2016~2017年にテレビ朝日系で放送された特撮テレビドラマ『仮面ライダーエグゼイド』のスピンオフVシネマ『仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング』のBlu-ray&DVDソフト発売を記念して3月23日、渋谷TOEIにてトークショー付き上映会が開催された。ステージには『仮面ライダーエグゼイド』でプロデューサーを務めた大森敬仁氏、脚本を手がけた高橋悠也氏、そして『トリロジー』の監督を務めた鈴村展弘氏が登壇し、つめかけた熱心なファンの興奮を呼ぶ熱いトークを繰り広げた。
『仮面ライダーエグゼイド トリロジー アナザー・エンディング』とは、『仮面ライダーエグゼイド』のラスト・エピソードである劇場版『トゥルー・エンディング』から2年後の世界を舞台にした連作物語である。part1『仮面ライダーブレイブ&スナイプ』、part2『仮面ライダーパラドクスwithポッピー』、part3『仮面ライダーゲンムVSレーザー』という3つのエピソードはそれぞれが独立しつつ、連続したストーリーにもなっている。Partから順に各作品2週間ずつの期間限定上映が行なわれ、いずれもミニシアターランキング1位を獲得するという、好成績を収めたことでも話題になった。Blu-ray&DVDはpart1が3月28日より発売中、part2が4月11日より発売中。そしてpart3はいよいよ4月25日に発売される。
まず、Vシネマ『エグゼイド トリロジー』part1から3までを一挙上映した後、3氏によるトークイベントが始まった。各1時間ずつ、合計3時間にわたる『トリロジー』はドラマ、アクションともに見応え十分で、上映終了後には、感動でしばし放心状態となるファンの姿も見られた。
大森氏は『トリロジー』製作にあたって「『エグゼイド』のテレビシリーズは、例年の仮面ライダーシリーズに比べておよそ1か月分短く終わった作品。おかげさまでファンのみなさんの支持を得て、人気の高いシリーズだった上に、エグゼイド以外にたくさん仮面ライダーが出てくることもあって、これなら3部作でもいけるのではないかと思い、テレビシリーズが終わることから準備を進めていました」という経緯を語った。
テレビシリーズ全話、および劇場版『トゥルー・エンディング』のシナリオを書ききった高橋氏は「もともと9月いっぱいまであるかもしれないと聞いて、臨んでいたシリーズでした。少し短く終わった分が、まるまるVシネマで書けることになったのは、ありがたかったし、楽しかった」と、多忙なスケジュールでありながらもとことん『エグゼイド』の世界を作り上げられることに喜びを感じていた心境を明かした。
3部作すべての監督を務めた鈴村氏は、「最初はブレイブ&スナイプだけだと思って取り組んでいましたが、ほぼ同時にパラドクスwithポッピーの打ち合わせにも出ていて、これ、僕が打ち合わせやっているけれどいいのかなって(笑)、なし崩し的にこれもやることになったような感じです。そのまま、ゲンムVSレーザーも監督することになりました。『エグゼイド』ではBlu-rayコレクションの特典映像『スナイプZERO』や、小学館『てれびくん』の全員プレゼントDVD『裏技/仮面ライダーパラドクス』の監督もやっていますが、『パラドクス』のラストが、今回のVシネマのプロローグ的な内容になっているんです」と、『エグゼイド』スピンオフの監督を務めた経緯を話した。
『エグゼイド』はおよそ1年間にわたって放送されたテレビシリーズを軸としながら、いくつものスピンオフ作品が作られており、そのいずれのストーリーもテレビシリーズ本編と破たんがない上に、いくつかの要素が綿密につながっていて、テレビシリーズで巧みに張られた「伏線」が、スピンオフで見事に「回収」される場合がある。これらのストーリーテリングや、キャラクターの動かし方の巧妙さが、多くのキャラクター同士がうごめき、ぶつかりあう『エグゼイド』という作品の大きな魅力につながっている。
