――田中さんは、新著『愛を乞う皿』(2月22日発売)を出版されますが、こちらはどんな内容ですか?
陶芸家で美食家の北大路魯山人の知られざる顔を、小説の形で紹介しています。魯山人は資料などを読んでいると、生前すごく敵が多くて嫌われていたので、彼に対する悪口がいっぱい残ってるんですよ。アメリカの映画だと、ある人物をすごく悪いところも描いて、その魅力を見せるということがありますが、日本の伝記ってきれいごとばかりなので、魯山人ほどの著名な人で悪いことが描かれていると面白いなと思って、まとめてみました。
ただ、魯山人は美食家の面に加えて書道もあるし陶芸もあるし、活躍がすごく多岐にわたって、なおかつ敵を多く作るくらいの毒舌家だったりするんですが、キャラクターがよく分からない。結婚を5回もしている無茶苦茶な状態で、「これ、まとまるのかな?」と思うこともありました(笑)。魯山人が亡くなるまでの1カ月の話として書いたんですけど、これだけの偉人でありながら、最期は誰にも看取られずにひっそり死ぬという孤独な人だったんですよね。なぜそんなことになったのかというところの答えが『愛を乞う皿』というタイトルに込められています。このタイトルによって、魯山人という複雑な人が、ようやく集約できたという感じがあります。
――もともとテレビ番組の演出家として活躍されてきた田中さんですが、近年は『麒麟の舌を持つ男』(2014年、その後『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』として二宮和也主演で17年に映画化)で小説家デビューされて、立て続けに本を出されますよね。
でも、やってることはテレビも小説もあんまり変わらないんですよ。テレビは、フィールドワークで材料を集めてきて、それをいかに面白くバラエティ化するかという作業をするんですが、それが映像じゃなくて文字になったのが小説なんです。
僕は、テレビのスタートが『カノッサの屈辱』(フジテレビ)という番組で、それは事実の歴史にダジャレをうまく乗っけて西洋史や日本史で大げさに見せるというバラエティだったのですが、本を書くのもわりとその作業に似ていて、事実をしっかり持っておいて、それをどういう風に並べるかというところがポイント。ただつらいのは、小説は1人でやる孤独な作業だということ。テレビは週1回の定例会議みたいなところでバカなこと言ってれば、いつの間にか番組ができてる感じなんですけど(笑)
『ラストアイドル』のテイストは…
――そんな中で、今は『ラストアイドル』(テレビ朝日系)で総合演出を担当されていますね。
秋元(康)さんのめちゃくちゃなオーディション番組ですよ(笑)。1本の収録時間が50分くらいで、その中で必ず女の子たちが号泣して終わるっていう他にはないハイカロリーな番組なんですけど、面白いですね。アイドルモノの本も書きたいなと思いました。
――アイドル番組を手がけるのは初めてですか?
はい、全然興味なかったし、詳しくないですから(笑)。でも、秋元さんから「アイドルを『料理の鉄人』テイストで対決させてほしい」というオーダーだったので、やりやすいですね。ただ、アイドルの世界は想像もつかない凄まじい世界でした。秋元さんの作った世界に、今の10代の子たちがものすごい熱を込めて集まってくるから、たった50分の収録でみんなブワーって泣くんですよね。
テレビ番組は1つの"おもちゃ"
――長年テレビの世界に携わっている田中さんですが、今のテレビ業界をどのように見ていますか?
『料理の鉄人』の頃とは制作費も違いますが、今は下の世代の子が本当にかわいそうだなと思いますね。視聴者からクレームがつかないように、細かい作業がとにかく多くて、そういうところにやたらと時間が取られちゃってるんですよ。テレビを作るって、本当はもっと面白いことのに。今回のイベントも、『料理の鉄人』をやっていた頃ADだった子たちがたくさん集まってきたのは、それくらいあの番組を作るのが楽しいと思っていたからですよね。
――制作費の違いも大きいですか?
そうですね。でも、『ラストアイドル』は、深夜番組ながらステージのセットも組ませてもらい、ずいぶん贅沢に作らせてもらってます。僕は、テレビ番組というのは、1つの"おもちゃ"を手にしたような感覚があって、それこそセットを組む時は「これは楽しいおもちゃだなぁ」と思いながら毎週収録に行ってたんですが、今はそんなワクワク感がある番組も少ないですもんね。そういう感じにならないと、出演者も、そして視聴者もワクワクしないんじゃないかなと思います。