2018年は、鈴木このみにとってあらたな経験を重ねた1年だった。4月からは声優としてアニメ『LOST SONG』の主演を務め上げ、5月には日比谷野外大音楽堂で初の野外ライブを開催した。

  • 鈴木このみ。1996年11月5日生まれ、大阪府出身。全日本アニソングランプリで優勝、畑亜貴リリックプロデュース「CHOIR JAIL」で15歳でデビュー。以降、数多くのTVアニメ主題歌を担当している
    撮影:稲澤朝博

その経験を生かして10月24日にリリースされたニュー・シングル「蒼の彼方」。本曲はTVアニメ『ソラとウミのアイダ』のEDテーマにも起用されている」。積み上げてきたものを生かして、彼女が本作で開いた、新しい扉とは。

野音での、野外ならではの体感と経験

――前作のリリース以降、この夏もライブの機会が非常に多かったですね。

そうですね。そのなかでも、やっぱり野音(※日比谷野外大音楽堂での「鈴木このみ 4th Live Tour ~Magic Hour~」東京公演)はものすごく印象に残ってます。今後武道館とかアリーナとかそういう場所を踏みたいと思ったときに、やっぱり必ず通っておきたいなと思っていた場所だったので、すごく念願だったんですよ。

――しかもメインステージの他に、お客さんの真ん中にあるステージも使われたりもして。

あれは気持ちよかったです!タオル曲の「Sky Blue OASIS」でそこに立って、お客さんに360度囲まれながら歌ったんですけど、うしろ向いてもお客さんがいるっていう経験はほぼ初めてだったので、気持ちがすごくたぎりました。でも野音って野外だから、声が跳ね返ってこないじゃないですか。だから、自分のエネルギーが一方通行でばーっと行っちゃうんじゃないかっていう不安が、実は序盤4曲目ぐらいまではあったんです。だけど徐々に徐々に、自分のエネルギーが返ってこなくてもみんなのエネルギーで補充されていって、それに突き動かされている感じがしてきて……。

――エネルギーのキャッチボールみたいなものが起きていましたよね。

そうなんです。しかもそれが、お互いに上回って上回ってみたいな感じで、ものすごかったんですよ(笑)。

――現在はアジアツアーを開催中ですが、今はちょうど、そのなかの海外公演をすべて終えられたところです。

そうですね。ここ1~2年は海外での活動にもより力を入れてやらせてもらっているので、それがすごく生きているのを感じました。それに最近は、本当に世界中のいろんな人から応援してもらえているんだなっていうのをすごく感じていて。Twitterでもリプを英語とか、中国語とかスペイン語とかでもらったりするんですよ(笑)。

そういうところから来るその心強さが特に今回のアジアツアーの海外公演に関してはあったので、スケジュールが結構キツキツでも海外でのライブとかイベントには行くようにしてきてよかったなってすごく思いましたし、アジアでしっかりワンマンライブができているんだったら、もっともっとほかのところでのライブにも挑戦してもいいんじゃないかな、とも思いましたね。

ストレートすぎない歌詞をうたうという、ひとつのトライ

――さて、今回の新曲「蒼の彼方」。まずは、この曲がEDに起用されているTVアニメ『ソラとウミのアイダ』の印象からお伺いしたいです。

キャラクターデザインとかイラストから、とにかく爽やかな雰囲気を感じました。それに6人いるメインキャラクターの女の子もそれぞれすごくかわいいですし、みんな方言を使っていたりと個性豊かな子たちが勢揃いしてるなぁって思います。

――楽曲自体の最初の印象は、いかがでしたか?