この伏線回収は、『ブレイブ&スナイプ』でもいくつか行われているが、脚本を手がけた高橋氏によると「けっこう、その時その時で考えていました。飛彩と小姫との再会は、テレビ本編の中でやりたかったけれど、ストーリーの都合でできなかったのもあって、ぜひやっておきたかった」と、最初からアイデアを固めて執筆したのではなく、ある程度ストーリーを書き進めながら、同時進行的に考えていたことだったという。
たとえば、『エグゼイド』Blu-rayコレクションの映像特典として製作されたスピンオフドラマ『仮面ライダースナイプ Episode ZERO』において"スナイプがゲンムを倒す"という映像が挿入されているが、この場面が今回の『ブレイブ&スナイプ』でも観られ、時間軸がそこでつながるよう考えられている。
鈴村氏は「『スナイプZERO』のときは、どの時間軸の、どのゲンムなんだ?と、僕もずっと思っていたんです。あれを撮ったときは、まだVシネマの打ち合わせをまったくやっておらず、そもそも本編がこれからどうなっていくのか、わからない初期に撮ったものでしたから。なので、幻覚とも実体とも、どちらにも受け止められる含みを持たせていたわけなんですけれど、Vシネマのとき、その対決シーンが実体として物語に組み込めるということで、あのときのこれが伏線だった、という形になりました。もうこれは、悠也さんスゲー!というしかないですね」と、高橋氏の卓越したアイデアと構成力の高さを称えた。
『ブレイブ&スナイプ』では、テレビでは悲しい別れとなったブレイブ/鏡飛彩と恋人・百瀬小姫との"再会"がドラマの重要なポイントになっている。鈴村氏は2人を演出するにあたり「飛彩と小姫の物語はテレビでは決着がついていないので、そこをしっかり描いておきたかった」と話している。小姫は"ゲーム病"によって消滅し、データとなって甦った経緯がある。今回の2人の再会も常に悲劇的な空気が漂っているが、鈴村氏はこれについて「2人が芝居をすると必然的に泣けるというか、泣けるように演出しています。小姫役の中川可菜さんは、テレビでは不完全なデータとして同じ言葉を繰り返すだけだったけれど、Vシネマでは回想シーンもふくめてたくさんセリフがありました。だから『長いセリフのあるときは、いつも鈴村監督なんですよね』って言われました(笑)。データだから本当は変わってはいけないはずなんだけど、中川さんが撮影中にどんどん綺麗になって、おいおいデータなのに成長してるんじゃないか、みたいに思えたこともありました」と、撮影の裏話を明かしてくれた。
同じく『ブレイブ&スナイプ』では、スナイプ/花家大我と助手の西馬ニコとの関係にも、大きな動きが見られた。これについて鈴村氏は「ニコ役の(黒崎)レイナちゃんが、シナリオにあるセリフの語尾を変えたいと申し出たことがありました。本編から2年たっているので、ニコを少し大人っぽくしたいという要求でした。小姫と飛彩の関係が物悲しいものである対比として、ニコと大我ではいかにも彼ららしいというか、カラリとした雰囲気を意識して演出していました」と、役者の意志を尊重しつつ、キャラクターを生き生きと動かす演出法を語った。
3部作の中間に位置する『パラドクスwithポッピー』は、共にバグスターであるパラドとポッピーピポパポ/仮野明日那にスポットを当てた作品となった。高橋氏はこの作品について「3部作の中でいちばん苦戦したというか、いろいろ考えながら作っていった作品です。Vシネマ3部作全体のテーマに"ゲーム病で消滅した人々はよみがえることができるか"というものがありますが、どうやったらよみがえるのか、なんとか説得力のある理屈を考えているうちに、バグスターがなぜ宿主の記憶を持っているのか、という部分に行き当たりました。人間から生まれたバグスターであるパラドとポッピーのキャラを掛け合わせたとき、壇黎斗が復元するストーリーが作れるぞと思い、ホン(脚本)作りがブレイクスルーした感じです」と、シナリオ作りに苦心したエピソードを語った。
