賃貸業界では「おとり物件」と言われるものがあります。いかにもあやしい呼称ですが、一般の私たちがその存在を知る機会はなかなかないかもしれません。なかには、その言葉自体を初めて聞いた、という人もいるのではないでしょうか。
「おとり物件」とは果たして何なのか? どうすれば「おとり物件」とちゃんとした物件を見分けることができるのか? その全貌についてこれから解説したいと思います。次に引っ越しをするときの参考にしてみてください。
「おとり物件」とは?
文字通り「おとり」の物件のことを指します。「おとり広告」や「釣り物件」など、別の呼び方をされることもありますが、本質的には同じです。実際は、契約することができない物件にも関わらず、おとりとして打ち出すことで、悪質な不動産会社が家探しをしている人の注意や関心を引き寄せます。
何のために「おとり物件」を出すのか
賃貸物件を扱う不動産会社にとって、収益の主な柱となるのは、賃貸物件の契約が成立した際、契約者から支払われる「仲介手数料」です。そして、契約へと至るまでには、まず不動産業者の店内に来店する必要があります。そのため、不動産会社は来店者数を増やすためにさまざまな方法をとっています。
たとえば、広告を打ち出したり、駅でティッシュ配りをしたりなどです。そのなかで、悪質な不動産会社がしばしば選ぶ方法が「おとり物件」なのです。「おとり物件」はほかとは違い、ほとんど費用がかからないというのも大きいでしょう。
「おとり物件」に釣られてお店に行くと
一般的によくあるとされる被害のモデルケースをご紹介します。不動産サイトであれこれと条件を変えて物件を探していると、条件に見合うお気に入りの物件が見つかります。内見したいという旨を専用のフォームに入力すると、後日その物件を管理している不動産会社から連絡が届きます。
その時点で再度、お気に入りの物件が空いているかを尋ねると、担当者は「空いている」と言います。ラッキーと思い、現地集合での内見を希望してみると、「それはできません」と言うのです。理由としては「大家の都合」「カギの都合」と言うわけです。そして、仕方なく不動産会社に行くことになりますが、そこで担当者の口から出るのは、「例の物件ですが、つい先ほどほかの人が契約してしまいまして……」という言葉です。そのまま帰るわけにもいかず、いろいろと質問に答えているうちに、不動産会社の担当者にペースを握られてしまう、というわけです。
これはあくまでもモデルケースです。そして「例の物件」が本当に「おとり物件」だったのかどうかは私たちには知りようもありません。しかし、似たような手口で、架空の物件をおとりに来店させるということはまったく珍しいことではありません。
「おとり物件」の現状
そもそもおとり物件をなくす方法はあるのでしょうか。たとえそれが難しくても、せめて私たちはおとり物件にだまされないようにしたいものです。
法律的にはどうか
「おとり物件」を掲載するという行為は、宅地建物取引業法や景品表示法などの法律に抵触する場合があります。しかし、現状はきわめてグレーに近い状況でしょう。たとえば、すでに借主の決まった物件を「意図的に」WEBサイトに掲載し続けたとします。この時点で宅地建物取引業法違反だとする専門家もいますが、第三者からすれば意図的かどうかはわかりません。
そのため、WEBサイトから削除するのを忘れていた、という類の言い訳がいくらでもまかり通ってしまうのです。数字の記載ミスなどについても同様で、敷金・礼金を実情とは異なり、いずれも0円などと記載していても、「手違い」という理由で言い逃れられてしまうことも考えられます。
架空の物件
完全につくられた架空の物件もあれば、敷金や礼金、家賃などに少々手を加えて記載ミスを装った物件もあります。ただ、その度合いに関わらず「おとり物件」に共通しているのが、周辺相場などよりも好条件になっているということです。来客者を増やすことが目的なので、当然と言えば当然です。
「おとり物件」の対策
好条件は疑う
物件の広さや新しさ、立地エリアなどから考えられる、相場よりはるかに安い物件は、「おとり物件」と疑ったほうがいいかもしれません。現状、「おとり物件」は、それだけ当たり前に掲載されているのです。おいしい話には裏がある、と思って家探しをしたほうがよいでしょう。
長期掲載されているか確認する
家探しを続けていると、好条件なのにいつ見ても掲載されている物件がある! と気がつくかもしれません。これは「おとり物件」である可能性が高いです。通常、本当に好条件であれば、すぐに借主が決まるはずなので、何らかの理由があるということでしょう。大抵の不動産サイトでは、物件の詳細情報として、登録日が記載されています。掲載期間を知りたい場合はチェックしてみてください。
事故物件にも要注意
以前に死亡事故のあった物件を事故物件といいます。過去にそんなことがあったら、住みたくないと感じる人のほうが多いのではないでしょうか? ただ、世の中には事故物件を自らすすんで探している人・住んでいる人もいるようです。なぜなら多くの事故物件が通常の家賃相場よりも低く設定してあるからです。
不動産業者に直接聞くのが一番
ネットの情報だけで、事故物件ではないと判断するのは早計です。サイトへの記載は必要ないと判断した事故であっても、直接聞けば教えてもらえるということが往々にしてあるからです。なので、心配に感じた人は、早い段階で不動産会社に確認しましょう。
ちなみに、不動産会社はネガティブな情報を提供するという義務があります。とはいえ、事故についてどこまで詳細に伝えるのかというのは、担当者の良心によるところが大きいと言えます。あるいは、事故による物理的な損傷以外の詳細は伝える必要性がない、と判断する担当者もいることでしょう。
おいしい話はありません
世の中のあらゆることがそうであるように、家探しにおいてもおいしい話というものはありません。ほかの物件より、突出して魅力的に感じるような好条件の物件は、「おとり物件」か事故物件の可能性が高くなります。それでも、良心的な不動産業者の担当者とともに根気強く探し続ければ、ときめくような物件にきっと出会えるはずです。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。