返還地の調査を経てからでも遅くはない

――「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は今後どうなるのでしょうか。

今回の勧告を受け、日本政府はそのまま世界遺産委員会を迎え、逆転での「登録」決議を目指すのか、推薦書を取り下げじっくりと推薦書の改定に取り組むのか決断をしなければなりません。このまま「登録」決議を目指すことも可能ですが、ここで「登録延期」決議が出たら、今推薦書を取り下げるのと同じく再来年以降の審議に回らざるを得なくなるので、できるだけ準備期間を長く取ることができる推薦書の取り下げを選ぶのではないかと、僕は思っています。

そもそも「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は、2003年に「奄美・琉球」として『知床』『小笠原諸島』と共に、日本の自然遺産候補に選ばれました。2005年に『知床』が、2011年に『小笠原諸島』が世界遺産登録されたのに対し、「奄美・琉球」では候補地の絞込みや国立公園などへの指定も進まず、長い間、足踏みをしたままでした。

  • 一足先に世界遺産登録された『小笠原諸島』

    一足先に世界遺産登録された『小笠原諸島』

――「奄美・琉球」は元々、『知床』『小笠原諸島』と同じタイミングで動いていたんですね。

世界遺産への動きが一気に進んだのが、第二次安倍内閣が誕生した翌月の2013年1月のことです。世界遺産地域連絡会議において、日本の世界遺産候補として暫定リストへの追加が決まり、申請書がユネスコの世界遺産センターに提出されました。しかし、普通は申請書が提出されると暫定リストに記載されるのですが、暫定リストへの記載が長い間、保留とされてしまいます。理由はいろいろと聞かれますが、確実な理由は分かりません。2016年2月に暫定リストへの申請書を再提出してようやく、掲載されました。

ここから、とんとん拍子で進んでいきます。2016年4月に西表島が、9月に沖縄島北部が国立公園に指定され、推薦書の提出期限である2017年2月1日の約2週間前に世界遺産として「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」と共に推薦されることが決定しました。奄美大島と徳之島が国立公園として指定されたのは、推薦書の提出後です。これって、なんだか大慌てな感じがしませんか?

普通は、推薦書の提出期限の約半年に開かれる世界遺産条約関係省庁連絡会議で推薦が決まり、仮の推薦書をユネスコの世界遺産センターに提出します。その後、年明けの正式な推薦書の提出直前に閣議了解を経て、正式な推薦書を提出します。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」も、もちろんこの手順に従って推薦書が提出されました。自然遺産は好きなスケジュールで良いというわけではありません。この辺りで強引さを感じているのは僕だけじゃないと思います。

  • 奄美大島には、国内で2番目に大きいマングローブの原生林がある

    奄美大島には、国内で2番目に大きいマングローブの原生林がある

今回の勧告では、こうした大慌ての準備による問題点を指摘されたような気がします。米軍北部訓練場の返還地を推薦エリアに含むべきという指摘に、すぐに対応するのは難しい。返還地の調査もまだ充分とは言えない状況のようですし、いまだ返還されていない地域も残されています。

また、そもそも推薦エリアの全体的な見直しが求められていますので、じっくりと時間をかけて推薦書を作り直すというのが良いと僕は考えています。この地域には世界遺産に登録して守っていくだけの価値があると思っているので、慌てて登録を目指すことで、地域のイメージも含めて損なわれることがないようにしたいですね。

筆者プロフィール: 宮澤光

世界遺産検定を主催する世界遺産アカデミーの主任研究員。イタリアの小説や映画、音楽、サッカーに惹かれながらも留学はなぜかフランスへ。ヨーロッパから世界各地の文化へと思いを馳せる毎日。世界遺産を「学ぶ」楽しさを伝えようと、世界遺産アカデミーHPにて「研究員ブログ」を連載中。

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