3部作のトリを飾る『ゲンムVSレーザー』では、すべての元凶たる仮面ライダーゲンム/檀黎斗に、仮面ライダーレーザーターボ/九条貴利矢が挑むというストーリー。テレビシリーズの途中から「ゲームマスター」を名乗り、ついには「神」とも自称するようになった黎斗だけに、Vシネマでも常人離れしたハイテンションなパフォーマンスは健在だった。MC(オジンオズボーン篠宮暁)から「いちばん印象に残ったのは、いまトークをしている渋谷TOEIの屋上に黎斗が立つシーン」だと話題を振られた鈴村氏は、「あのシーン、本当は別のビルの予定だったんです。この3作を撮っているときはいずれも天気が悪く、雨や風が強かったのですが、そうなると安全上の関係でビルの撮影許可がなかなか下りないんですよね。そんな中で、渋谷TOEIさんが幸いにも貸してくださったので、ここで撮影したんです。でも雨で足下が濡れている中、岩永(徹也)くんを端のほうに立たせたもんだから、高所恐怖症の彼が『立てません!』と音を上げたりしてね。でも立ってもらいましたけれど(笑)」と、撮影秘話を明かした。
黎斗役の岩永徹也による体当たりの演技としては、『パラドクスwithポッピー』で全裸になったシーンがファンを驚かせたが、なぜ全裸だったのかについて鈴村氏は「あれは悠也さんのホンに書いてあったから」と、シナリオ段階で黎斗の裸が指定されていたことを語った。これについて高橋氏は「第22話で上半身裸になるシーンがあったでしょう。だから、黎斗は気合いを入れると裸になる人なんだなと思って、ホンに『裸体』と書いておいたんです。また上半身脱いでくれたら、楽しく動いてくれるだろうな……と思っていたら、気が付いたら下も脱いでいた(笑)」と、最初は全裸ではなく、上半身裸のつもりでいたことを明かした。
また、大森氏が「僕もラッシュ(編集前の映像)で観て、あのシーンはすごく驚きました。なんで全裸なんだ? って。ホンを読むと裸体と書いてあったので、ああ、監督がやったんじゃないんだって(笑)」と、当該シーンの感想を話した。
鈴村氏が「裸体と書いてあると、イコール全裸だと思った」と説明すると、高橋氏は「ホンを読んだ人の心があぶり出たということですかね」と絶妙(?)なフォロー。これに続いて鈴村氏が「ちなみに岩永くんはノリノリで全裸になっていました」と被せて、会場内を爆笑に包んだ。
『アナザー・エンディング』三部作は、Vシネマ発売に先がけて1作ずつ劇場公開されたが、そのいずれもがミニシアターランキング1位を獲得するという、好成績を上げた。これを祝して、「エグゼイドトリロジー製作委員会」より特製の「金メダル」が3氏に贈られた。
濃密な内容となったトークイベントの最後、大森氏は「『エグゼイド』の物語はこれで一旦終わると思いますが、また何かの機会にみなさんにお会いできればいいなと思います 今後も『エグゼイド』を応援してください」とファンにメッセージを送った。
続いて高橋氏が「あっというまの30分で、もっとしゃべろうと思って用意したことがあったのですが……。何なら、あと10時間くらいやってもいいんじゃないかと(笑)。こうしてまたファンのみなさんの前に立てたのはうれしかったです。『エグゼイド』という作品に関われて光栄でした。楽しいひとときをありがとうございました」と、感慨深くあいさつを行った。
そして鈴村氏は「このVシネマ三部作は、僕の代表作と言ってもいい作品。おかげさまで、みなさんに好評いただき、金メダルまでいただいてありがたいです。テレビではいろいろな制限があってできなかったこと、例えば、台本上のセリフや、演出の表現方法など、日曜の朝ならマズイけれどVシネマだったら大丈夫、というところがあって、内容的にも満足のいく作品になったな、と自負しています」と、Vシネマのクオリティに自信のほどをのぞかせた。
イベントの最後には、『エグゼイド』ファン騒然のサプライズが起こった。2018年6月下旬に、講談社キャラクター文庫より『小説 仮面ライダーエグゼイド マイティノベルX』が刊行されるというニュースが発表されたのである。高橋氏が執筆するこの小説は、Vシネマ三部作の、さらにその後を描く物語となる。大森氏からは「面白いですよ。高橋さんによる、すごい伏線回収がありますから!」と、なんとも期待を持たせるコメントも飛び出ている。Vシネマと小説でさらなる広がりを見せる『エグゼイド』の世界に、今後も目が離せない。