年収1,000万円になると、所得税などの税金や社会保険料の負担が大きくなり、給与明細の総支給額と支払額の差に驚く方もいるのではないでしょうか。高収入の方にとって節税対策はとても大切です。
本記事では、年収1,000万円の方の税金事情や、知っておくべき節税対策についてご紹介します。
20人に1人が年収1,000万円以上?
国税庁「民間給与実態統計調査」(2018年)(※1)によると、年収1,000万円を超える方は約248万9,000人で、全体のわずか5% です。給与所得者の20人に1人という結果でした。
なお、この統計は給与をもらっている方のみの集計です。自営業の方や資産運用で稼いでいる方などは含まれていません。
年収1,000万円の手取り額は?
一般的な会社員で年収1,000万円の場合、税金や社会保険料を差し引いた手取り年収は、約720万円になると考えられます。
会社員の給料からは、健康保険、雇用保険、厚生年金保険といった社会保険料や所得税、住民税が控除されます。
年収1,000蔓延から控除される内訳の想定は、所得税が約84万5,800円、住民税が約63万5,500円、社会保険料の健康保険料が約57万9,200円、厚生年金保険料が約68万800円、雇用保険料が約3万円です(※2)。
賞与の額は会社にもよりますが、ここでは、年収1,000万円の方の年間賞与を、平均額である手取り約70万円で計算すると、毎月の手取りは約54万円。扶養家族がいる場合は、配偶者控除や扶養控除が適用されますので、月の手取り額はやや上がります。
給料から控除される保険料と税金は?
給料からは社会保険料や所得税といったものが控除されます。ここでは、控除される内容を詳しく見ていきましょう。
健康保険料、厚生年金保険料
健康保険料は、会社が加入している保険によって異なります。例えば、協会けんぽ(東京都)の場合、従業員が負担する保険料率は約5% 、厚生年金保険料の保険料率は約9% となり、合計約14% 分の社会保険料が課されます。
社会保険料は、従業員に支払われる給料を切りのいい幅で区分した、標準報酬月額をもとに算出します(※3)。健康保険料と厚生年金保険料の計算方法は、「標準報酬月額×保険料率」です。
なお、標準報酬月額には上限枠があり、年収1,000万円の場合は厚生年金保険料の上限を超えていますので、厚生年金保険料は一律金額の約68万800円となります。
雇用保険料
雇用保険料は、被保険者の賃金に対して、該当する雇用保険料率を乗じて計算します。従業員負担分となる雇用保険料率は0.3% ですので、年収1,000万円の場合は年間約3万円となります。
所得税
所得税は累積課税制度のため、収入が多いほど段階的に税率が高くなり、5~45% の7段階に区分されています。
例えば、課税所得のうち1,000円超194万9,000円以下の部分の税率は5% 、195万円超329万9,000円以下の部分の税率は10% 、330万円超694万9,000円以下の部分の税率は20% 、900万円超1,799万9,000円以下の部分の税率は33% です。
なお、課税所得は年収の額面ではなく、所得控除などを計算した上で求められます。
所得税額は、下記の「所得税の速算表」を使っても計算することが可能です。控除額とは、所得税を簡単に算出するために使用するもので、「課税所得×税率-控除額」で所得税額を算出できます。
<所得税の速算表>
課税される所得額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円超~194万9,000円以下 | 5% | 0円 |
195万円超~329万9,000円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円超~694万9,000円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円超~899万9,000円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円超~1,799万9,000円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円超~3,999万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
※国税庁「所得税の税率」2020年(※4)より
住民税
住民税の税率は、年収にかかわらず一律10% で課税されます。住民税は、前年の所得に対して課税されるものです。
年収1,000万円を1人で稼ぐ場合と夫婦2人で稼ぐ場合、手取りと税金額は変わる?
年収1,000万円世帯であっても、夫または妻が1人で1,000万円稼いだ場合と、夫と妻でそれぞれ500万円ずつ稼いだ場合とでは、手取り額と税金額に違いがあります。それぞれの違いを見てみましょう。
ケース1. 1,000万円を1人で稼いだ場合
夫または妻のどちらか1人の年収が1,000万円の場合(東京都在住、40歳未満、子供なしで想定)、手取り額は約729万7,500円となります。所得税と住民税の合計額は、約126万2,500円です。
ケース2. 夫と妻それぞれが500万円ずつ稼いだ場合
夫と妻が500万円ずつ稼いで、2人分を合わせた世帯年収が1,000万円の場合(東京都在住、40歳未満、子供なしで想定)、それぞれの手取り額は約390万円で、世帯での手取り額は約780万1,000円になります。2人の所得税と住民税を合わせた税金額は、約75万9,000円です。
1人で年収1,000万円を稼ぐよりも、夫婦で500万円ずつ稼ぐ世帯のほうが税金額は低くなる分、手取り額は約50万円多くなりました。
1人で年収1,000万円を稼ぐほうが税金が高くなる理由は、所得税が累進課税制度のため、段階的に税率が上がるからです。
年収1,000万円の人が知っておくべき税金対策は?
