狭い場所で躍動感と成長を出すために

――その第2話で、一番見返した場面がありまして(笑)。それが前半部分で暖とファリア真海(田中泯)が出会うシーンなんですけど、異国の獄中で出会って、意気投合して、いろんなことを教わって、ファリアが亡くなって、脱獄する…という約15分という短いシーンの中に、たくさんの情報が詰まっていましたよね。セリフの少ないシーンでも、映像の中にたくさんの情報を入れていくのが西谷監督の真骨頂だと思っているんですが、ああいった情報量の多いシーンはどのように作られているんでしょうか。

脚本を作るときから、自分なりにそこは書いて提示しています。あのシーンだけで延々とやることもできるけど、あんな狭い場所で小汚い男たちが2人だけでいるのはどうなのかなというのがあって(笑)。でも、あのシーンが一番編集とか時間がかかった部分ですね。引いたり足したりして苦労しました。

  • 005のalt要素

    獄中でのファリア真海(田中泯/左)と柴門暖(ディーン) (C)フジテレビ

――あの短いシーンの中に、暖が星を見たくて塀の上にある窓まで少しずつ登れるようになる…という描写もあり、視覚的にも主人公が成長していく姿が丁寧に描かれていました。

そうですね。感情の起伏とか、思いとか、狭い場所の中なので、そこで躍動感とか成長の部分を伝えるにはどうすればいいかと思って、それであの描写を入れたんですね。だから星が見たいというのもあるし、そこに目指すものがあるというのもあるなと。分かりやすく言うと、ロッキーがチャンピオンになるみたいな。1つの到達点というか、そういうところが、あのシーンでできないかなと考えていた時に、ちょうどニュースでボルダリングがオリンピックの競技になるとか、そういうニュースがあってヒントになりました。

ディーンの特性を生かした演出

――ファーストシーンの話に戻ってしまいますが、このドラマは群像劇で、話も複雑な部分があるのに、前半に前回までのあらすじやダイジェストを一切入れないところがすごく潔いと思いました。

一応台本には毎回、“前回のダイジェスト”って書いてあるんですよ(笑)。でも、もしダイジェストを入れて視聴率が上がるみたいなことがあるとしたら、それは簡単なことだなと思っていて、例えば自分が見る側だったら、前回のあらすじみたいなのがあったら、知っているしザッピングが始まってしまうなって思うので、それよりも新しい情報を見せたいなと。ダイジェストをやるにしても、新しい新作の映像、画をまず入れてから、その中にあらすじを途中で見せていくスタイルをとりますね。

――先ほどの第2話のシーンで、ディーンさんは多言語を話したり、第3話では魚をさばくシーンもあったりと、その特性を生かした演出が多くあるような気がします。

ディーンさんは語学が堪能な人ですから、それを使うというのもそうですが、彼はやっぱり何でもできますね。料理もうまかったですし、運動神経もいいですし、海の中でナイフを加えて脱出するシーン(第2話)なんかもよくやってくれました。

  • 006のalt要素

    山口紗弥加=6月7日放送の第8話より (C)フジテレビ

――今回は稲森いずみさんや山口紗弥加さんなど、女性のキャラクターもすごく魅力的です。演出でこんな女性を演じてくださいという指定はあったんですか?

もちろん、「こういう女性で」というモチーフは提供します。例えば、山口紗弥加さんには世間を賑わせた実在の人物の名前を挙げて、そのような人ということを言いました。女性の演出に関しては、自分は異性なのでいい意味でデリケートになります。だから女性を演出していく際、セリフや動きについてはすごくよく考えますね。どれだけ考えられているか分からないけど、何通りも考えます。だけど同性の場合は、「いいから1回動いてみて!」みたいな、わりと強引な演出しちゃうことがあるかもしれませんね(笑)。女性の演出は、その感情にあった動きなのか、すごくよく考えます。だけど、それがもしズレていたらズレていたで面白い演出になるとは思うんですけどね。

  • 007のalt要素

    『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)
    6月7日に放送される第8話は、神楽(新井浩文)が幸男(大倉忠義)の自殺、寺角類(渋川清彦)の殺害は真海(ディーン・フジオカ)の仕業だと話す。さらに、神楽は真海が自分と入間(高橋克典)もターゲットにしていると告げる。入間と神楽の脳裏には共通の人物が浮かび、入間は真海と話すために、15年前に柴門暖を陥れた取調室に呼び出す。
    (C)フジテレビ

復讐が生んだものは一体何なんだ

――細かい話ばかりに終始してしまいましたが(笑)、これから最終回に向かう終盤の『モンテ・クリスト伯』の見どころを教えてください。

前半は小さな港町から始まった青春群像だったんですけど、中盤の見どころはやっぱりこの時代になって新たに登場した女性たちの生きざま、女性はなんて怖いんだ、強いんだという部分ですね。そして後半に向けては、真海が復讐というものに行き着いたところに何があるのか、何が見えるのか、もしかしたら復讐に行き着かないかもしれないし、復讐が生んだものは一体何なんだという部分です。

あと楽しみとしては、唯一と言っていい若いカップルで、復讐劇というこのドロドロのドラマの中で清涼剤でもある信一郎(高杉真宙)と未蘭(岸井ゆきの)の、“ロミオとジュリエット”のような関係も進展して、復讐の中にあいまみれていくところも見どころです。

――それは正直やめてほしいです(笑)

そうですね(笑)、そう見てもらうのが一番いいですね。そこダメ!入っちゃダメ!って見てもらいたいですね。それが後半の見どころになると思います。

●西谷 弘
1962年生まれ、東京都出身。これまでに手がけた主な作品は、ドラマは『美女か野獣』『白い巨塔』『エンジン』『ガリレオ』『任侠ヘルパー』『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』など。映画は『容疑者Xの献身』『アマルフィ 女神の報酬』『真夏の方程式』『昼顔』など。
●「テレビウォッチャー」満足度調査概要
・対象局:地上波(NHK総合、NHK Eテレ、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ)
・サンプル数:関東1都6県、男性1,200+女性1,200=計2,400 ※回収数は毎日変動
・サンプル年齢構成:「20~34歳」「35~49歳」「50~79歳」各年代男女各400サンプル
・調査方法:毎日モニターにテレビ視聴に関するアンケートを同じアンケートモニターへ配信、データを回収するウェブ調査
・採点方法:最高点を「5」とし、「3.7」以上を高満足度に基準