円谷プロダクションは、同社が展開するウルトラマンシリーズの魅力を、より幅広い世代に伝えるための新規プロジェクト『ULTRAMAN ARCHIVES(ウルトラマンアーカイブス)』を発足。10月15日に会見を行い、その取り組みを発表した。

マスコミに向けた発表会では、まず円谷プロの塚越隆行社長が同社の今後の展開について説明。現在放送されている最新作『ウルトラマンR/B(ルーブ)』を楽しんでしる子どもたちや、かつてのシリーズを観て大人に成長したコアなファン層だけでなく、より幅広い世代にシリーズの魅力を打ち出すべく、ウルトラマンの優れたキャラクター性のみならず、作品自体の持つ優れたテーマ性、娯楽性、メッセージ性を届けていくことで、ウルトラマンブランドのファンを拡大していく狙いを明らかにした。

さらには、「ウルトラマンを世界規模のブランドに育てる」ことを目指し、円谷プロ作品の海外展開を積極的に進めていく方向性にも言及。塚越社長は、「ウルトラマンというコンテンツ、および円谷プロの創造性は、日本のみならず世界中の人々へ届けられるものだと確信しています」と自信を見せた。

今回発表された『ULTRAMAN ARCHIVES』は、このような円谷プロの今後の展開を示す、具体的なアクションのひとつであるという。

塚越社長は「現在円谷プロが行なっているチャレンジは、ウルトラマンの新しい作品作りの中での挑戦と、もうひとつはこれまでに作られてきた数々の作品のブランド力をどのように高めるかということに向けられています。『ULTRAMAN ARCHIVES』は後者の試み。これまで円谷プロが作ってきた数々のコンテンツを通じて、より多くの方々に改めて、優れたメッセージをお届けしたい」と、1966年にテレビ放映された円谷プロ第1回製作作品『ウルトラQ』に始まる膨大な作品ひとつひとつに改めてスポットをあて、作品の持つ魅力を多くの人々に伝えるためのプロジェクトであることを説明した。

連続テレビドラマ『ウルトラQ』は、全28のエピソードが存在するが、今までのように全28話をまとめて紹介するのではなく、個別のエピソードを1本ずつピックアップし、単体の作品として掘り下げていく。これが今回の『ULTRAMAN ARCHIVES』の大きな特色といえる。

まず初めに取り上げられるのは、『ウルトラQ』の第19話「2020年の挑戦」。「誘拐怪人ケムール人」が登場するこのエピソードがまずピックアップされ、上映&トークイベント、映像ソフト化、キャラクターフィギュア化などによって、その魅力を多角的に打ち出していこうという試みがなされる予定である。今後、『ウルトラQ』では「2020年の挑戦」に続き、「ガラモンの逆襲」「カネゴンの繭」「東京氷河期」と、つごう4つのエピソードが『ULTRAMAN ARCHIVES』として展開され、その後『ウルトラマン』(1966年)『ウルトラセブン』(1967年)『帰ってきたウルトラマン』(1971年)のいくつかのエピソードへと発展していくという。

続いて、円谷プロダクション パブリックリレーション部ゼネラルマネージャー北澤淳子氏より、具体的な事業展開についての説明が行なわれた。

今回の『ULTRAMAN ARCHIVES』で取り扱う題材は、5種類にわたる。1つ目は「ULTRAMAN ARCHIVES Premium Theater」と銘打ち、厳選された傑作エピソードの上映に加え、当時の製作スタッフや、各界で活躍するクリエイターたちをゲストに迎えてのトークショー、会場限定商品の販売などで構成される、まさにプレミアムな上映イベント。第1弾として、11月17日より「ウルトラQ/2020年の挑戦」が板橋区のイオンシネマ板橋にて上映されることが決定。ゲスト登壇者には本作の監督・脚本を務めた飯島敏宏氏(千束北男のペンネームで脚本も担当)と、『ウルトラQ』や『ウルトラマン』を本放送で観ていた(当時6歳)漫画家・浦沢直樹氏が予定されている。

2つ目は、ビデオグラムの発売。『ULTRAMAN ARCHIVESビデオグラム』と題して、第1弾『ウルトラQ/2020年の挑戦』をBlu-ray&DVDにて発売する。これには作品の本編とともに、飯島敏宏監督、光線などの合成作画を手がけた飯塚定雄氏たちによる証言、そしてコラムニストの泉麻人氏をはじめとする識者のコメントなど、作品をより深く楽しめるコンテンツを収録している。さらには、モノクロ版の映像だけでなく、2011年に発売されて話題を呼んだカラライズ版『総天然色ウルトラQ』バージョンの「2020年の挑戦」をも収録されている。