この曲は、「速いな」っていうのが最初の印象で(笑)。元々は、完成版よりさらに速かったんですよ。だから「なんて難しそうな曲なんだぁ!」っていうのが第一印象で。コンペで選んだんですけど、疾走感があふれていたりテンポが速くてスカッとしたロックチューンで、すごく自分らしい楽曲ではあるかなぁと思いました。でも歌詞は今回は、今までのストレートな感じとは違ってちょっと文学的な、おしゃれな歌詞を書いていただきたいです、と作詞のhotaruさんにお願いしたので、そこはちょっと新しい扉を開けられたのかなって思います。

――そのうえで、目線はキャラクターと同じものになっているようにも思います。

そうですね。この作品って世界観的には結構不思議な感じですけど、その中にいる6人の女の子たちに目を向けると、同じ目標を見てるんだけどやっぱりみんなそれぞれ歩幅が違っていて。早く進んでいく子もいれば走るのが遅い子もいて、足並みを揃わなくてぶつかりあったり、でもそれを乗り越えた絆の深さがあったり……そういうものがいちばん伝えたいテーマなのかなって思いました。

自分自身も友だちやチームのみんな、ファンのみなさんとか、そういう同じ目標に向かっている人たちのことを想いながら、歌えるのかなって思ったんですよ。

――だからこそ、「せーのって飛び込んでみたんだ」のように、新しいことに向かっていくときの心情も結構織り込まれていて。

そうですね。自分自身も、ある種野音は自分の中での集大成を見せられたのかなって思っていたので、「鈴木このみはまた、どんどん変わっていくんだぞ」っていうところも見せたくて……。それこそ「せーのって飛び込んでみたんだ」じゃないですけど、そういうちょっと遊び心のある言葉を選んでもらいました。なので次に向かうわくわく感とか、そういうものもすごく詰まっているのかな、と思います。

悔しさを乗り越えて、納得のいく歌声を実現

――そんなこの曲をレコーディングしてみて、いかがでしたか?

結構苦戦しましたね。すごくポップな曲であるがゆえに、元気よく行きすぎてしまったんですよ。チームでは「ポップなんだけど、かっこいい」っていうのを目指してみたいなぁって話し合っていたので、そこを極めるまでがすごく時間がかかりました。Aメロなんて、30テイクぐらい重ねたんですよ。

――ただ、「歌えばそこに君がいるから」のときと同様のうまい引き具合というのが、この曲のA・Bメロあたりから特に感じられました。

ありがとうございます。それはレコーディングでずーっと言っていて。たとえば「Beat your Heart」とか「Redo」みたいな楽曲って、最初からもう全力で走ってるような感じだったんですけど、今回はサビをバッといくためにAメロを抑えておこうかっていうことで、「サビナナ」って言葉をずーっと言ってました。「サビの7割ぐらいとかでずーっといってほしい」っていう意味なんですけど、チーム内ですごく流行してましたね(笑)。

――たしかに、疾走感はあって速いけれども重いサウンドではないので、その力加減だと、より軽快に聴こえるといいますか。

そうですね。ちょうどいい塩梅を探して……。レコーディングは今までもかかるときはかかって、最長2日間とかもやったりしたんです。でも1日で30テイク同じところをっていうのは初めてで、レコーディングに関しては割と体育会系なのかな、って改めて思いました。途中、納得いくものが出ない悔しさで本当にちょっと泣きそうになりながら(笑)。「いや、でも頑張る! 頑張る!」って奮い立たせてやってましたね。

――そうやって歌った曲の仕上がりを御自身で聴いて、どう感じられましたか?

ちょっと落ち着いた感じがして、「大人になったんだなぁ」っていうのをすごく感じましたね。それに、声の分厚さとかも変わってきたのかなって。前は、自分の中では線が細めの高めの声を武器にしていたんですけど、今回はそれをもっと太く厚くできたのかなと思うので、自分の声の違いみたいなものも聴いていてすごく面白かったです。

――そういう声の出し方の技術の部分には、やはり『LOST SONG』の経験が生きてるところもあるんでしょうか?

あ、それはすごくあると思います。リンは自分よりもすごく幼いキャラクターだったので、歌ってるときも「もうちょっと幼めでお願いします」って言われることがすごく多くて。年齢感みたいなものが声の出し方でだいぶ変わるんだって知ることができたのも、すごく面白かったです。それに、「自分だとこうすると表現的にすごくいい感じだと思うんだけど、リンとしては違うんだな」って感じることがありました。そこで「違う」と言われたら、自分にないものから引っ張り出してこないといけない。それもものすごく勉強になりましたし、引き出しを増やせたいい機会になったのかなって思います。