リリース後わずか16時間で3.6億円をバラまき、瞬く間にサービスを停止した質屋アプリ『CASH』、飲食店や惣菜店などで余ってしまった料理とユーザーをマッチングするサービス『TABETE』、「塾や通信教育よりも断然安い」と高校生に人気の学習サービス『Studyplus』。これら話題のサービスに共通しているのは、開発言語に「Ruby」を採用していることだ。

Rubyは、まつもとゆきひろ氏が開発したプログラミング言語。1995年の一般公開以来プログラマーからの支持を集め、さまざまなサービスの構築に寄与してきた。Rubyの誕生地・島根県を中心として構成されたRuby bizグランプリ実行委員会は、この言語の継続的な発展を目指し、Rubyを活用したサービス事例の表彰式を開催した。

「Ruby biz Grand prix」。式には受賞企業のほか、島根県知事やRuby開発者のまつもと氏らも参加した

大賞を受賞したサービスはスタディプラスの『Studyplus』とコークッキングの『TABETE』。加えて、バンクの『CASH』やリブセンスの『転職ドラフト』などのサービスがPricing innovationを受賞、そのほかのサービスも特別賞やDevice Technology賞といった賞を受賞した。

なぜ彼らは開発言語にRubyを選択したのだろうか。会の終了後、コークッキング リードエンジニアの榊原徹哉氏、バンク 代表取締役兼CEOの光本勇介氏に、サービス開発や事業戦略を考える上でのRubyの重要性について話を聞いた。

短期間での開発にRubyの開発速度は必要不可欠だった

コークッキング リードエンジニア 榊原徹哉氏

――『TABETE』の開発にあたり、Rubyを選択した理由は?

榊原氏(以下、榊原):TABETEは、リリースまで3カ月しかない中で、エンジニアはたった3人だけ、中でもフルタイムで働くのは1人だけという状況で開発したサービスです。その状況で開発を間に合わせるためには、Rubyでなければ難しかったでしょう。

開発方針の変更に柔軟に対応できる点も理由の1つです。当社では「フードロス」という社会課題を解決するためのフードシェアリングサービスを展開しているのですが、こういったサービスの事例は少なく、手探りで進めていたために方針が変わることも少なくありませんでした。

――開発速度、方針の変更に迅速に対応できるのがRubyだった

榊原:Rubyの特徴として、コーディングの文章が少なく済むという点が挙げられます。少ない文字の組み合わせでバリエーション豊かな機能を作りこむことができるため、短期間での開発を実現することに加え、コンパクトな付け替えも可能です。「読みやすさ」も特徴で、例えば「ここの部分ってどういう仕組みで動いているんだっけ」と思った際に、一部を読んだだけで理解することができる。企業が陥りがちな、「開発者しか仕様がわからない」という問題も減少します。

――当初はコークッキングのエンジニアはもっと少なかったとか。現在のメンバーはどのように集まったのでしょう?

榊原:実は私がジョインしたのは途中からでして。Wantedly経由で「何やら面白そうなサービスがあるぞ」と興味を持ち、ジョインすることになりました。最初は2人で開発していたのですが、このままでは間に合わないと、COOがツイッターで呼びかけて沖縄のインターン生を採用し、3人で開発したという流れです。

――サービスを開発する上で、競合他社との差別化を図るためにしたことは?

榊原:似たようなサービスとして「FOOD PASSPORT」や「Reduce GO」などが並べられることがありますが、彼らはサブスクリプション型なので、完全な競合だとは思っていません。私たちは一品ずつ打っているため、例えばフェスやイベントなどでサービスを活用することも可能です。一見、フードシェアリングサービスという分野では競合に見えるのですが、ある種“フードロスと言う問題に一緒に挑んでいく仲間”というイメージを持っています。

――Rubyを使っていて、良かったと思うことはありますか?

榊原:Rubyは、コミュニティの活動が活発なのがいいなと思っています。例えば誰かが何かの機能を作りたい、と思ったときには、オープンソースで配布されている機能を自由に使うことができます。それらを組み合わせるだけでも、簡単にサービスを作ることもできます。今後もRubyのコミュニティは広がっていき、採用する企業も増えていくように思いますね。

適切なタイミングを見極めて、サービスを展開するために

バンク 代表取締役兼CEO 光本勇介氏(右)

――サービス開発にRubyを採用して良かった点について教えてください

光本氏(以下、光本):よく言われる話ですが、さまざまなライブラリがあること、自分たちが考えているものをスピーディに形にできることが長所だと思います。さらに、大きなサービスを1人で作っていくというのはエンジニアにとってかなりの負担であるため、多くの人に慣れ親しまれてる言語を選択する必要があります。そういった点で、Rubyは好ましい。また、エンジニアの採用もしやすいです。それは会社にとっての大きなメリットです。

――エンジニアはどうやって集めたのでしょう?

