シェイクシャック(Shake Shack)、カールスジュニア(Carl's Jr.)、ウマミバーガー(UMAMI BURGER)……。ここ数年、日本では外資系ハンバーガーレストランの出店が相次いでいるが、気になるのは各店の“その後”だ。日本唯一の“ハンバーガー探求家”である松原好秀さんから追跡レポートが届いたので、2回に分けてお伝えしたい。まずはウマミバーガーとシェイクシャックだ。
「うま味」で日本凱旋のウマミバーガーは2店舗に
この秋、ウマミバーガーが動いた――。
ウマミバーガーはロサンゼルス生まれのハンバーガーレストランである。第5の味覚(The Fifth Taste)といわれる「うま味」に着目したバーガー店で、創業者である米国人が独自に開発した「UMAMI ダスト」「UMAMI マスターソース」なる調味料を使ったハンバーガーを提供している。2018年11月現在、全米に20店を展開する。
日本上陸は2017年の3月。場所は東京・青山。表参道の交差点からやや入ったところにある。一見するとわかりづらい、奥まった場所のようだが、しかし、ミニサイズのバーガーがセットになった「スライダートリオ」や、クッキーや綿菓子で派手に飾った「ファンシーミルクシェイク」など、インスタ映えするメニューを次々と繰り出し、20代の若い女性などを中心に大きな人気を呼んでいる。
そしてこの秋、初上陸から1年半の時を経て、ついにウマミバーガーが国内2号店の出店を決めた。場所は都内ではなく、横浜だ。なぜ、このような立地となったのか。ウマミバーガージャパンの海保達洋社長に出店に対する考え方を聞いた。
まず、「店舗のイメージにマッチするような場所・物件」というのが、ウマミバーガー出店の第一条件だ。店舗のデザインは米国側と一緒に考える。そして、考えたイメージに合う場所や建物を探す。「1号店は人が多く集まる場所、話題になる場所を選んだ」と海保社長。次なる2号店は「海に面したところに出したい」との希望が米国側にあったため、東京湾のベイサイドをさまざま当たり、横浜のみなとみらいに絞り込んだという。
ウマミバーガーの日本2号店は「みなとみらいセンタービル」の1階にある。この建物は21階建てのオフィスビルで、本来ならコーヒーショップでも入っていそうな1階エントランスホールの一角に、ウマミバーガーが収まっているのが今どきな感じだ。平日は上階のオフィスに勤めるサラリーマン、週末は観光客、さらに近所に建ち並ぶ高層マンションの住民たちも利用する。キラキラまばゆい非日常空間を演出した青山店と比べ、もっと日常的で実用的・実際的な店構えだ。
「うま味」の本場で独自の取り組みも
日本のウマミバーガーを語る上でもうひとつ欠かせないのが、日本独自のメニュー開発だ。
ウマミバーガーには現在、日本限定のバーガーメニューが5品、さらに、みなとみらい店限定のバーガーが1品ある。これは、同時期に日本に上陸したシェイクシャック、カールスジュニア、THE COUNTERなどでは見られない取り組みだ。ウマミバーガーはどこよりも自由に、かつ盛んに独自メニューの開発を行っている。テリヤキソースを使った「テリヤキサムライ」のように、本国でも販売された「逆輸入」的なバーガーメニューまである。
これらのメニューの生みの親は、ウマミバーガージャパンのシェフである吉田ナワーフさん。日本人とクウェート人のハーフである吉田さんは、その独自の感性・感覚をいかした新商品の開発に意欲的だ。
日本人が提唱した「うま味」に影響を受け、米国で誕生したハンバーガーレストランが、「うま味」の本場・日本に里帰りし、何十倍にもパワーアップしてまた米国へと帰ってゆく――。そういう展開も今後、十分に考えられる。日本で最も「化けそうな」バーガー店、それがウマミバーガーだ。
今後については、あくまで「店のイメージにマッチする場所」という条件ありきで動くと海保社長。それでも来年には、さらに何店舗かの出店の動きが見られそうだ。「いい場所があれば首都圏以外にも出していきたい」と、地方への展開にも前向きである。
シェイクシャックは大阪進出! 出店ペースは悠々せまらず?
