Netflixオリジナル作品として、新作アニメ『B: The Beginning』の全世界独占配信がスタートした。『B: The Beginning』は群島国家「クレモナ」を舞台に、王立警察特殊犯罪捜査課(通称「RIS」)の伝説の捜査官キース・フリックが、犯行現場に必ず「B」の文字を刻み込む連続殺人犯「Killer B」を追う様を、海外ドラマさながらの壮大なスケールで描くオリジナル作品。美しい作画と迫力のアクションシーンも話題を呼んでいる。本作で監督を務めた中澤一登氏に、本作の見どころを訊いた。

■プロフィール
中澤一登(なかざわ かずと)
1968年生まれ、新潟県出身。アニメーション監督、アニメーター、イラストレーター、キャラクターデザイナー。アニメ『サムライチャンプルー』『残響のテロル』、映画『デジモンアドベンチャー02』(2000年)『HELLS ANGELS』(2008年)などで作画監督を担当。映画『キル・ビル』(2003年)ではアニメパートの監督を務めた。

『B: The Beginning』あらすじ

王立警察特殊犯罪捜査課へと戻って来た天才捜査官キース・フリックは、ある事件の犯人を追っていた。凶悪犯罪者ばかりを狙う連続殺人鬼、通称『Killer B』。犯行現場に必ず刻み込まれた『B』の文字は人々の注目を集め憶測を呼んだ。『B』それは彼女のためのメッセージ。『ぼくはここにいる……』その身を異形に変え、黒羽(コクウ)は届かぬ思いを刻み続ける。キースと黒羽、互いに見知らぬ二人の運命は、やがて一つの陰謀へと飲み込まれていく――。

劇中におじさんキャラが多い理由

―― 一般的なアニメ作品ですと、美形のキャラクターが主人公であるケースが多い印象があるのですが、本作の主人公はちょっと野暮ったい感じのおじさんであるキースです。この設定にはどんな狙いがあるのでしょうか?

  • キース・風間・フリック設定画

"狙っていた"というよりも、最終的に主人公になっちゃったという感じですね。最初は2、3人くらいのキャラクターがそれぞれ中心になるイベントを持ち回りでやろうと思っていたのですが、とにかく黒羽がしゃべらないので。

もう一つは、物語の中にある「不条理」の面ですね。例えば、兄弟ゲンカをすると、本当は次男が悪いはずなのになぜかいつも長男が怒られる……とか、社会に出てからも「不条理」なことってたくさんあるじゃないですか。こういう「不条理」に対して、若い時は立ち向かえるんだろうけど、ある程度経験を積んでくると、それを踏まえた上でものごとを考えるようになる。

『B: The Beginning』が描いているのは、わりかしピュアなものがない世界の物語ですから、結果的に(年齢がいった)キースが立ってきてしまったというところですね。ですから、キースが主人公になったのは、最初から決めていたというより"後天的なもの"になります。

――登場するキャラクターを見回してみると、普通の作品であれば1人いるかな……くらいのポジションのおじさんが多い印象がありました。

本当に飾らない言葉で言ってしまうと、描きやすい!(笑)ですね。なんでもそうなんですけど、絵を描く時はカドを基準にして描いていくんです。美形のキャラクターは、その基準になるパーツがすごく少ないケースが多くなるので、描くのが苦手だし。やっぱり僕が絵描きなので、どうしてもそういう発想になるんですね。

――それにしても、いろんなバリエーションのおじさんが出てきますよね。

1人もシルエットの同じやつがいないというね(笑)。

雑談が作る人間関係を描く

――もう一つの特徴として、「王立警察特殊犯罪捜査課」や「マーケットメイカー」であったりと、一つのグループで描かれるキャラクターの数が多いような……。

そうですね。気付かれる方は気付くと思うんですけど、ほかのアニメに比べてこの作品はかなり「雑談」が多いんですよ。無駄なしゃべりや意味のない言葉は、尺が限定されているものだとなるべく削除していくというのがセオリーだったりするんです。でも「雑談」っておもしろくないですか? 僕は、「雑談」の中でこそ人間関係ができていくような気がしているんです。そう考えていくと、おじさんの「雑談」っておもしろいなって。

僕はこれまでにも「雑談」ばかりのアニメをすごく作っているんですけど、アフレコ現場で、ライブ感のあるやりとりがおもしろい役者さんを……と考えると、年齢がいっている方が多いんですよ。信頼関係の中で成り立っている罵詈雑言とかって、大人の世界じゃないと成立しないじゃないですか。ただの悪口ではない、コミュニケーションツールとしての「雑談」。それが行われている状況を作る時に、おじさんっていじりやすいんですよ。

――企画の最初のアイデアから、今の形になるのにはかなり変化があったとお伺いしました。

脚本の石田(勝也)くんと10年くらい前から、「こんな話を作りたいね」と考えていたものがあったんです。それは中世のファンタジーで、"狂気が当たり前のようにある世界で日常が進んでいく"という話だったんですけれど、「現代劇の方がいい」という要望があったので、そのアイデアを現代劇に置き換えてみたら、なんか違うものになったんですよ(笑)。

――登場するキャラクターにも変更はあったんですか?

黒羽とキースはいました。パイロット版の時には、とにかく絵面を派手にするために羽をつけたりとかしてたんですけど、本編ではどうかなという話もあったんです。これも絵描きとしての発想なんですけど、「地面があると面倒くさい」っていう(笑)。重力というものが発生した状態でのアクションと、ない状態でのアクションだと、ないもののほうが比較的自由が利くので。

黒羽については、名前がぽっと浮かんでいました。一人ぼっちの「孤独」と、「虚空」という感覚。そして黒い羽と書いた字が頭にイメージとしてあったので、それらをかけ合わせてみようというところからできたキャラクターですね。