光本:「CASH」をリリースする前のメンバー集めは大変でしたが、幸いなことに、リリース以降はいろいろなメディアに取り上げられたこともあり、エンジニアへの認知が拡がり、採用しやすくなりましたね。そこからは求人媒体やHPからの応募が増えました。

――CASHはリリース直後に停止、その後再開したかと思えば、次は「TRAVEL Now」を発表しました。このように短いスパンで、サービスを次々と世の中に出すのはなぜですか?

光本:個人的に、事業を作るときに重要なことは「市場の選択とタイミング」だと思っています。それがすべてだと言ってもいい。どんなに良いアイデアであってもタイミングが違えば、流行るものも流行らないでしょう。これは今までの経験からすごく感じることです。出すべきタイミングを見極めて事業を形にすることが重要です。その中で、Rubyは私たちが想像しているものを形にする言語として、非常に優れていると思っています。

――「タイミングが重要」ということですが、市場調査などにはどのくらいの時間をかけているのでしょうか?

光本:昔は結構、市場調査をするタイプだったんですが、ここ数年は自分たちの直感を信じて事業を選定したり、開発したりすることが多いですね。私達のようなスタートアップ企業は、今までにないものであったり、新しい需要であったり、そういったものを創出することが使命だと思っています。

そのため、将来の需要や市場に関する情報というのは、市場調査からは得られないのかな、と個人的に思っています。できるだけクイックに、まずは世の中に出す。それが1番の市場調査になるんです。

――先月、MBO(マネジメント・バイアウト)を実施し、DMM.comが保有するバンクの全株式を取得されました。光本さんは「次のチャレンジ・事業を考える過程で、その形がベストだった」という旨のブログを書いていましたが、次の“チャレンジ”とは、どういったものでしょう?

光本:当社は、社名の通り「お金」をテーマにしている会社なので、それに関する事業を作っていますし、今後も何か新しい事業をするとしても、その軸は変わらないと思います。私たちの夢は、自分たちの手で誰にでも使ってもらえるようなマスの事業・サービスをつくること。ベンチャーとして事業を作ったのは、誰にでも知ってもらえるようなサービスをつくりたいと思ったから、そこに向かっていきたいです。

ありがたいことに、多くのメディアで話題にしていただいたこともあり、当社の認知は高まったかと思います。しかし、普段街を歩いていて、実際にサービスを使っている人を見かける、という機会はまだまだ少ない。しかし、伸びしろはまだまだあると思っています。私たちのサービスを、今後もっと多くの人に使っていただきたいっていうのが、私たちのチャレンジですかね。

拡がるRuby経済圏が作り出す、新たな可能性

本大会の審査委員長を務めた、まつもとゆきひろ氏

まつもとゆきひろ氏は表彰式後、Rubyが社会にもたらす影響をもたらす未来への期待を語った。

「Rubyから誕生した、社会を変えるインパクトを与えるビジネスが多く生まれています。これはみなさんの努力のおかげです。今や社会インフラになったTwitterも、かつてはRubyで開発されたものです。(中略)4度目の開催にして、多くの素晴らしい作品を選べたことを嬉しく思います」。

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発表会の顔ぶれは、大手企業からベンチャーまで多種多様。中でもベンチャー企業が目立っていたのは、少人数・短期間でのサービス開発が行えるようになったことによって、さまざまなサービスが勃興していることが影響していると予想できる。Rubyの作り出す経済圏はますます拡がって行くのだろう。

話は変わるが、ここ数年、エンジニアが表彰される今回のような会が増えてきているように感じる。少し古いデータではあるが、ソニー生命が2017年に発表した「中高生の将来なりたい職業ランキング」では「ITエンジニア・プログラマー」が1位だったというし、2020年からは小学校でのプログラミング教育が始まる。エンジニアにスポットライトが当たり始めたことは、これからの社会を作り出す未来のIT人材が急増していく流れを考えると、当然のことかもしれない。