「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」が1月6日~3月11日、Bunkamura ザ・ミュージアム」(東京都渋谷区)で開催されている。世界中から絵画や芸術品を収集し、珍しいものが大好きなルドルフ2世は、"好奇心のコレクター"とも称される。その壮大なコレクションのエッセンスが凝縮された世界を体験した。

  • 「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」

    「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」

空から地中まで広がるルドルフ2世ワールド

ハプスブルク家のルドルフ2世はローマ帝国皇帝として君臨しただけではなく、稀代の収集家としてもその名を歴史に残した。絵画や工芸品などの芸術作品から天文道具、鉱物など、幅広いジャンルのものを収集している。

同展の監修を務めたBunkamura ザ・ミュージアムのプロデューサーである木島俊介氏は、あまりにも膨大なコレクションに「ルドルフ2世の巨大な世界をこの小さな空間に閉じ込めることは無謀だったかもしれない」と語った。

  • ギャラリーを歩きながら作品前で解説する木島俊介氏

    ギャラリーを歩きながら作品前で解説する木島俊介氏

コレクションは現在、ヨーロッパ各地に散らばっており、作品の貸し出し交渉もフランスやスイス、スウェーデンなど、多数の国にわたって行われたという。

「ルドルフ2世の時代は領土拡大が盛んで、ヨーロッパのみならずフィリピンにまで至り、各地であらゆるものが集められました。また、天文学へ関心を示したかと思えば、鉱物資源が豊富なプラハでは地中へと興味を広げます。これらをまとめることは無茶かもしれないと思いましたが、たくさんの方の協力を得て実現することができました。

今年はBunkamuraが30周年を迎え、記念イヤーだからこそこうした大掛かりな展示を手掛けられたということもあります」(木島氏)。

  • 天文学に関する書物も展示されている

    天文学に関する書物も展示されている

  • 宝石や貝などを散りばめた豪華な工芸品もずらり

    宝石や貝などを散りばめた豪華な工芸品もずらり

同展では主に、ルドルフ2世のコレクションをシンボライズするものを集めているという。作品の背景や解説がないと分かりにくいものもあるが、ユニークなコレクションの数々は見ているだけでも面白い。木島氏も、「難しいことは考えず、純粋に楽しんでほしい」と語っていた。

世界中から集めた最強のコレクション

展覧会は4つのゾーンに分かれている。まずは「拡大される世界」として、「バベルの塔」(作者不詳)や天文学の教科書、ガリレオ・ガリレイの望遠鏡(複製)などが展示されている。ルドルフ2世の収集の幅が広いこともうかがえる空間だ。

  • ガリレオ・ガリレイの望遠鏡(複製)

    ガリレオ・ガリレイの望遠鏡(複製)

冒頭にはルドルフ2世の胸像や肖像画、ハプスブルク家の略家家系図なども展示。まずはここで、ルドルフ2世について学んでおこう。

  • 凛々しい姿のルドルフ2世の肖像画(左)

    凛々しい姿のルドルフ2世の肖像画(左)

2つ目のゾーンは「収集される世界」で、動植物をモチーフとした作品が並ぶ。ルドルフ2世は動物園や植物園も所有していて、特に馬の愛好家としても知られていたという。ここではお抱え画家たちによる、躍動感あふれる動物画や、季節の花々を集めた絢爛な花の静物画、日本初公開となる自然の博物を主題としたヨーリス・フーフナーヘルの水彩作品などを楽しめる。

  • 「絵画術・素描術の光」シリーズ。ゾウやライオンなど異国の珍しい動物が描かれた

    「絵画術・素描術の光」シリーズ。ゾウやライオンなど異国の珍しい動物が描かれた

  • 動植物を精巧に描くだけでなく、魂の変容などのテーマが盛り込まれている

    動植物を精巧に描くだけでなく、魂の変容などのテーマが盛り込まれている

  • 作中の動物を解説するパネルも。38種全てを見つけられるかな?

    作中の動物を解説するパネルも。38種全てを見つけられるかな?

