バブル期は土地がなければ、とても戸建住宅には手が届きませんでしたが、最近は比較的便利なところに戸建住宅を手に入れられるようになり、建売住宅を購入したり、土地から購入して注文住宅を建てたりする若い夫婦も多いように感じています。

マンションと違って、建て替え時期を自分たちでコントロールできますし、資産としての自由性があります。土地を担保にして、老後の生活費を借り入れる「リバースモーゲージ」も原則戸建て住宅のみで、マンションは対象となりません。

では戸建て住宅を手に入れる方法として、土地を入手して注文住宅を建てるのか、建売住宅を取得するのか、またその中間的なスタイルを選択するのか、それぞれどのようなメリットがあるのでしょうか。

注文住宅の様々なスタイル

一口に注文住宅と言っても、多種多様なスタイルがあります。建売住宅との境界も、実はあいまいで明確ではありません。注文住宅で自由設計と言われていたのに、いくつかの間取りから選ぶスタイルであったり、仕様が決められていたりとすべてが自由でないケースもあります。

住宅メーカーによる注文住宅……工法・構造は多種多様で、多くの部分を工場で生産されるものから、ほぼ大工さんが現地で製作するものまでいろいろです。多くはモデルルームがあり、商品タイプごとに標準仕様が決められています。オプション仕様も用意されている場合が一般的で、その中から希望の仕様を選びます。市販品も利用できる場合もあり、自由度はメーカーによって大きく異なります。

当然モデルルーム等の投資金額は価格に反映されますので、価格は高めが一般的です。ただし品質や倒産の不安などは大手のメーカーならではの安心感はあります。

工務店による注文住宅……住宅の設計は建築士でなければできませんので、工務店に依頼する場合でも、社内の建築士や提携している設計事務所の建築士が設計します。ただし、工事が主なので、デザイン力などの設計の技量は期待できないかもしれません。経営母体は小さいことが多いので、工事中の倒産等の心配はあります。

また、住宅メーカーであれば契約金を支払えば、あとは完成後の支払いで済むことが多いですが、工務店は経営母体が小さいために資金繰り上、着工時1/3、棟上げ時1/3、引き渡し時に1/3が一般的です。住宅ローンは引き渡し後にしか融資がおりませんので、中間金は自己資金か、つなぎローンを利用することになります。

設計事務所による注文住宅……自分達のニーズを実現してくれそうな建築士を選び、設計を依頼する本来の注文住宅の形です。工事は心当たりの工務店がなければ、建築士が日頃付き合っている工務店を紹介してくれます。しっかりした建築士には優秀な工務店がパートナーとして存在します。そうした建築士は当然依頼する顧客も多く、工務店への指導もしっかりしているはずで、工務店も仕事量が多くなり経験豊かになります。ただし、設計士の技量も様々ですし、デザインスタイルがマッチしているかどうか、その他もろもろのマッチングには多大なエネルギーを要します。

売建住宅……売建住宅はあらかじめ工事を行う会社が決められているケースです。一般に土地の分譲会社やその関連会社が施工します。このような土地を「建築条件付き土地」と言います。間取りの自由度や仕様は、それぞれのケースで異なります。売主が木造の在来工法のみを扱っている会社であれば、2×4工法や鉄骨、鉄筋コンクリート造の建物は難しくなります。

建売住宅は完成後物件か、工事中であるかによって違う

建売住宅は工務店やディベロッパーが建物を建てて、土地とともに分譲する形式です。完成物件の場合もあれば、工事中に売り出すものもあります。土地は分譲が一般的ですが、中には定期借地権等の場合もあります。上記の「売建住宅」も建売の部類に入れるのが妥当なケースもあります。

住まいを建築するもろもろの面倒な作業が少なくて済みますし、完成品を見て購入するので、イメージが違ったという問題も発生しません。

建物が完成している場合は、基礎や建物の構造部分は隠されてしまっていて、しっかり施工されているか見分けることは難しくなります。建物は完成後1年以内に不具合が生じるケースが一般的です。売れ残り物件は不安ですが、周囲の同時発売の建物なども合わせてチェックすれば、不具合などの発生状況はある程度分かるメリットもあります。

工事中であれば、構造部分の施工状況は見ることができる場合もあります。ただし、シートで覆われている上に、工事現場は危険ですので勝手に見ることはできません。中には工事中の現場見学会を行っているところもあるかもしれません。そうしたケースであればぜひ設計士などに同行してもらって、現場をチェックしてください。

この他にフラット35等の住宅金融支援機構の証券化ローンを利用する場合は、住宅金融支援機構が定める技術基準に適合することが求められ、設計検査、現場検査を受ける必要があります。建売住宅の場合は、売主側がフラット35等の適用が可能なように設計し、手続きを行っている必要があります。

建売住宅と注文住宅、そのメリットデメリット

下記の表は、ごく大まかな建売住宅と注文住宅のメリットを示しています。あくまでも一般論ですので、逆のケースも当然あります。

  • 建売住宅と注文住宅のメリット (C)佐藤章子

注文住宅か建売住宅かの選択よりももっと大切なこと!

注文住宅か建売住宅かの選択を考えるということは、前提として土地から取得することを意味します。日本は自然災害が多く、地震などでがけ崩れ、洪水、津波、液状化、不動沈下などで多くの住まいが損失してきました。災害は一瞬にして大切な財産である住まいばかりか命まで奪いかねません。住宅建売住宅、注文住宅にかぎらず、土地選びがもっとも重要です。

一時期、欠陥住宅が大いに問題となりました。住宅瑕疵担保履行法などの制定で欠陥住宅が話題になることは少なくなりましたが、欠陥住宅となる要因は土地が原因であるものが少なくありません。名のある住宅メーカーが開発した分譲地の建売住宅が、不動沈下により一斉に傾いた事例を見に行ったことがあります。

土地を購入したり、建売住宅を購入したりする際には、建築士等に現地に同行してもらい、災害に対する危険度なども判定してもらうと安心です。今はグーグル等で、ある程度その土地の問題点を事前に判断することも可能です。「隣が違法な盛り土をしていて危険」「谷を埋めて造成した土地なので、沈下が予想される」「氾濫を度々起こした川の流域である」「擁壁で造成された雛壇形式の土地で、いつか擁壁を作り替える費用が必要である」「高い擁壁の下の土地で、隣の擁壁が損傷すると危険」などネットだけでも多くのことがわかります。

■著者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。