このほど、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社)が12月27日に刊行されることに伴い、出版記念イベントが書泉グランデ(東京都千代田区)にて開催された。当日は、著者の姫野桂氏らが登壇。同書では「発達障害の傾向はあるようだが、ハッキリそうとは断定できない」という、どっちつかずの結果のまま放置されてしまう“グレーゾーン”の存在にスポットを当てている。

「ADHD」(不注意が多い、多動・衝動性が強い)、「ASD」(コミュニケーション方法が独特、特定分野へのこだわりが強い)、「LD」(知的発達に遅れがないにもかかわらず、読み書きや計算が困難)といった症状が挙げられ、テレビなどのメディアでも特集が組まれるなど耳目を集めている発達障害。

徐々にその存在に対する認知は広がっているようにも感じるが、グレーゾーンにあたる人の多くが「クローズ就労(=会社には障害を隠した状態)」で働き、「家族や友人にもなかなか理解してもらえない」といった困難を抱えているという。イベントの模様とともに、その実態をお伝えしよう。

  • 「グレーゾーンを可視化する」という試みに挑む姫野氏は、同著の中で当事者インタビューや当時者会への参加、精神科医、就労支援団体などへも取材を行っている

    「グレーゾーンを可視化する」という試みに挑む姫野桂氏は、同著の中で当事者インタビューや当事者会への参加、精神科医、就労支援団体などへも取材を行っている

グレーゾーンの人が抱える生きづらさとは?

「病院で検査を受けた結果、傾向があると言われるだけで診断がおりないというグレーゾーンの存在は、発達障害の取材をしている中で知りました。障害者手帳がもらえるわけでも、障害者雇用で働けるわけでもなく、ある意味、一番支援が行き届いていない層がそこなんです」と、発達障害グレーゾーンに注目した背景を述べる姫野氏。

同イベントには、発達障害ポータルサイト「LITALICO発達ナビ」などを運営するLITALICOの鈴木悠平氏、軽度の発達障害特性に悩む人の当事者会の支援団体「OMgray事務局」代表のオム氏の2人も登壇した。

  • 左から、フリーライター・姫野桂氏、LITALICO研究所事務局長・鈴木悠平氏、OMgray事務局代表・オム氏

    左から、フリーライター・姫野桂氏、LITALICO研究所事務局長・鈴木悠平氏、OMgray事務局代表・オム氏

自身も発達障害グレーゾーンであるというオム氏は、「発達障害の傾向や抑うつなど二次障害が原因で仕事のミスや失敗を繰り返しがちで、理由も説明できないため職場で孤立しやすい」、「診断がないので薬も処方されず行政の支援にアクセスしにくい」といったグレーゾーン特有の問題を指摘。

「例えば10分とか、限られた診療時間の中で、どれだけ自分の困りごとをお医者さんに正確に伝えられるかって、けっこう勝負なんですよ。なんせこっちはコミュニケーションが苦手じゃないですか(笑)。グレーの人は一見普通の人に見えるんで、絶対『(診断)いらないでしょ』って言われます」と、嘆息まじりに語った。

鈴木氏によれば、「お医者さんによっても診断の塩梅には個人差がありますし、発達障害の困りごとも個人と環境の相互作用なわけです。なので、同じお医者さんに診てもらった場合でも、いろんな環境の作用で困りごとが大きくなって不適応を起こしていると判断されれば、後からクロになるということはありますね」とのことで、その診断基準には少なからず曖昧な部分もあるようだ。

また、イベント中は、発達障害の特性を持つ人からの質問やあるあるがツイッターなどでリアルタイムに投稿され、登壇者の3名が共感のコメントを寄せる場面も。

  • ツイッター上では「発達障害をカミングアウトしたら退職勧告されました」との声も

    ツイッター上では「発達障害をカミングアウトしたら退職勧告されました」というつぶやきも

「発達障害の傾向にある方は人間関係をオールorナッシングで分けたがるので疎遠になりやすい」、「聴覚からの情報の処理が苦手。聞いた内容が右から左に抜けて、『AとBとCをしなさい』って言われたらCしか覚えてないことも多いですね。私も電話よりもメールの方がありがたい」など、実体験をもとにそれぞれの投稿内容が掘り下げられた。

症状の現れ方もさまざまで、一緒くたに考えることが難しい発達障害。しかし、今回特に目立ったのは、「聴覚情報の処理障害」に関するものや、「曖昧な指示を理解すること、察することが苦手で、職場でのトラブルにつながりやすい」といった声だ。

鈴木氏が、「わかりにくい指示については、なるべく書面で伝えてもらうとか、自分の聴覚処理能力に頼らない対策をした方がいいですね」とアドバイスした上で、「でも、発達障害とか関係なく、仕事の場では指示とかは具体的にわかりやすくしようよ、と僕は思いますけど(笑)。結果的にそれってみんなにとって働きやすい職場になるので。マニュアルや働く時のルールも明文化してストックするとか、普通に考えてそのほうがいいんじゃないかと思います」と語ったのも印象的だ。

同書では上記のように、発達障害グレーゾーンの方が世の中を生き抜くための実践的な「ライフハック」も多く提案されている。

「子どものころから、なぜか友達の輪に入ることができなかった」、「学生時代はそうでもなかったのに、社会に出たらミスばかりでいつも悩んでいる」、「同僚との雑談が苦手で、“空気が読めない人”と言われてしまう」、「衝動的にカッとなったり、一カ所にジッとしていられなかったりすることで、周りに困惑される」。

そのような悩みを抱えている人は、ぜひとも同書を参考にしてみてほしい。

発達障害グレーゾーン

発達障害の“傾向"を指摘されながら、正式な“診断"には至らない「グレーゾーン」と呼ばれる人たち。著者は、発達障害の認知が広まる中であまりフォーカスされてこなかった「グレーゾーン」を可視化する試みを始める。当事者インタビューや当事者会への参加、精神科医、就労支援団体などへの取材を通じて、グレーゾーンとは何か? なぜこれほどまでに生きづらさを抱えるのか? が解き明かされていく。




姫野桂 著/OMgray事務局 協力
定価:820円(税別)
発行年月:2018年12月27日