――改めまして、お2人の「平成仮面ライダー」への最初の関わりと、これまでにチーフプロデューサーとして手がけてこられた「平成仮面ライダー」作品を教えてください。

大森:僕は『仮面ライダー響鬼』(2005年)からアシスタント・プロデューサーとしてつきました。チーフプロデューサーは『仮面ライダードライブ』が最初で、『仮面ライダーエグゼイド』(2016年)、『仮面ライダービルド』と続けてやっています。

塚田:『仮面ライダーアギト』(2001年)にプロデューサーとして入ったのが最初です。チーフプロデューサーとしては『仮面ライダーW(ダブル)』、『仮面ライダーフォーゼ』(2011年)を務めています。

――『仮面ライダーW』は、平成仮面ライダー10作目を記念した『仮面ライダーディケイド』(2009年)のあとを受けた、俗に「平成第2期」と呼ばれる作品でした。いろいろな新機軸を打ち出した『W』ですが、特にWへの変身やフォームチェンジに用いる複数の「ガイアメモリ」が玩具売り場だけでなく、食玩や雑誌付録などでリリースされることでより子どもたちへの接点が増え、大ヒット商品となりました。これを受ける形で『仮面ライダーオーズ/OOO』(2010年)ではオーメダル、『仮面ライダーフォーゼ』ではアストロスイッチというように、コレクションして楽しむミニアイテムが現在の「平成仮面ライダー」シリーズに欠かせない要素になっていきますね。

塚田:『ディケイド』のときは「ライダーカード」でしたから、コレクションアイテムという視点から見ると『W』のガイアメモリから現在の流れが出来ているようですね。

大森:『仮面ライダードライブ』のときはミニカー型の「シフトカー」だったのですが、僕は『ディケイド』から『ドライブ』を担当するまでの間、7年くらい仮面ライダーに関わっていなかったので、『ドライブ』のときの商品アイテムの多さに、最初はどうしていいかわかりませんでした。

塚田:『フォーゼ』のとき、仮面ライダー生誕40周年だからアストロスイッチを40個出そう!という無茶ブリをしまして、そのときから無茶だ、という感覚がありました。それでもしっかり出し切って、そこからだんだんとアイテムの点数が増えていった感じですね。『仮面ライダービルド』のフルボトルは何種類だった?

大森:劇中で使用したものだけでも60本です。商品化したもの、雑誌付録などを含めるともっとたくさん種類がありました。

――『仮面ライダーW』を最初に観たとき、前後編の2話完結エピソードというフォーマットが徹底されていて、非常にシンプルで観やすいと感じました。

塚田:要素はたくさん詰まっている作品なんです。ドラマ作りに際しては「探偵もの」をベースとして、まず前編で依頼人が鳴海探偵事務所にやってきて、後編で事件が解決したあとは必ず翔太郎が「報告書」を書いてドラマを締めくくる。複雑なものをシンプルに見せる、というのが大変な仕事で、僕らはそこに労力をそそいでいるんです。もしも『W』のドラマがシンプルで観やすいと思っていただけたのなら、我々のやってきたことがうまく伝わっていたんだと思いますね。

大森:刑事ドラマのフォーマットを採り入れた『仮面ライダードライブ』も「ドラマの観やすさ」を目指して作っていたところがあります。『W』をかなり意識していたかもしれないですね。

塚田:探偵と刑事、どちらも"事件"ものだからね。

大森:『ドライブ』の前に放送していた『仮面ライダー鎧武』(2013年)が"タテ軸"強めの「連続ドラマ」だったので、こんどは前後編・2話完結エピソードの単発風のドラマにしようと思ったんです。ただ、半年をすぎたあたりから、だんだんタテ軸強めのストーリー展開に変更してくことになったのですが。

――毎回、起承転結の「転」で次回へ続いていく「連続」形式と、前後編のエピソードを積み重ねていく「単発」形式では、具体的な反響や人気の度合いが変わってくるものなのでしょうか。

大森:一概にどちらがいい、とは言えませんが、単発だと視聴者が「途中参加」できるというメリットがありますね。エピソードがかなり進んでから観たとしても、だいたいのことが分かりますし。ストーリーの流れが分かる前提でドラマを楽しんでもらったほうがいいですからね。『ドライブ』で培った経験は、後の『エグゼイド』に活きました。単発風のエピソードを積み重ねながら、タテ軸のストーリーを追いかけていくという描き方をより戦略的にできたと思っています。

