新幹線は在来線と比べて大きくレベルの異なる高速運転を行っている。しかも台車は冗長化ができないので、検修の際にはとりわけ重視される部分である(検修の際に無視してよい部位というものは存在しないが)。

  • 新幹線をはじめ鉄道車両は検査ごとに周期が定められている

そこで、新幹線電車の検査体制についておさらいしておく。検査の種類ごとにインターバルの上限が決まっており、その上限に達する前に検査を行わなければ、(物理的な意味ではなく規定上の意味で)走れなくなってしまう。

仕業検査(48時間以内)

パンタグラフ、台車、自動列車制御装置(ATC)、ドアエンジンといった運転に関わる重要な機器・部位について、目視検査あるいは動作確認を実施する。

交番検査(走行3万kmまたは30日以内)

パンタグラフ、台車、自動列車制御装置(ATC)、ドアエンジン、ブレーキ装置、VVVFインバータをはじめとする主回路機器(主電動機を制御する機器)などの重要機器・部位について、カバーを開けて内部を検査する。また、ディスクブレーキのライニングやパンタグラフの摺板といった消耗品は、使用限度に近づいたものがあれば交換する。このほか、車軸の内部に傷が生じていないかどうかを超音波探傷機で調べる。

台車検査(走行60万kmまたは18カ月以内)

車両をジャッキアップして、台車を外す。その台車をバラバラに分解して、個々の部品ごとに傷の有無を検査したり、消耗品を交換したり、車輪の踏面(レールに接する面)を削正して正常な形状に整えたりする。

検査に時間がかかるため、作業済みの予備台車を用意しておいて、入場した車両の台車を外して予備台車と入れ替える方法を取っている。外した台車は検査や整備を行い、次に入場する編成の台車検査に回す。つまり車体と台車の関係は固定的ではない。

全般検査(走行120万kmまたは36カ月以内)

台車検査と同じ内容に加えて、各種の機器や接客設備について詳細な点検・整備を行う。床下機器は大半を取り外して、分解整備や検査を実施する。接客設備の中には、取り付けた状態のままで検査や整備や補修を行うものもある。このほか、作業を開始する前に車体の気密検査、作業を終えてから車体の再塗装を実施する。

N700系の16両編成は、平均日車キロが2,000km程度。つまり1日平均2,000kmほど走っているという。日によって運用は変わるし、検修に入っていることもあるので、毎日同じペースというわけではない。仮に1カ月に20日間とすると、「2,000km×20=月間平均40,000km」となる。

この数字を先の基準に当てはめると、15カ月で台車検査、30カ月で全般検査といった具合に、距離より先に期間で検査期限が来ることになる。実際には期限ギリギリまで引っ張らないので、もっと早く検査を行っている。

台車検修の内容とは?

筆者は以前に別の仕事で、博多総合車両所で行われている検修の模様を1日がかりで取材したことがある。

台車の検査では、まずショットブラスト処理(小さな粒状の樹脂をぶつける清掃手法)によって表面の汚れを落とした後で、軸箱支持装置を分解してから、台車枠をクレーンで吊り上げて外す。そして、台車枠、主電動機、輪軸、軸箱などといった部位ごとに、それぞれ専門の検修場に送って検査や補修を行う。

台車枠は鉄の塊ではなく、コの字型の板状、あるいは円筒形の鋼材を組み合わせた中空構造になっている。その台車枠は、台車検査や全般検査の際に、歪みや亀裂がないかどうかを検査する。

輪軸は、まず車軸から左右の車輪を外す。これもまた、傷の有無などを検査するが、車輪については踏面を削って形状を整える作業や、バランス取りの作業も行われる。それぞれの作業が終わったら車輪を車軸に組み付けるが、車輪の穴よりも車軸の方がわずかに太いので、荷重をかけて圧入する形になる。

このほか、主電動機、継手、減速歯車装置といったパーツも個別に検査を行う。主電動機に高速で回転する回転子が入っているので、これもバランス取りの作業が必要になる。

台車を構成する部品のうち、外側に面している部分は検査終了後に塗装を行う。そのため、台車検査や全般検査を済ませたばかりの車両は、足回りがきれいなグレー塗装になっている。

当該編成は全般検査から10カ月だった

「それだけ入念な検修を行っているはずの台車枠に、どうして亀裂が生じたのか?」という疑問が生じるのはもっともなことだ。

  • 台車枠の亀裂は側面で約140mm、底面で160mmに達していたという(写真はJR西日本提供)

全般検査を実施した時期と場所は、妻面に標記している。これがいわゆる検査標記で、「のぞみ34号」当該のK5編成では「29-2博総所」とあった。つまり、平成29年2月に博多総合車両所で全般検査を実施している。その後の経過期間は10カ月ほどだから、全般検査の次の台車検査には至っていなかったと思われる。

同じような条件で使われている台車はたくさんあるから、設計上の問題が原因で亀裂が生じたのであれば、同様の問題が起きた台車が他にあっても不思議はない。しかし、そうした問題は発生していないので、亀裂が発生した台車に限って、なにか特別な理由があったと見るほうが自然であろう。

そして当日の朝、運行前に行われた仕業検査で台車枠の状態も見ており、その際には異常はなかったと報じられている。そこで異常がなかったのなら、その後で亀裂が発生、拡大したと思われる。その原因が問題だが、それについては今後の調査結果を待ちたい。