ウマミバーガー2号店がオープンする1年前、同じ横浜・みなとみらいに国内5号店を出したハンバーガーレストランがある。ニューヨークから来たシェイクシャックだ。
2018年6月に国内10号店を大阪・梅田に出して話題になったシェイクシャックだが、記念すべき日本1号店がオープンしたのは2015年11月のこと。場所は東京・青山の神宮外苑いちょう並木。次いで恵比寿、有楽町の東京国際フォーラム、新宿サザンテラスと、都内の主要スポットをきっちり押さえた後、5号店では初めて都内を離れ、神奈川県横浜市に勢力を拡げた。
この出店について、国内のシェイクシャックを運営するサザビーリーグの角田良太社長は、「上陸当初は首都圏での店舗展開を考えていたが、その中で横浜は、東京に次いでマーケットの感度が高く、ポテンシャルがあって、優先順位の高い場所であり、絶対に外せないと考えていた」と語る。「海外からの観光客が多く訪れ、シェイクシャックの世界観を表現できる広い敷地を確保できる」ことも決め手のひとつだった。
シェイクシャックはその後、同じ神奈川県の湘南・辻堂に9号店を出した。「テラスモール湘南」という複合商業施設内の店だが、ここへの出店も「シェイクシャックの世界観を十分に表現できる”広い敷地”」という条件がやはりキーワードになっている。
日本上陸3周年で新たな「コアメニュー」
そしてこの秋、シェイクシャックは日本上陸3周年を迎えた。
1周年にはミシュラン1つ星の日本料理店と、2周年には神田の人気ラーメン店とそれぞれコラボレーションし、1日限定・個数限定のスペシャルバーガーを外苑いちょう並木店のみで販売したが、3周年は国内10店全店で新グランドメニュー「Chick'n Shack」(チキンシャック)を一斉発売した。
「チキンシャック」はフライドチキンを挟んだサンドイッチで、世界に194店あるシェイクシェイクのどこへ行っても食べられる「コアメニュー」だ。一方、出店する地域性に合わせた「ローカルメニュー」については、バーガーでなく、同店名物のオリジナルアイス「コンクリート」がその役を一手に担っている。「コンクリート」とは、卵黄を多めに加えて作ったフレッシュアイスクリーム「フローズンカスタード」を使ったデザートのことで、トッピングの違いにより、各店それぞれに限定のコンクリートが存在する。
ありそうでなかった定番商品がついに登場!
シェイクシャックのこれまでの地域限定メニュー・店舗限定メニューの傾向は、大きくは以上のようであった。そこへこの秋、新たなローカルメニューが加わったのである。「ホットコーヒー」と「ホットラテ」が登場したのだ!
実は、どちらも今までのメニューにはなかった。そもそも、これといったホットドリンク自体がシェイクシャックにはなく、冬場にテラス席を利用する客たちは、北風に吹かれてずいぶんと寒い思いをしたものである。ハンバーガーと一緒に温かい飲み物が飲みたい……。ところが、そう思うのは、どうも日本人特有の欲求らしく、東京より寒いはずのニューヨークのシェイクシャックですら、ホットコーヒーをはじめとするホットドリンク類は一切メニューにない。米国にはハンバーガーをホットコーヒーと一緒に食べる習慣がないのだ。
そういう意味で、今度のホットコーヒーは地域性に合わせたメニューの最たるものといえる。この3年、多くの日本人がシェイクシャックに待ち望んだメニューの第1位は、実はこのホットコーヒーだったのである。
新たなコアメニューとローカルメニューが同時に加わり、ますます充実のシェイクシャック。3年ぶりに来日したCEOのランディ・ガルッティ氏に「日本におけるライバルは?」と尋ねたところ、ラーメン、そば、うどん、トンカツなどの具体的な食べ物の名前を挙げた上で、「『今日はハンバーガーが食べたいな』と思った時に選ばれる店でありたい」との答えが返ってきた。飲食店の数がただでさえ多く、慢性的な過当競争状態にある東京の外食市場をよく理解した言葉である。
ハンバーガーの敵はハンバーガーに非ず。常に他の食べ物と昼食・夕食の機会を争っている。ホットコーヒーの導入も、その競争を勝ち抜くための手段といえるだろう。日本のシェイクシャックは実にいいキーアイテムを手に入れた。
(松原好秀)