顧客の高齢化に悩む高級車メーカーにとって、将来の顧客候補である若年層との関係構築は急務だ。そんな取り組みの一環なのだろうか、BMW子会社のビー・エム・ダブリュー株式会社は立教大学で講義に協力している。その講義では「2040年、ミレニアル世代にBMWを売るには何が必要か」をテーマに学生たちが知恵を絞っていると聞いたので、どんな様子なのか取材してきた。

「2040年、ミレニアル世代にBMWを売るには何が必要か」をテーマとする立教大学の講義を取材した

学生とクルマの距離感は

BMWが協力しているのは、立教大学が進める「グローバル・リーダーシップ・プログラム」の一部をなす講義だ。2018年度後期の15コマを使って、受講生は複数のグループに分かれて上記テーマについて議論し、プランを練ってきた。取材したのは、この講義の最終プレゼンテーション。4つのチームが各自のアイデアを出し合い、ビー・エム・ダブリューの社員が評価を行った。ちなみに、この講義では教える側も教わる側も英語しか使わない。

ビー・エム・ダブリューから最高の評価を受けた「LFGN.inc」というチームは、「BMWのクルマを借りてドライブする」ことを取り入れたマッチングアプリを提案。彼らは20~30代をBMWのエントリー層、30~40代を購入準備層、40~50代をターゲットカスタマーと位置づけた上で、エントリー層との接点としてアプリを使ってはどうかとのアイデアを出した。要するに、アプリを通じて出会った人たちにBMWでドライブしてもらうことで、同乗者とBMWブランドの双方と親密になってもらおうという趣向だ。

最終プレゼンで最高評価を獲得した「LFGN.inc」と同チームを讃えるビー・エム・ダブリュー MINI本部長のフランソワ・ロカ氏

BMW版マッチングアプリというアイデアを採用するかどうかはさておき、こういった取り組みを通じ、現代の学生とリアルなコミュニケーションを図れることに、ビー・エム・ダブリューは意義を感じているようだ。同社で人事を担当する三好陽宙(みよし・あきひろ)氏は、「ミレニアル世代がモビリティをどう捉えているのかについて、将来のカスタマーの認識といいますか、生の声を聞けるのは大きなポイントです。それと、どこの企業もそうだと思いますけど、いい学生には入社してもらいたい。ビー・エム・ダブリューとしては、学生たちの間で認知度を上げていくのも目的の1つです」と話していた。

ビー・エム・ダブリューのBMWブランド・マネジメント プロダクト・マーケティング・ディビジョンに所属する佐伯要氏も、学生たちにBMWのことを知ってもらうことが重要と感じている一人だ。初回の講義で学生たちの話を聞いていた佐伯氏は、驚いたことがあったという。

「初回の講義では、BMWのことは知っていても、ミニを知っている学生は半分くらいという状況だったんですが、学生同士で話し合っているのを聞いていると、多くの学生が『テスラ』について口にしていたんです。私たちからは、『テスラ』というワードを一言も提示していなかったのにも関わらずです。テスラはそれほどマーケティングに注力していないと思うのですが、イーロン・マスク氏の言動は頻繁に報道されるので、結果として知名度が上がっているんです」

実際、最終プレゼンの優勝チームに所属する学生に聞いてみると、BMWとメルセデス・ベンツの違いは「見えにくい」一方で、テスラは「違うコンセプトを打ち出している」とし、「個人的にはテスラの方が“いけてる”と思う」と話してくれた。

マスク氏の言動自体が広告になっているテスラには、若者も関心を持っているようだ(画像はテスラ「モデル3」)

知ってもらえなければ、買ってもらえない

若年層にブランド名が浸透しているかどうかは、BMWが将来的にクルマを売っていく上で大事なポイントだ。現代の若者が将来、クルマを買うかどうかは分からないとしても、もし買うとすれば知っているブランド、もっといえば“いけている”と感じるブランドに目がいくのは当然だからだ。

立教大学での講義を通じ、ビー・エム・ダブリューが実際に触れ合うことができたのは数十人の学生に過ぎなかったかもしれない。だが、この場で聞くことができた若年層の生の声は、ビー・エム・ダブリューが日本でクルマを売っていく上でも参考になったはずだ。少なくとも、現代の若者とのコミュニケーションは、「まず、知ってもらうこと」から始める必要があることを、ビー・エム・ダブリューは再確認したことだろう。

とはいえ、“若者狙い”のプロモーションは空回りしてしまうといたたまれないし、ブランドイメージに反した打ち出し方は既存客に対しても印象が悪い。実際に、どうやって若者との接点を作るかについてビー・エム・ダブリューは、立教大学の学生たちよりも深く頭を悩ませているに違いない。

(藤田真吾)