この下垂体腺腫、実は発病を招く原因がよくわかっていない。多くの腫瘍はその原因が不明であるが、下垂体腺腫のような良性腫瘍になるとさらに解明されていない部分が多いとのこと。

それでも、先述のような諸症状が現れた場合、早めに医療機関で検査をするのが望ましい。検査はCT、MRIなどの画像検査や採血によるホルモン数値の検査が行われるケースもある。

「成長ホルモンは肝臓での糖の産生を促したり、抗インスリン作用(インスリン: 血糖値を下げる作用がある)があったりするので、成長ホルモン産生過剰の人は糖尿病を合併しやすいです。ブドウ糖を内服させると、通常ならば成長ホルモンの分泌が抑制されますが、下垂体に腫瘍があるとホルモンがとめどなく分泌されるため、ブドウ糖を投与しても成長ホルモンの分泌が抑制されません。そのため、下垂体腺腫を患っている診断根拠となります。画像検査では判断が難しい場合にこのような検査をすることもあります」

鼻から脳へとアプロ―チして手術

検査で下垂体腺腫が確認されたら、治療に移る。プロラクチン産生下垂体腺腫など、一部の下垂体腺腫に対してはその産生を抑える薬を用いた薬物治療を行うが、基本的には外科的治療を施す。

手術は鼻から下垂体へとアプローチする「ハーディの手術」と呼ばれる方法が一般的。鼻の粘膜を切開し、そこから下垂体腺腫へと向かい、患部をかきだしたり切除したりする。よほど特殊な事例でない限り、開頭手術は行わない。

「手術で取りきれない難しい個所に腫瘍がある場合は、ガンマナイフなどの放射線治療を行うこともあります。ただし、放射線治療では正常な下垂体も被爆してしまいますし、下垂体の周りには動眼神経などの目に関する神経が数多く張り巡らされています。これらの理由から、不必要な放射線治療は行いませんね」

「薬物療法が無効であったり手術で取りきれない難しい個所に腫瘍があったりする場合は、放射線治療を行うこともあります。ただし、放射線治療では正常な下垂体も被爆してしまいますし、下垂体の周りには視神経や動眼神経などの耐容線量の低い(被爆に弱い)目に関する神経が数多く張り巡らされています。これらの理由から、不必要な放射線治療は行いませんね」

ありふれた症状の裏に下垂体腺腫が潜むという認識を

福島医師は「下垂体腺腫はいろいろな科で受診して見つかることが多いです」と話す。高血圧や糖尿病で内科を、視野障害で眼科を、無月経で婦人科を受診して下垂体腺腫が見つかるといったケースも起こりうる。

「こういった日常にありふれた症状と脳腫瘍の存在を結びつける方はあまりいないかもしれませんが、こういう病気があるということを頭の片隅に置いておいてもらいたいですね」

※写真と本文は関係ありません

取材協力: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。