ジュリー・アンドリュース主演で1964年、世界的大ヒットを記録したディズニー映画として知られる『メリー・ポピンズ』。2004年には、パメラ・トラバースの原作小説をもとに、ディズニーと『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』などのサー・キャメロン・マッキントッシュがプロデュースし、ディズニー映画版の楽曲も使用、マシュー・ボーンが振付けを担当しミュージカル化された。このミュージカル『メリー・ポピンズ』が2018年3月に、日本初演を迎える。

このビッグタイトルを日本に持ってくるには、まず海外のカンパニーから信頼されなければならない。多くの作品を手掛ける芸能事務所・ホリプロの堀義貴社長に、今回の経緯やホリプロがビジネスで大切にしていることについて話を聞いた。

  • ■堀義貴
    1966年6月20日、ホリプロ創業者・堀威夫の二男として生まれる。ホリプロ代表取締役会長兼社長。1989年にニッポン放送入社後、編成制作部に配属される。1993年にホリプロに入社し、2002年より代表取締役社長に就任。 撮影:泉山美代子

プロデューサーから白羽の矢

――『メリー・ポピンズ』を日本で上演するきっかけはあったのでしょうか?

2004年にロンドンのプリンス・エドワード劇場に観に行きました。昨年は『ビリー・エリオット』を上演しましたが、実は観劇したのは『メリー・ポピンズ』が先でした。マシュー・ボーンと会食もしたのですが、セットは大掛かりですし、日本ではの上演は難しいと考えていました。

しばらく経ったら、10年以上付き合いのある、マシュー・ボーンの作品を手掛けている英国のプロデューサーから「『メリー・ポピンズ』に興味があるか?」と聞かれました。

――向こうから白羽の矢が立ったんですね。

海外公演用にダウンサイジングするとはいえ、通常の1カ月公演ではとても採算のとれるものではないので、2ヶ月借りられることができるかどうかあちこちの劇場に当たりました。どこの劇場も改装をしなければいけないという困難があったのですが、シアターオーブさんから良いお返事がありまして、これならできるかもしれない……というところから、実現まで6〜7年経ちました(笑)。

それでも今から3〜4年前にオーディションが始まったのに、全然決まらないんですよ。やはりプロデューサーのキャメロン・マッキントッシュが最終的に決めるので、次々オーディションをやってもなかなかおめがねに叶う人がいない。それで、こんなに時間が経っちゃいました。

日本は担当者がコロコロ変わる

――そうやって環境を整えていったのは、やはり「これを日本でやったら面白いぞ」と思われたからですか?

僕らは子供の時に観ている作品で、楽曲も物語も素晴らしいし、観た人が必ずディズニーマジックにかけられるんです。さらにディズニー作品も、キャメロン・マッキントッシュも、一緒に仕事することはないだろうなと思っていたら、まとめて叶うことになった。これはマシュー・ボーンのプロデューサーと十数年やってきたからこそ、チャンスが巡ってきたのだと思います。

海外とのやりとりとは、単発単発でやってもあまり意味がないんです。長い期間と、互いに顔見知りという関係があるからこそ、チャンスがあります。

――単発ではいけないのはなぜですか?

海外だと、会社が変わったとしてもプレイヤーは同じことが多いんです。ずっと同じ人がやらないと、シンジケーションはできないですよね。互いのことがよくわかっていて、ビジネスで成功したり、損したりということを知っているので、信頼関係ができるのだと思います。

日本ではテレビ局でも、何年か経つと担当者が全員変わってしまって、また一から関係を始めることが多いので、すごく難しいと思いますよ。自由なイメージのあるアメリカですが、実際はよそ者に厳しいので、担当者が変わってしまってはなかなか良い話は来ません。日本の演劇を下に見ている人もいっぱいいるし、実際に観て初めて質の高さにびっくりされることは多いですね。でも向こうもどこにビジネスの話をするべきか、という情報は知っているから「ちゃんとやってる」ということを認めてもらってから、やっと話が来るようになるんです。

ホリプロが大切にしていること

――堀社長は「『メリー・ポピンズ』は大人が見て子供の気持ちを思い出せる」と魅力と語っていましたが、ホリプロさんの社員の方にも子供の気持ちを持っていて欲しいと思われているんですか?

採用のページにも書いてありますが、うちは「ちゃんと笑えてちゃんと泣ける人」しか採用しません。中途半端な人は、お客さんに伝え方を忘れてしまいます。子供だましを、バカにしてはいけないし、「くだらない」と言い始めると、本当にくだらなくなってしまいます。

子供が楽しいと思うものって、実際に楽しいんですよ。大人より子供の方が全然残酷だし、下ネタ大好き。でもその分、理屈じゃなく感じているところが大きいのだと思います。それがないと、この仕事はできないと思うんです。僕らは「すごいんですよ」というのを伝えないといけないから。「ほどほどに良いですよ」と言われても、観る気はしないですよね(笑)。こちらが100%喜んでいる方が伝わりますから。

――ホリプロさんが手がけられる作品にも他にない、すごいものをという気持ちは強いのでしょうか?

ビジネス上ではもちろん堅実な路線をとることもありますが、やっぱりどこかで「見たことのないもの」「あえて世の中の逆を行く」ということは考えますね。『デスノート THE MUSICAL』も『パレード』も台本を読んでいて、もう死にたくなってくるような作品です。でも、このくらいやらないと、お客様には伝わらないだろう、という気持ちはあります。幸いにしてホリプロミュージカルは「もっと夢のあることをやってくれ」と言われることは少ないので、これからもジャンルにとらわれずに作品を生み出していけたらと思っています。

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