会社員の生活を大きく変える「転勤」。とくに結婚している場合、単身赴任して世帯の生活を二拠点にするか、家族全員で引っ越しして一拠点のままにするかの選択を迫られます。配偶者の仕事や子どもの学校など、家族の事情によってもどちらを取るかの選択肢が変わりますが、お金の事情も選択を左右する問題になり得ます。

  • 転勤になったら単身赴任? 家族で引っ越し?(写真:マイナビニュース)

    転勤になったら単身赴任? 家族で引っ越し?

収支バランスの変化をチェック

単身赴任・家族帯同のどちらを選んだ場合でも、ほとんどの場合は出費が増えることになりますから家計面への影響を考えてみましょう。

まずは引っ越し費用がかかります。単身赴任の場合の多くは生活に必要な家財道具を購入することになり、まとまった支出があります。対して、いま住んでいる住居を引き払っての家族全員での引っ越しは、距離や荷物の量や会社からの費用負担の有無にもよりますが、引っ越し費用が多くかかることもあります。一概には言えませんが、子どもがいれば転校に伴う費用等もかかることから、一時的には家族全員での引っ越しのほうが出費が多いと考えられます。

しかし転勤期間全体では、生活費が二重にかかる単身赴任のほうが家計へのインパクトが大きくなる場合がほとんどです。仮に会社から家賃補助が出るとしても、光熱費は二世帯分になります。マメに自炊できず、これまで以上に外食が増えることになってしまえば食費も増えてしまいます。赴任先によって車を購入する必要が出れば、税金や車検費用、保険料などがかかります。

また、単身赴任をしている家庭では、家族間で行き来するのが一般的ですね。単身赴任手当を支給する会社は多いですが、その範囲内で交通費が収まらないとも限りません。

生活が変化することによって家計収支が変わってくるのは仕方のないことです。しかし長いライフプランを考えると、転勤を理由に教育資金や老後資金の準備をおろそかにすることはできません。単身赴任と家族帯同のそれぞれで、会社から出る諸手当の金額を確認し、増えるであろう支出も書き出していきましょう。収支バランスの変化が少ないほうが理想です。

共働き夫婦は世帯収入の変化をチェック

最近では夫婦ともに正社員という家庭も増えてきています。このような家庭ではさらに決断しにくいのではないでしょうか。両者のキャリアを考えることが第一だとは思いますが、お金の面から言えば、「世帯収入がどう変化するか」も考えるべきでしょう。

両者ともに会社を辞めずに単身赴任するならば、収入の減少は防げますから前述したような支出増への対応性は高めです。しかし家族帯同を選択する場合だと、夫の転勤なら妻が、妻の転勤なら夫が退職を迫られる場合がほとんどです。これまで二人の収入で生計を立てていた家庭だと、一方の収入が途絶えることで収支バランスが大きく崩れてしまいます。

また、これまで一方の収入で生活し、他方の収入をまるまる貯金していたような場合でも、退職すれば貯蓄計画通りにいかなくなってしまいます。単身赴任をおすすめするわけではありませんが、収入ダウンを防げる方法を探りたいものです。

辞めずに転勤について行ければ望ましい

会社によっては、配偶者の転勤に合わせてフレキシブルに対応できる制度を設けているところもあります。

代表的なのがリモートワーク。まだまだ社会全体に行き渡ったとは言えませんが、働き方改革の一環で自宅にいながら勤務することも可能になってきた昨今。配偶者とともに引っ越ししても自分の仕事は辞めずに働き続けることができれば、二重生活による支出増も、退職による収入減も防ぐことができそうです。

転勤となった配偶者に帯同するための休職制度を設けている会社もあります。国家公務員をはじめ一般的には配偶者が海外転勤となった場合を対象としている場合も多いものの、国内転勤も対象に含めている会社もあります。休職期間中は収入がストップされるとしても、長いライフプランでみると、将来の退職金や年金には「辞めない」選択をするほうが有利です。数年間に戻れる安心感があれば仕事と家族のはざまで悩むストレスも避けられるのではないでしょうか。自分が働く会社にこのような制度がないか確認してみましょう。

もちろん、配偶者の転勤に合わせて転職したり、引っ越しを機にフリーランスに転身したりするという方法もあります。業務の内容や収入面で納得がいく仕事が簡単に見つかるとは限りませんが、これまでキャリアを築いてきたからこそ取り組める仕事があるかもしれません。

転勤は家計全体を見直すチャンスと前向きに

キャリア・家族の絆・子どもの教育・家計など、さまざまな事情が問われる転勤。単身赴任と家族で引っ越しのどちらがいいかという選択に、定型の回答というのはありません。個人はもちろん家族全員の考え方によって何が一番大事なのかは違いますから、お金のことだけで決められるものでもありません。

しかし転勤と家計管理を前向きに結びつけることは可能です。いま住宅ローンを払っている人なら借り換えで返済額が削減できないか調べてみたり、これまであまり節約を意識していなかった人はお金の使い方を見直したりするだけでも家計バランスの崩れを少なくすることもできるでしょう。

お金の問題で選びたいのに選べないということにならないように、今一度、家計全体を見直して転勤に備えるようにしてください。

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著者プロフィール: 續 恵美子

女性ファイナンシャルプランナーによるお金の総合クリニック「エフピーウーマン」認定ライター。ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)。生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。