烏山駅に停車し、折返し運転に向けて充電中のEV-E301系

JR東日本がJR九州の車両をそのまま採用したのには、訳がある。烏山線や男鹿線を含む蓄電池式電車の走行区間は片道30〜40kmほどで、必要とする車両数は多くない。EV-E301系などは、わずか8両で烏山線の全列車の運用を担っている。

従来から非電化区間で用いられていた車両は気動車(ディーゼルカー)で、例えばJR東日本では、関東、甲信越、東北と全社的に「キハ100・110系」と総称される気動車を使用している。設備投資の面で、スケールメリットが享受できているのである。

男鹿線を走るEV-E801系。車体やシステムはBEC819系と共通する

蓄電池式電車も同じことで、「電化区間と非電化区間をまたがって走る列車」という、もっとも有利となる(充電設備への投資が最小限で済む)投入対象区間に対して、必要となる両数が多くないと、1両当たりの投資額が大きくなる。まず開発費用の抑制を考えるのも当然のことだろう。

BEC-819系も交流電化区間と非電化区間を通して運用することが大きな目的である。増備車の投入後は、電化されている筑豊本線・篠栗線(福北ゆたか線)との直通列車にも充当されている。

非電化区間に「電車」を走らせる意味

JR九州には、非電化区間から主要都市への直通が望まれている路線。あるいは、主要都市の近郊において、交流電化区間と非電化区間を直通する気動車列車が比較的多数、運転されている路線もある。

例えば香椎線(海の中道線)は非電化だが福岡市内を走る区間も長く、通勤通学の利用客が多い。しかし、中心駅の博多へ直通する列車がなく、香椎などで乗り換える必要がある。また長崎〜佐世保間(長崎本線・大村線・佐世保線)や熊本〜三角間(鹿児島本線・三角線)などが、一部が電化、一部が非電化であるため気動車が用いられている例である。

こうした事情から、将来、老朽化した気動車で運転されている列車を蓄電池式電車で置き換えるとしても、かなりの両数が必要となり、スケールメリットもある程度、享受できる目処が立てられそうなのだ。

また、これらは電化設備が、完全に有効活用されていない例でもある。JR発足後、大幅な改良が図られてきたものの、気動車は電車と比べると性能的には劣り、同じ区間で併用すると、電車の運行の"足手まとい"となることもある。

蓄電池式電車の走行性能は、従来の電車に匹敵する。併用しても差し支えはなく、かつ、電化設備も活用できる。その上で、非電化区間へ直通可能という大きなメリットがある。大きな設備投資をせずに輸送の改善が図れ、利便性も向上させることができるのだ。

他の面から見れば、蓄電池式電車は、蓄電池を除けば電車そのもの。制御・走行システムに違いはなく、主要な機器類は共通である。モーターで走る電車と、ディーゼルエンジンで走る気動車と、まったく違うシステムを持つ2種類の車両を抱える必要性が薄れ、電車に可能な限り統合することで、製造コストや保守コストの削減も期待できる。

収益構造の強化・改善が背景

関門トンネルに入る下関行き。直流区間にまたがって走るため、この路線向けの電車が必要である

つけ加えるなら、直流電化されている門司〜下関間の問題も、蓄電池式電車で解決できそうである。この区間は、かつては本州と九州を結ぶ長距離列車の大動脈であったが、今や北九州市の近郊列車が関門トンネルを越えて走る区間へと変貌した。

ただ、小倉方面の交流電化区間と直流電化区間を直通するために、このエリアにだけは特殊な交流・直流両用の電車が必要である。直流電化区間は蓄電池で走行すれば、これを蓄電池式電車で置き換え可能と思われる。

つまりは、保有する車両のタイプを統一し、コスト面の改善を図ることが、蓄電池式電車開発の主眼と見られるのだ。JR九州は2016年に株式を上場して、純民間会社となった。その一方で、地域産業の衰退によって輸送量が大きく減った線区も抱えている。2018年3月17日ダイヤ改正では、会社発足後最大となる117本/日の列車が削減される予定だ。

収益構造の強化こそ、JR九州の喫緊の課題なのである。その一環として、省エネ性能にすぐれた蓄電池式電車が期待されているのだ。