2017年はネット配信ドラマのクオリティとステータスがワンランク上がった印象がある。Netflix、Amazonプライム・ビデオ、Hulu、dTV、FODなどの各社が積極的にオリジナルドラマを制作したほか、脚本家の大家・野島伸司が本格参戦するなど、明るい話題が多かった。

ここでは「国内制作のネット配信ドラマを全て視聴している」ドラマ解説者の木村隆志が、1年を締めくくるべく「業界のしがらみは一切無視」して、独断でトップ5を選んでいく(配信後に地上波で放送された作品は除く。採点は3点満点)。

※ドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。

■『花にけだもの』(dTV)

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出演:中村ゆりか、杉野遥亮 ほか

寸評:純少女漫画的なラブストーリーとフレッシュなキャスティングで、地上波が背を向けるティーン層を見事に開拓。地上波ドラマを上回るSNSでの爆発的な人気を見る限り、ティーン層にとっては『花より団子』(TBS)と同等レベルのインパクトがあったのではないか。視聴者の年齢性別を選ぶが、ターゲットに向けて思い切り突き刺せるネット配信ドラマの良さが詰まっていた。キャストでは、これまでドラマではクセのある役が多かった中村ゆりかが可憐なヒロインを好演。"イケメン見本市"のような作品の中で、ただひたすらド真ん中でスポットライトを浴び続け、2018年の飛躍を予感させた。

採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 総合☆☆】


■『ガキ☆ロック』(Amazonプライム・ビデオ)

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出演:上遠野太洸、山田裕貴 ほか

寸評:ピッチのいいセリフの応酬が醸し出す、熱い人情と友情、ほどよいセクシーとバイオレンスは、痛快かつ爽快。下町ならではのノリと荒さもロックなムードを醸し出し、1人1人のキャラがエネルギーを放っていた。1話完結の連ドラというより、短編映画を続けて見る感覚に近く、カット割りやアクション、ロケ地、BGM、エンディングの竹原ピストルなど、演出にもこだわりが満載。上遠野太洸、前田公輝、川村陽介、中村僚志らキャストの演技もハマリ、見れば見るほど彼らのことが好きになっていく。見ていて心が温かくなるという意味では、若年層にこそ見せたいドラマ。

採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 総合☆☆☆】


■『山岸ですがなにか』(Hulu)

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出演:太賀、佐津川愛美 ほか

寸評:『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)のスピンオフで、主役を食う活躍を見せた「ゆとりモンスター」こと山岸ひろむ(太賀)の主演作。イライラを超えてむしろ爆笑を誘うトラブルメーカーぶりは健在で、さらに本気の恋を描くことで、怪物の奥に潜む純粋さが引き出されている。舞台はドラマ制作現場だが、本編とのパラレルな展開は、さすが宮藤官九郎の脚本。お約束のツッコミや小ネタを盛り込みながらも、ハッピーなラブコメに仕上がっていた。「太賀と佐津川愛美の2人舞台」と言える作品だったが、地上波のドラマもこれくらいミニマムなものがあっていいのかもしれない。

採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 総合☆☆☆】


■『雨が降ると君は優しい』(Hulu)

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出演:玉山鉄二、佐々木希 ほか

寸評:まさに野島伸司ワールド。「本当に書きたいものを書いた」という言葉にうなずいてしまうほど、「依存症」をキーワードに人間の業をあぶり出し、視聴者に問いかける展開で魅了した。佐々木希は新婚ながらも体当たりで「セックス依存症」のヒロインを熱演。一途に夫を愛す少女の顔と、男を貪る娼婦の顔を演じ分け、当たり役だったと言えるだろう。洋楽の名曲を使った主題歌も含め、1990年代の記憶がよみがえったとともに、壮絶かつ幸福な結末、謎のストーリーテラーを演じた笛木優子の正体などに、野島伸司の2017年版アップデートを感じさせた。

採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 総合☆☆☆】


■『東京女子図鑑』(Amazonプライム・ビデオ)

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出演:水川あさみ ほか

寸評:初回配信は昨年12月で最終回は今年2月と年またぎの作品だったが、軽快なテンポで見はじめたらアッと言う間の最終回。脚本・黒沢久子、演出・タナダユキのコンビが、東京で生きる女性の生態と浮き沈みを生々しく切り取り、各街の特色を楽しむガイドブックとしての機能も兼ね備えていた。ヒロインを演じた水川あさみが、三軒茶屋、恵比寿、銀座、豊洲と、回を追うごとに「成り上がりながらも満たされない」という展開も魅力十分。恋人や友人サイドの心境を含めた「あるある」、毎回異なる都会の美景なども含め、同時期に放送されていた地上波の『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)をはるかに凌駕していた。

採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 総合☆☆☆】


「1話15~30分」で見られる手軽さも魅力

テレビ東京から1週のみの先行放送だったためここでは選外としたが、『さぼリーマン甘太朗』『100万円の女たち』(Netflix)は、上記作と遜色ない仕上がり。地上波の深夜帯とネット配信の親和性が高いことがあらためて証明された。

ただ、前述したトップ5は、地上波、しかもプライムタイムでも放送できそうなものばかりで、「ネットドラマだから過激」という印象はゼロ。実際、セックス依存症を扱った『雨が降ると君は優しい』の性描写、『ガキ☆ロック』のケンカシーンは、過激さよりも美しさや爽快感を優先させていた。視聴率の獲得こそ未知数だが、「表現規制やスポンサー配慮に関してはクリアできるのでは」と感じさせるものばかりであり、民放各局のドラマ班には参考になったのではないか。

今年はAmazon fire TV、GoogleChromeCast、AppleTVなどの普及が進み、ネット配信動画をテレビ画面で見る人が増えただけに、トライアルさえ難しい地上波を尻目にネット配信ドラマはジワジワ浸透していくだろう。

少なくとも今年のネット配信ドラマは、月会費や年会費を支払う価値のある秀作が目立った上に、1話15~30分で見られる手軽さもあるなど、人にすすめたい作品が多かった。まだ未登録の人は、各サービスが提供している無料お試し期間を使ってみてはいかがだろうか。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。