ソフトバンクが駐車場シェアリングに参入すると発表した。自動運転や自転車シェアリングなどのモビリティ分野に注力している同社が、駐車場のシェアに乗り出す理由は何か。同じ分野で先行するakippa(あきっぱ)などに対するアドバンテージとは。発表会の内容を交えて報告する。

7月13日に東京で行われた発表会は、まず会場が変わっていた。銀座の新しい名所になりつつある商業施設「GINZA SIX」にあるWeWorkのシェアリングオフィスだったからだ。ニューヨークに本拠を置くWeWorkの日本法人はソフトバンクとの合弁企業だから、グループ会社の1つといえる。説明はソフトバンクのテクノロジーユニットで技術戦略統括グローバル事業戦略本部長を務める北原秀文氏が行った。

ソフトバンクの北原氏

駐車場シェアに名乗りを上げる企業は多い

サービス名は「BLUU Smart Parking」(ブルースマートパーキング、以下:BLUU)という。2018年10月下旬から正式サービス開始となるが、それに先立つ8月20日をめどにベータ版のトライアルを関東圏で開始し、駐車場を利用するドライバー向けに専用アプリケーションを提供していくという。

このサービスはIoTプラットフォームを活用し、企業や個人が所有する空き駐車場と、駐車場を利用したいドライバーをマッチングさせるもの。もちろんBLUUが日本初ではなく、2014年にいち早くサービスを展開した「akippa」(あきっぱ)をはじめ、さまざまな会社が参入している。

ちなみにakippaは、トヨタ自動車のスマートフォンアプリ「TCスマホナビ」での予約が可能になったほか、LINE、首都高速道路サービス、ニッポンレンタカー、京浜急行電鉄など、さまざまなジャンルとつながりを築いており、すでに一大勢力になっている。コインパーキングのパイオニアでタイムズ駐車場を運営するパーク24も、2016年に「B-Times」(ビィ・タイムズ)という名称でパーキングシェアリングを始めた。

そもそも、日本では自動車保有台数に対し駐車場の数が圧倒的に足りていないという

ソフトバンクと同じ携帯電話キャリアでは、NTTドコモが昨年から「Peasy」(ピージー)という名前のアプリ、車の入出庫を感知するIoT機器「スマートパーキングセンサー」、センサーとクラウドをつなぐ「ゲートウェイ」、クラウド上の「駐車場管理サーバー」からなるスマートパーキングシステムの提供を開始している。

ソフトバンクのパークシェア、特徴は?

BLUUを利用するにはアプリでユーザー登録を行う必要がある。実際の利用方法だが、まずは利用したい日時と場所を入力して検索し、地図上に空いている駐車場がアイコンで表示されたら希望の駐車場を画面上でタップして選択、予約内容を確認、確定する。支払いはアプリに登録したクレジットカードやTポイントで精算する。

駐車場を貸し出す側は、専用カメラあるいは磁気センサーを設置すれば、ソフトバンクのクラウドに自動的につながる。カメラは法人向け、センサーは個人向けと考えていて、まずは法人向けから設置を進めていくという。

カメラセンサー

ただ、こうしたインターフェイスの部分も既存のパーキングシェアと似ている。では、BLUUの独自性はどこにあるか。北原氏が最初に挙げたのは、同じソフトバンクグループのアプリである「Yahoo!カーナビ」との連携だ。今年中にはYahoo!カーナビからBLUUの予約ができるようになるという。

磁気センサーは開発中とのこと

サイクルシェアとの連携も

もう1つはサイクルシェアリング「ハローサイクリング」との連携だ。こちらもまた、ソフトバンクグループの一員であるOpenStreetが1年半前から運営しているサービスである。ハローサイクリングはアプリの名称で、東京都府中市の「のりすけ」、関西圏の「CLOVER」など、全国9つのサイクルシェアリングが利用可能となっている。

こちらも具体的な作業は現在進行中とのことだが、BLUUとハローサイクリングでは、双方のアプリで相手のサービスも予約可能となる。自転車置き場が駐車場に併設してあったりすると、利便性は一気に高まるだろう。同じ町内の複数の取引先を仕事で回るような場合などに便利そうだ。

NTTドコモも東京区部や仙台市、広島市など18カ所でサイクルシェアリングを展開しているが、こちらは今のところ、Peasyと連携するとの発表はない。ソフトバンクが一歩進んだ形になる。

サイクルシェアとの組み合わせでラストワンマイルを埋める

データカンパニーとしての優位点

そしてもう1つ、BLUUがアドバンテージとして挙げたのは、ソフトバンクがデータカンパニーであるという点だ。日本の三大携帯電話キャリアの1つであり、Yahoo!カーナビをはじめ開発したアプリも数多く持つソフトバンク。スマートフォンなどの端末を介して得た移動データは膨大だ。

ソフトバンクでは都市部を500mメッシュで区切り、グループのデータを解析して落とし込んでいるという。この場所に駐車場を用意すればこのぐらい使われる、という予想が立てやすくなるそうだ。

BLUUはこの膨大なデータに基づいたサービス展開をしていくとのことで、駐車場の数を競うのではなく、利用率でナンバー1になることを目指すと北原氏は語っていた。

データ解析で駐車場の需要を読む

ところで、今回の発表会で興味深かったのは、「パーキングシェアリングについて」と銘打った会ではなく、「シェアリングビジネスに関する記者発表会」というお題目だったということだ。

確かにBLUUのみならず、ハローサイクリング、WeWorkの全てがシェアリングビジネスである。さらに、北原氏による説明後には、OpenStreet代表取締役の横井晃氏とシステム開発部長の朱凱端氏、WeWorkの日本ゼネラルマネージャー髙橋正巳氏を交えて、シェアリングエコノミーの普及によるライフスタイルの変化というテーマでトークセッションも行っていた。ちなみに髙橋氏は昨年までUber Japanの社長を務めていたが、同氏の退任後、ソフトバンクグループは米国Uberに出資し、現在では筆頭株主になっている。

左からOpenStreetの横井氏、ソフトバンクの北原氏、WeWorkの髙橋氏

たった数年で自転車、自動車、駐車場、そして事務所と多くの分野のシェアリングビジネスに進出したソフトバンク。いよいよ日本でも、所有から使用への転換が始まるのかもしれないと実感した。

(森口将之)