3つ目は、『ULTRAMAN ARCHIVES VISUAL BOOK』シリーズ。『ウルトラQ』は当時のテレビドラマが16mmフィルムで撮影されていたのに対し、劇場映画と同じ35mmフィルムで撮影が行われており、画面精度が極めて高かった。今回のビジュアルブックでは、美麗なスチール写真を使用すると共に、35mmのオリジナルネガから新規にスキャニングしたフィルム素材も使用して、テレビフレームをも超える迫力のスケールで鮮やかに作品を再現している。

4つ目は、作品内に登場するヒーローや怪獣、メカニック、装備品などをハイクオリティのアートとしてお届けする『ULTRAMAN ARCHIVES CLASSIC ARTS』。「2020年の挑戦」に関連した商品としては、"高山良策怪獣人形・ケムール人"が完全受注生産にて発売される。高山良策氏といえば、『ウルトラQ』の製作途中から参加し、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の人気怪獣を数多く造形した、いわばウルトラ怪獣の生みの親の1人として、デザインを手がけた成田亨氏とともにファンの間で伝説的に語り継がれている人物。

1982年7月28日に惜しくも物故された高山氏だが、生前に30cm大のミニチュア怪獣人形をいくつか製作し、見学に来た怪獣ファンたちの目を楽しませていたという。このミニチュア人形をヒントにして、バンダイ(当時:バンダイポピー事業部)より「リアルホビー」シリーズという、従来の怪獣玩具の概念を変えるほどのインパクトをもたらした、リアル志向の商品シリーズが生み出されることになった。

高山氏の作ったウルトラ怪獣は、まるで本当に生きているかのような生物感と、味わい深い愛嬌が感じられる名作ぞろい。今回はそれらの中からケムール人をピックアップし、精密なレプリカモデルとして"復活"を果たす。

このケムール人フィギュアのこだわりポイントは、高山氏がキャラクターの「足の裏」のディテールにもこだわりぬいて造形を行っていることがはっきりわかる部分。よく見ると、足裏に「高山」という印が押してあることがうかがえる。

成田氏がデザインしたウルトラ怪獣の中でも常に上位にランキングされる人気キャラクターのケムール人は、飯島監督による「高速で走り、前と後ろを同時に見られるような怪人」というリクエストを受けたことで、前方に2つ、後方に1つの目が存在しており、いずれもがキョロキョロを周囲を見回している。長身で脚が長く、大股で駆けだすとパトカーでも追いつけないほど早く走ることのできるケムール人のスーツには、成田氏の強い要望によって古谷敏氏が入ることになった。このことがきっかけで、古谷氏は『ウルトラQ』の後番組『ウルトラマン』で、ヒーロー・ウルトラマン役に抜擢される。

今回発表された「ULTRAMAN ARCHIVES CLASSIC ARTS」のもうひとつのアイテムは、「2020年の挑戦」の名場面である「観覧車を持ちあげる巨大なケムール人」のスチール写真を、高い水準にまでクリアに処理。フレームのひとつひとつに裏打ちする、美術館仕様とも言われるハンドメイド手法を採用した、フレームアート「ケムール人」である。これに古谷敏氏の直筆サインが入ることにより、商品として完成する。このプレミアムな商品もまた、受注生産によって販売されることとなる。

5つ目は、「音楽」面での展開。現時点ではまだ具体的な商品計画にはなっていないそうだが、CDによる音源の販売や、作品で使用された数々の名曲をライブ演奏で再現するといった、いくつかの計画を構想しているという。

円谷プロの原点というべき『ウルトラQ』はこれまでにも映像ソフトや研究書籍、玩具などさまざまな商品展開が行なわれてきたが、あえてエピソードを「厳選」し、1本1本により濃密なアプローチを行って、作品の魅力をさらに探っていくという今回の『ULTRAMAN ARCHIVES』には大いに期待が持たれる。過去の円谷プロ作品にあまり触れたことのない若い世代に新しい発見をしてもらうという本来の主旨に加えて、作品世界をよりディープに楽しみたいという熱烈なファンをも興奮させる要素が詰まった好企画。今後、どのような発展を遂げていくのかを見守っていきたい。

(C)円谷プロ