塚田:『W』でも、後半からはエピソードごとにいろいろ伏線を張って、"タテ軸"感でやってはいるんですけれど、そんな中にも先ほど言った探偵もののフォーマットを、意地でも残しています。けっこう複雑な約束事を守らされていた三条さんの恨み節が聞こえてきそうなくらい(笑)徹底しました。

大森:前後編、ひとつのエピソードで事件の始まりから終わりまでをしっかりと描く『W』のフォーマットの確かさには驚かされました。

塚田:物語を起承転結で考えると、前編は「起」「承」及び「転」のさわりまで、後編は「転」「結」ということになります。お客さんの満足感というものは、物語を最後まですべて見たときに生まれるものなので、前編はワクワクこそあるけど、続いちゃうからその時点では満足できない。満足をしてもらうのは後編。同様に「1年間かけてやるタテ軸がひとつの物語」と考えるならば、その"真の満足感"は最終回まで見ないと得られない。なので"タテ軸"が強すぎると、毎回えんえんと「前編」的なものだけを見せられて、満足はできないということになりかねません。その毎回の「前編」的なものを飽きさせずに面白く作ることができればいいんですけどね。それも大変なので、基本は"各話完結"というのが僕は好みです。

――近年では、Twitterをはじめとするネット上でファン同士による意見交換が活発ですが、お2人は作品の反響などをネットから感じとられたりするのでしょうか。

大森:「ネット流行語100」の年間大賞で『仮面ライダービルド』が8位にランキングされたことがありましたね。Twitterといえば、『ドライブ』のころから公式アカウントが作られて、Twitterで情報発信するようになったんです。毎週オンエアの直後に東映公式HPでプロデューサーが記事を書いているんですけれど、週一のお知らせだけでは間に合わないくらい、情報量が多くなってきたんです。

塚田:かなり前の話ですが、視聴者からの反応ですごく印象的だったのが、『忍風戦隊ハリケンジャー』(2002年)の終盤でシュリケンジャーが死んでしまったときのこと。親御さんから「子どもがショックを受けて、シュリケンジャーのおもちゃにまったく触りません」という声があったんです。劇中ではドラマチックでカッコいい去り方をしていて、これがドラマだよなあと思っていたんですけれど、それだけではない「違う視点」もあるなと気づかされました。

大森:『エグゼイド』で仮面ライダーレーザーターボ/九条貴利矢が倒されたときにも、多くの反響がありました。

塚田:『フォーゼ』でも、一回弦太朗が死にかけていますが、あのときは見せ方にかなり気を遣いましたよ。ドラマとして盛り上げるためにキャラクターの"死"を描くことは必要だと思うんですけれど、その見せ方とアフターフォローをどのようにするか、は慎重に考えるべきだってことですね。

――1年にわたる放送期間の『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』の場合、最初から結末がどうなるかの大まかな構想があったとしても、必ずしもそのとおりにならない、とうかがいました。お話を作っていくにあたり、作品の中で設定に矛盾が生じてもあえて目をつぶる、というやり方と、矛盾がないよう緻密に設定を固めていくやり方があると思いますが、お2人はどちらの方向性が好みでしょうか。

塚田:SFやファンタジーの世界観は矛盾があると崩れちゃうと思うんです。僕は世界観を大事にしたいので、それを破壊する矛盾は徹底して潰していきます。企画段階で細かく設定のことを考えていくのは、物語が多少無理しても矛盾が生じないような設定にしておきたいからです。僕は色んなバリエーションの物語が好きだし、やりたいんです。でも「塚田は設定作りそのものが好き」とたまに勘違いされていますが、違うんですよ。「物語」の世界観を守るために設定を作りこんでいるんです。そういうところが、三条さんとうまくシンクロしたんだと思います。三条さんは打ち合わせ段階で、かなり"縛り"の強い設定をいろいろ考えた上に、シナリオ段階でさらにキツい"縛り"を追加してきますからね(笑)。

大森:世界観を守るための設定については、僕もかなり参考にさせていただいていますね。設定を大事にするか、反対に設定にこだわらないかというと、僕は中間くらいの立ち位置かもしれません。たまに画のインパクトだけを重要視してしまうときがあるので。