で、圧倒的な悪路走破性を世界に認知されている。三菱自動車の「パジェロ」もまた、悪路走破では世界指折りのクルマであり、それが同社のSUV「アウトランダー」やミニバン「デリカ D:5」へも波及した。今や四輪駆動は、三菱自動車の柱の1つとなっている。

そうした四輪駆動の多彩な世界に、新型RAV4は改めて参入することになる。今後、クルマの電動化が進んでいけば、3種類の四輪駆動システムは、1つの優れた四輪駆動システムへと集約されていくのではないだろうか。そのために、今は様々なシステムに挑戦し、消費者の評価を待っているかのようだ。

(御堀直嗣)