税制改正により2020年1月以降、会社勤めの方と公務員の方で、年収850万円以上で独身または23歳以下で扶養家族がいない場合における税負担が増えました。
少しでも税負担を軽くするためにも、年収1,000万円の方が知っておくべき制度や各種控除などの、節税方法をご紹介します。
税金対策1. iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で行う、自分のための年金積立制度です。掛け金、運用益、給付の受取時に所得控除があり、税金が安くなることがメリットです。ただし、原則60歳まで引き出せない、手数料がかかるといったデメリットがあります。
税金対策2. つみたてNISA
つみたてNISAは、長期の積立・分散投資を支援するための非課税制度です。毎年40万円まで投資が可能で、最長20年、投資から得た利益に税金がかからないことがメリットです。 証券会社の場合、100円以上という少額から始められます。
税金対策3. 扶養控除、配偶者控除
扶養控除は、納税者に配偶者以外の一定要件を満たした扶養親族がいる場合、所得税と住民税を軽減できる制度です。扶養控除額は38万~63万円の幅があり、扶養者の年齢や収入状況などによって控除額が異なります。
配偶者控除は、納税者本人に配偶者がいて条件を満たした場合、一定の所得控除が受けられる制度です。なお、控除を受ける納税者の合計所得が1,000万円を超える場合は対象外となります。
税金対策4. 生命保険料控除、地震保険料控除
生命保険料や地震保険料を支払っている場合は、所得から一定額の控除が受けられます。会社勤めの場合は、どちらも年末調整時に保険会社から送られてくる証明書と「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記載し、会社に提出することで手続きが行えます。個人事業主や自営業、年金生活者といった方は、各自で確定申告が必要です。
税金対策5. 住宅ローン減税制度
住宅ローン減税制度は、自宅を新築および購入する際にローンを組んだ方が、原則10年間、特別措置の場合は13年間受けられる減税措置です。ただし、条件にあてはまらない場合は、住宅ローン減税制度を利用できません。
また、自宅を購入した最初の年は、会社勤めの方も自分で確定申告が必要です。翌年以降は会社に必要書類を提出すれば年末調整で手続きができます。
税金対策6. 特定支出控除
特定支出控除は、会社勤めの方が仕事に関わる研修費用や資格取得費用、交際費といった特定支出に定められた項目と条件を満たした場合、所得から控除が受けられる制度です(※5)。
勤め先に業務に必要と認められたもののみ控除の対象となるため、申告の際には給与支払者による「特定支出に関する証明書」が必要となります(※6)。なお、各自で確定申告を行う必要があります。
税金対策7. ふるさと納税(寄附金控除)
ふるさと納税は、各地の自治体から寄附先を選んで寄附した後に、確定申告またはワンストップ特例制度の手続きを行うことで、寄附金控除が受けられる制度です。
2,000円を超える控除上限額までの部分については、住民税の控除などが受けられます。
あわせて読みたい : 「「寄付金控除」の節税効果は? 知ると得するお金の話」
税金対策8. 医療費控除
医療費控除は、1月1日から12月31日までの1年間なお、会社の年末調整では行われませんので、各自で確定申告を行う必要があります。
税金対策9. 雑損控除
雑損控除は、自然災害や火災、盗難、横領の被害に遭ったとき、所定の金額を所得控除できる制度です。各自で確定申告を行う必要があります。
災害関連での支出の場合は、申告書に支出金額を証明する書類や領収書、会社勤めの場合は給料所得の源泉徴収票の原本も必要です。
年収1,000万円を超えたら節税対策を意識しよう
年収1,000万円は、高収入で豊かな暮らしができますが、その分、税負担は大きくなります。 国の制度には、節税対策ができるものが数多くあります。うまく活用することで手取り額を増やしていくことが可能です。年収1,000万円を超えたら、積極的に節税対策を行いましょう。
参照 :
(※1)国税庁 : 「民間給与実態統計調査(平成30年分)」
(※2)酒居会計事務所 : 「年収別 手取り金額 一覧(年収100万円~年収1億円まで対応)」
(※3)全国健康保険協会 : 「標準報酬額・標準賞与額とは? 」
(※4)国税庁 : 「所得税の税率(2020年)」
(※5)国税庁 : 「給与所得者の特定支出控除」
(※6)国税庁 : 「給与所得者の特定支出に関する証明書」