3つ目は「変容する世界」として、ルドルフ2世のもとに集った宮廷画家たちの芸術作品が集められた。展覧会のポスターにも使われている「ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世」(ジュゼッペ・アルチンボルド)は63種の野菜や花で構成されたユニークな作品。耳をキノコ、口を栗で表現した男の横顔が印象的な「秋の寓意」(ジュゼッペ・アルチンボルドの追随者)などもあり、細部までじっくりと見入ってしまう。

  • 近寄ると、顔のパーツが野菜や植物で構成されていることが分かる

    近寄ると、顔のパーツが野菜や植物で構成されていることが分かる

このゾーンでは「寓意」を題材にした作品も多く、写実的な技法に対して神話のように抽象的なテーマの作品がずらり。「ルドルフ2世の治世の寓意」(ディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェスエテイン)には、戦争の神・マルスになぞらえたルドルフ2世が、トルコの擬人像から女性を守る様子が暗喩されている。

  • 「ルドルフ2世の治世の寓意」(中央)に惹きつけられ、しばらく見入っていた人も多い

    「ルドルフ2世の治世の寓意」(中央)に惹きつけられ、しばらく見入っていた人も多い

美しい天使が描かれた「神話画」は、フランチェスコ・マッツォーラ(通称パルミジャニーノ)作のコピー。コピーと聞くと安っぽいイメージがあるが、これはプロの絵描きを派遣して複製させた逸品で、芸術作品としても高い価値を持つ。

  • 当時のコピーはプロの画家によって精巧に再現されたという

    当時のコピーはプロの画家によって精巧に再現されたという

エピローグ「驚異の部屋」は、まるでプラハ城を再現したかのような空間。ルドルフ2世は美術工芸品だけでなく、一角獣(ユニコーン)の角のごとく偽装されたトンデモ品など、あらゆるものを一緒くたにして展示していたという。じつはひとつの宇宙を暗喩するものだとされているが、コレクションの数々からそのカオスっぷりを感じることができる。

  • イッカクの牙をはじめとする、不思議な生物の標本もコレクション

    イッカクの牙をはじめとする、不思議な生物の標本もコレクション

ユニークなグッズも要チェック!

出口には特別展示として、フィリップ・ハースの彫刻作品が公開されている。四季をテーマに、植物モチーフで人物を表現したもので、写真撮影が可能。インスタ映えする鮮やかさで、記念撮影をせずにはいられないはずだ。

  • ユニークな模型と記念撮影をしよう

    ユニークな模型と記念撮影をしよう

ミュージアムショップでは公式図録のほか、絶滅したドードーをモチーフにしたトートバッグ(2,500円)などを販売。希少生物の収集にも力を入れていたルドルフ2世は、ドードーまでも所有していたかもしれないと言われている。

  • 幻の鳥「ドードー」をモチーフにしたグッズは普段使いにも最適!

    幻の鳥「ドードー」をモチーフにしたグッズは普段使いにも最適!

  • 帽子ブランド「CA4LA」とコラボレーションしたベレー帽(フリーサイズ7,560円)

    帽子ブランド「CA4LA」とコラボレーションしたベレー帽(フリーサイズ7,560円)

  • 展覧会オリジナルラベルのワイン(カベェルネ・ソーヴィニヨン・1,252円)も販売中

    展覧会オリジナルラベルのワイン(カベェルネ・ソーヴィニヨン・1,252円)も販売中

  • 野菜や花で模られたルドルフ2世が浮かび上がる3Dファイル(550円)も人気

    野菜や花で模られたルドルフ2世が浮かび上がる3Dファイル(550円)も人気

  • 展覧会のキーワードとなるモチーフをあしらったスタンプコーナーも!

    展覧会のキーワードとなるモチーフをあしらったスタンプコーナーも!

同展は、版画を含む絵画作品約80点と、当時のコレクターズアイテムでもあった工芸品や天文道具約20数点、天文学や錬金術に関する貴重な資料など、120点余りの作品で構成される。

「Bunkamura ザ・ミュージアム」の所在地は、東京都渋谷区道玄坂2-24-1。開館時間は10時~18時(入館は17時30分まで)、毎週金・土曜日は21時まで(入館は20時30分まで)。会期中の休館日は1月16日、2月13日のみとなっている。

※価格は税込