映画『ジョゼと虎と魚たち』で注目を受け、映画『メゾ ン・ド・ヒミコ』、NHK連続テレビ小説『カーネーション』などの繊細な作品を世に出し続けている脚本家・渡辺あや。最新作である京都発のドラマ『ワンダーウォール』は、京都にある大学のちょっと変わった学生寮・近衛寮を舞台にしたドキュメンタリードラマだ。寮の老朽化を理由に取り壊しを進めたい大学と向き合う学生たちの、葛藤と青春が描かれている。

7月25日に同作が放送されると、SNS上でも様々な点から話題を呼んだ。他の多くの問題を重ねる感想、オーディションで選ばれた俳優陣への賞賛、またよく似た状況でありスタッフ陣が取材し訪れたという、「吉田寮」のこと。確実にうねりを呼び、8月にはBSでの再放送が行われ、また9月17日14時からNHK総合放送にて再放送されることも決定した。

さらには写真集『ワンダーウォール (シナリオ付)』(誠光社 税抜2,700円)の発売、写真家の澤 寛による『ワンダーウォール』 展(AL gallery 9月15日〜19日)、トークイベントの実施(9月13日 下北沢B&B)など、広がりを見せている同作。今回は、脚本を務めた渡辺に、どのような思いを込めたのか話を聞いた。

  • 渡辺あや

    渡辺あや

逆走しながら作っていったドラマ

――『ワンダーウォール』は単発のドラマでありながら、感想のブログなども話題になっていました。こういった反応については、予測されていたんですか?

なるべく色々なところで色々な人に考えて欲しいと思ってドラマを作りました。でもなかなか思うような宣伝活動ができない事情もあって、今回「近衛寮広報室」を立ち上げたんです。そんなのは初めてのことで、何もかも手探りなのですが、できる限りのことはやりたいと思っています。立ち上げることにしてみたら、いろんな方が協力を申し出てくださって、同じ気持ちの方がこんなにいらっしゃるんだということに、とても励まされています。

――このドラマ自体も、ちょっと壁を感じながらの……。

もう、私たち自身が何枚も壁を乗り越えられてなくて、はじき返されながら逆走していました(笑)。

――今、渡辺さんから、現在再放送されている『カーネーション』の糸子的な雰囲気を感じました。

どこかに、”糸子マインド”が生きているかもしれないですね(笑)。

――ドラマの制作中から、壁は感じられていたのですか?

「廃寮の危機にある学生寮の話にしたい」ということは私が提案したことなのですが、プロデューサーとディレクターからは、いろいろな事情があって、ハードルは高いというお話は聞いていました。どうしたら思うように作っていけるのか、法務部を通して逐一確認させてもらったりしながら、あらゆる試行錯誤を重ねました。その上で、京都大学の吉田寮にも取材させてもらいました。

――そういう経験は、脚本を書いている時にも生かされているんですか?

壁の存在は、今回に限らないですからね。よく「なんでたくさん仕事しないんですか?」と聞かれるんですけど、やりたいと思ったことを通そうとするには、何十枚の壁があって……。個人的には、今、表現すべきことがたくさんあると思っているのですが、なかなか仲間も協力者も見当たらない。跳ね返されて、1回死んでまた立ち上がり、ということを繰り返しているんです。今回は、志のある方々のおかげで、やっと実現することができました。

――普段の生活でも、そういった壁の存在は感じられていますか?

私は島根県で暮らしている普通の主婦なのですが、普通に暮らしていたらもしかしたら感じずにこれたかもしれません。たまたま脚本という表現に関わる仕事をしているから感じてしまっていることなんだと思います。自分が一個人として感じてる問題意識を仕事の中で具現化しようとすると、「こんなにも壁があるんだな」ということに気づかざるを得ないんですよね。なのに自分の身近な人たちは、家族を含め誰もそのことに気づいていないようなので、なおさら心配になります。

ドラマとか映画というのは、問題意識を共有できる、すごく良いツールではあると思うんです。いくらでもやるべき、やりたいと思うんですけど……やらせてもらえるのであれば。