冬ドラマがすべて出そろったところで、早くも視聴率やクチコミでの明暗がわかれはじめている。

1話の視聴率では、『刑事ゼロ』(テレビ朝日系)が14.7%を記録したほか、『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系) が12.7%、『メゾン・ド・ポリス』(TBS系)が12.7%、『トレース~科捜研の男~』(フジテレビ系)が12.3%、『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)が12.1%、『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(日テレ系)が10.2%、『グッドワイフ』(TBS系)が10.0%と、約半数が2桁を超えた(すべてビデオリサーチ調べ・関東地区)。

飛び抜けたヒット作はないものの堅調なスタートとなったが、録画視聴やネット視聴の多い現状、視聴率はデータの1つにすぎず、面白さとは別問題。冬ドラマで本当に質が高くて、今後期待できるのはどの作品なのか?

今期もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2019年冬ドラマ20作の傾向とおすすめ作品を挙げていく。

2019年冬ドラマの主な傾向は、「【1】超個性派ヒロインが百花繚乱」「【2】シリアス一辺倒を避けるポップな演出」の2つ。

  • トクサツガガガ

    『トクサツガガガ』(左から寺田心、小芝風花、松下由樹)

傾向[1] 超個性派ヒロインが百花繚乱

今冬は刑事や弁護士を中心に、さまざまな職業を描いた作品がそろった。『家売るオンナの逆襲』は不動産営業、『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!~この女に賭けろ~』(テレビ東京系)は都市銀行の営業、『後妻業』(フジ系)は遺産狙いの後妻業、『ハケン占い師アタル』はイベント会社の派遣社員と占い師、『私のおじさん~WATAOJI~』(テレ朝系)はテレビ番組制作、『みかづき』(NHK)は塾の経営と、多岐にわたっている。

なかでも特筆すべきは、主人公に実績豊富な30・40代女優を起用していること。『みかづき』の永作博美(48)、『グッドワイフ』の常盤貴子(46)、『後妻業』の木村佳乃(42)、『スキャンダル専門弁護士QUEEN』(フジ系)の竹内結子(38)、『原島浩美がモノ申す!』の真木よう子(36)、『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)の深田恭子(36)、『家売るオンナの逆襲』の北川景子(32)。

  • メゾン・ド・ポリス

    『メゾン・ド・ポリス』(左から野口五郎、角野卓造、西島秀俊、高畑充希、近藤正臣、小日向文世)

ここまでそろうのは珍しいが、だからこそ『私のおじさん』の岡田結実(18)、『ハケン占い師アタル』の杉咲花(21)、『トクサツガガガ』の小芝風花(21)という若手の抜てきも際立っている。『メゾン・ド・ポリス』の高畑充希(27)、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK)の石橋菜津美(26)、『人生が楽しくなる幸せの法則』(日テレ系)の夏菜(29)も含め、「女優の冬ドラマ」という印象が強い。

彼女たちが演じるキャラクターも、変人の凄腕営業ウーマン・三軒家万智(北川景子)、資産家の老人をターゲットに結婚詐欺を行う武内小夜子(木村佳乃)、「恐れながら申し上げます」を決めゼリフに出世する原島浩美(真木よう子)、派遣社員だがその正体は謎多き占い師・的場中(杉咲花)、猛烈な特撮オタの仲村叶(小芝風花)など、超個性的なヒロインがそろっている。

さながら品評会のようでもあり、女優達にとっては「どのキャラクターが一番支持を集めるのか」という今後を見据えた試金石なのかもしれない。

  • ゾンビが来たから人生見つめ直した件

    『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(左から渡辺大知、土村芳、石橋菜津美、瀧内公美、大東駿介)

傾向[2] シリアス一辺倒を避けるポップな演出

『3年A組』の1話を見たとき、「こんな軽い演出も入れるんだな」と少し驚かされた。同作の放送時間は日曜22時30分~であり、前期は爆笑作の『今日から俺は!!』。若年層を視野に入れたドラマ枠であり、「翌朝の学校や仕事に向けて重い気持ちにならないように」という意図が垣間見える。暴言や暴力などの過激なシーンも多いだけに、クスっと笑えるようなセリフや寸劇を入れることでバランスの取れた作品となった。

『後妻業』も「遺産狙いで老人を陥れる」というテーマだが、ダークサイドに振り切らず、むしろヒロインのキャラが映画版よりマイルドになり、関西弁の軽妙な会話劇やカラフルな衣装を楽しませるなどのポップな演出が目立つ。

『QUEEN』も「クライアントの大ピンチをどう救うか」というシリアスなコンセプトながら、セリフも映像もポップでスタイリッシュ。『グッドワイフ』『原島浩美がモノ申す!』『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』なども同様に軽い演出が見られる。

これまでもシリアスな世界観の作品に、息抜きのようなシーンを入れることは多かったが、今冬の作品では随所に盛り込まれている。その理由は、制作サイドが「視聴者が重いシーンに耐えきれず、目を背けてしまう」と思っているからにほかならない。低視聴率の作品に浴びせられた「仕事から帰って見るには重すぎる」「わざわざ暗い気持ちになるものを選ばない」などの声を踏まえているのだろう。

ただ、「バランスを取る」と言えば聞こえはいいが、「最大の魅力を薄めてしまう」のも事実。当然、飛び抜けたヒット作にはなりにくく、視聴率も思ったほどの成果を得られていないのではないか。

  • 菅田将暉

    菅田将暉

  • 小芝風花

    小芝風花

  • 真木よう子

    真木よう子

  • 永作博美

    永作博美


これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『トクサツガガガ』、『みかづき』、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』のNHK3本。民放各局が視聴率を求めて刑事、弁護士などの“一話完結、職業ドラマ”一色になる中、攻めの姿勢が貫かれている。それぞれ映像へのこだわりも強く、脚本家のセレクトも含めて意欲的。3作は順不同であり、好みの問題でしかない。

その他のおすすめは、『ドラマBiz』が初の女性主人公に選んだ『原島浩美がモノ申す!』、意欲的なオリジナルの学園クライムサスペンス『3年A組』。ツッコミどころは少なくないが、他作との差別化が明白で、企画の時点から志が高い。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。

【おすすめ5作】
No.1 トクサツガガガ(NHK 金曜22時)
No.1 みかづき(NHK 土曜21時)
No.1 ゾンビが来たから人生見つめ直した件(NHK 土曜23時30分)
No.4 原島浩美がモノ申す!(テレ東系 月曜22時)
No.5 3年A組(日テレ系 日曜22時30分)

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。